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ヘッドスライディングは有効なプレーなのか?

2018 5/3 18:00元井靖行
ヘッドスライディング
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どちらが早いのか

バッターが一塁に早く到達する方法として「ヘッドスライディングが早いか、そのまま駆け抜ける方が早いのか」という議論がある。この議論は論点を絞らないかぎり結論は出ない。ヘッドスライディングか駆け抜けるか、というテーマではこれからも堂々巡りになるだろう。対立軸にある説を見ていこう。

【駆け抜け説】
「陸上競技で使わないということは駆け抜けた方が速いということ」
これはプロ野球OBの福本豊氏がメディアに語ったもので、多くの人に刺さっている説得力のある説である。しかし、陸上競技のゴールは指先や手の到達では認められず、身体の胴体部分の到達をもってゴールと認められるため、そもそもヘッドスライディングが向かないという理由もある。

【ヘッドスライディング説】
「データを集めると選手によってはヘッドスライディングの方が速い」
前述の説を覆すために、これまでに幾度となくタイムの計測が行われている。すると福本氏も認める通り、ヘッドスライディングがうまい選手の場合は駆け抜けるより速いタイムが出る場合がある。

速い、遅いではない?

多くの選手にとって駆け抜けるほうが速い。そうと分かっていながら、なぜ一塁にヘッドスライディングする選手は後を絶たないのか。これにもいくつかの主張がある。

「スピードの問題ではなく、審判へのアピールの為に行っている。」これは以前元阪神OBの亀山つとむ氏がメディアに語ったコメントだ。

「速い遅いではなくアウトになりたくない感情から思わず行ってしまう。」これも野球チームでプレイ経験がある方であれば理解できる心理ではないだろうか。甲子園の高校野球でも、試合のラストプレイで明らかにアウトのタイミングでも一塁にヘッドスライディングするシーンがあるが、これも感情から思わず行ってしまうプレイである。

また、なかなか攻撃で決め手を作れない展開で、ヘッドスライディングから内野安打を決めた時、ベンチのみならず、グラウンド全体のボルテージが急上昇する。それもヘッドスライディングのもたらす副次的な効果なのだ。

いずれの説も、ヘッドスライディングは選手の内面から生み出されるプレーであることを裏付けている。

怪我のリスクを減らすために

この議論はどの方面からアプローチしても、最終的には「どちらにせよヘッドスライディングは怪我のリスクが高いからするべきでない」という注意喚起によって収束する。これがこれまでの堂々巡りのメカニズムだ。しかし、今後ヘッドスライディングが禁止されない限り、なくなることはないだろう。

立命館大学の岡本教授は学会で、技術があればヘッドスライディングは有利であると証明した。その中で「怪我のリスクとは別に、高校野球では(無意識に)ヘッドスライディングをしてしまう選手がいる。指導者はそのための準備をしておくことが必要」と、新たな指導への意識づけを提唱している。

こうした危険回避の指導について新たな議論が発展することは歓迎すべきことだろう。指導者には、例え選手が無意識にヘッドスライディングをしてしまっても、怪我の予防につながる正しい技術を伝えていくことが求められる。