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今さら聞けない「フライボール革命」。プロ野球で実現する可能性は?

2018 5/27 11:00青木スラッガー
Photo by Richard Paul Kane/Shutterstock.com
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アッパースイングで長打を狙う「フライボールレボリューション」

「ヒューストン・ストロング」に沸いた2017年の大リーグ。アストロズは、このシーズンを席捲した打撃革命をいち早く取り入れることで、最強打線を築き上げた。アッパー気味のスイングで打球に角度をつけ、本塁打を量産する「フライボールレボリューション(革命)」である。

2017年、大リーグでは過去最高を400本以上も更新する6105本塁打が記録された。2015年の4909本から2016年は5610本と、前年から本塁打急増の流れが起き、「野球が変わった」と言っても過言ではない。

打撃革命のきっかけになったのは、「変形シフト」と呼ばれる特殊な守備シフトの普及だ。例えば引っ張りが得意な左打者の打席で、遊撃手が二塁ベースよりも一塁側に動き、本来は遊撃手の場所を三塁手が守る。かつて、ごく一部の打者用だったこの守備側の作戦は、データ分析技術の進化より、ここ数年で対象となる打者がぐんと増えた。そこで「ゴロがだめなら」と、フライで長打を狙う打者が増えた。

「フライボール革命」の決定打となったのは、さらなるデータ分析技術の進化だ。「フライを打つことは有効だ」ということを示す、データに基づいた根拠の発見が打撃革命を急激に引き起こした。

「バレルゾーン」発見が新打撃理論の根拠に

大リーグでは、2015年から「スタットキャスト」というデータ測定システムが全球場に導入されている。レーダーなどを用いて、選手やボールの動きを瞬時に数値化するハイテクシステムだ。

多岐にわたる計測データの中で、フライボール革命に関係するのは「打球速度(初速)」と「打球角度」。2つの組み合わせにより、良い打撃結果が出やすいスイートスポットが明らかになった。

このスイートスポットを「バレルゾーン」という。時速98マイル(約158キロ)以上で、角度30度前後。98マイルでは26~30度、99マイル(約159キロ)では25~31度、100マイル(約161キロ)では24~33度と、打球速度が上がるごとに角度が広がり、116マイル(約187キロ)では8~50度がバレルゾーンとなる。

バレルゾーンに入った打球は打率.822、長打率2.386を記録した(2016年データ)。ほとんどがヒットになり、その多くは長打になるという計算だ。フライ狙いにより、長打と同時に確実性(打率)も得られるというのは、ライナー性の打球を理想としていた打者にとって、目から鱗の発見だっただろう。

このデータを根拠としてフライを打つ打撃、具体的には「打球角度30度前後になるようなスイングを身に着けること」に多くの打者が取り組むようになった。こうして起こったのがフライボール革命だ。今後、日本球界にもこの波は訪れるのだろうか。

日本「独自のバレルゾーン」が存在する?

日本球界でも、打球角度・速度などを計測できるデータ測定装置「トラックマン」が急速に普及し、データ革命の土壌は整ってきた。しかし日米両球界には、選手の能力や球場の仕様など、様々な環境の違いがある。

日本では、フライボール革命のきっかけとなった変形シフトが大リーグほど普及していない。加えて、球場はゴロの球足が速い人工芝が主流だ。大リーグと比べ、ゴロヒットに期待できる環境にある。

選手の能力に関しても、やはり日本人選手は外国人選手にパワーで敵わない。バレルは打球角度(フライを打つこと)に、打球速度(パワー)を組み合わせた指標。良い角度で打っても、打球速度が伴わなければ結果は凡フライだ。フライ狙いが有利に働くだけのパワーを備えた選手は、少数のトップ層に限られるのではないか。

ただ、球場のサイズはフライ狙いの打撃と相性が良いように思える。全体的な傾向として、日本の球場は大リーグよりも狭く、外野フェンスが高い。そういう球場ではライナー性より、高い放物線を描く打球の方が本塁打になりやすいという考え方もできる。

環境の違いがあり、日本の野球に大リーグの新打撃理論がそのまま当てはまるとは限らない。メジャーリーガーが練習している「30度前後」よりも上を狙うか、下を狙うか。日本人選手には、まだ厳格な指標がない。もしかすると、日本には「独自のバレルゾーン」が存在し、その発見が打撃革命実現の鍵となるのかもしれない。