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セガサミー・森井絃斗「社会人野球に来て本当に正解だった」 2020ドラフト候補に聞く

2020 4/21 11:00永田遼太郎
セガサミー・森井絃斗Ⓒ政川慎二(提供:セガサミー野球部)
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Ⓒ政川慎二(提供:セガサミー野球部)

「7~8割の力で全力の投球」

「7~8割の力で全力時と変わらないボールを」

セガサミー・森井絃斗は、2020年のテーマをそう掲げる。

徳島県の板野高から入社し、今年3年目を迎える21歳。ストレートの最速は150キロを超えるも三振を多く獲るタイプではなく、どちらかといえば相手の芯を外し、ゴロを打たせるグラウンドボールピッチャーと言っていいのかもしれない。

昨年は、シーズン初めのJABAスポニチ大会で(JFE西日本戦に)先発し、5回を被安打1無失点に抑える好投。社会人野球の二大大会と呼ばれる都市対抗野球と日本選手権の出場こそ叶わなかったが、夏場には8試合で48イニングを投げ、その間を2失点に抑えるなど経験を重ね、着々とステップアップしてきた。

「真っ直ぐの質だけでいえば、チームの中でもいつもケツ(後ろ)から2~3番目です」

ストレートの回転数はやや少なめで2200前後。回転軸がやや傾いており、空振りを多く獲るタイプとは言い難い。それでも周囲から彼が高い評価を受けるのは、その球質を自分の特性として活かしピッチング全体でカバーできるから。

下半身主導のゆったりとした投球フォームは、腕を鞭のようにしならせ、指先で「バチン」と弾く理想形と言っても良いフォーム。変化球との見分けが難しく、相手打者はそのゆったりとした動きに惑わされ、感覚に差異を生じる。

セガサミー・森井絃斗Ⓒ政川慎二(提供:セガサミー野球部)

Ⓒ政川慎二(提供:セガサミー野球部)


さらに140キロ台のフォークとカットボールを有効に使って、相手のバットの芯を外す様は、さすが社会人野球で2年間、揉まれてきただけのことはある。高校時代からプロのスカウトに注目をされてきた社会人野球屈指の右腕は、セガサミーで過ごしたこの2年間で自身の評価をより高めた。

確かな手応えを掴んだのは、今年2月の宮崎キャンプのことだ。

久峰総合公園野球場で行われた日本経済大学との練習試合。6回から1イニングだけ登板した森井は、2つの三振と内野ゴロ1つの三人で抑える完璧なピッチングを披露した。

「6回の1イニングだけでしたけど三振2つとショートゴロ。自分の中で下(半身)だけ使って、手が後から付いて来る理想的なフォームで投げれました。自分が今年目指している7~8割くらいの力で投げれた感じもありました。『ボールを投げてる』って感覚がないくらいリリースだけ『ぐっ』と力が入る感じで球速は148キロ。それをずっと続けることが出来ました。フォークを投げても142キロ出て、カットボールでも143キロ。

『あっ、これなんだな』と自分の感覚として思う部分はありました」

それは森井の中で目指す投球に一歩近付いた瞬間であり、迷ったときの指標になるような貴重な感覚だった。

投球動作をプレートの幅に収める

今年はブルペンの入り方にも工夫を加える。きっかけは今年からチームのサブトレーナーに就いた本田訓宏の存在。キャンプ初日のブルペンでいきなり150球の投げ込みをした森井に、本田はこんな言葉を投げかけたという。

「いつも投げ込みしているの?」
「なんで150球も投げたの?」

その言葉に森井はハッとさせられた。

「そこで『投げ込みです』と答えたら、『それ怪我するだけだよ』と言われました」

森井自身、ブルペンでも「投げ込み」については、故障防止の観点から少し懐疑的なところもあった。だが、フォーム固めをするための他の方法に自信が持てず、流されるように投げ込みをしている節もあった。

そんな森井に、本田が教示したのは、ピッチングの距離(18.44m)の約半分にネットを置き、5割の力でフォーム固めをする方法だった。スキル別に複数の種類に分かれたネットスローを1日約200球。それをブルペンの代用にするよう助言をした。

「そしたら『怪我もしないし、負担も軽くなるから』と教えていただきました。そこで完成させたものをブルペンで1日60球くらいを目安に。自分の中でも腑に落ちたところがありました」

そこからはブルペンで1日50~60球を目途に、足りない部分をネットスローで補う形に変更した。

「それまではブルペンで150球投げたら、2日くらい空けないとブルペンに入れなかったんです。でも、1日60球くらいなら3日連続で入れるようになるじゃないですか。3日連続でも計180球だし、室内のネットスローも毎日200球くらい投げたら3日で計780球。それで(フォームが)結構固まって来る感覚があります。もちろん3日やそこらでフォームが固まるものではないですけど、自分の中ではそれだけ良い感じで来ている実感があります」

日々の投球練習でチェックするのはそれだけじゃない。

ピッチングフォームもマイナーチェンジを施した。

「狭く投げたいというのが自分の中にあって、たとえばプレートの幅で投球動作の一連の動きを収めたいと思ったんです。プレートが横にあったら、手を前に大きく出したらプレートからはみ出てしまうじゃないですか。だから出来るだけ狭い空間で投球フォームを収めたいと思ったんです。身体がプレートから出たらそれだけ無駄な動きになってしまうので。そういうのはなくそうと、ピッチングコーチの吉井憲治さんにも教えてもらいました。」

その結果、より溜めが作れる理想的な投球フォームが身に付いた。ストレートの最速こそ高校時代とさほど変わらないが、中身の部分では3年前と比べ物にならないくらいの変化だ。

ドラフト指名へ最大のライバルはチームメイト

「自分は地方の学校だったので、(3年前に)社会人野球とか大学野球とか聞かされた時も最初は『はぁ?…』って感じだったんです。全然その世界のことを知らなくて…。それが、昨年までセガサミーの監督だった初芝清さんや、副部長だった撰田篤さんが徳島まで自分を見に来てくれて、『社会人野球でしっかり力をつけてドラフト1位で行ったら絶対にプロで活躍出来るから』と。自分の中でも、あのときプロに行かなくて、社会人に来て本当に正解だったなと思います」

とはいえ、今秋のドラフト指名を受けるにはまずはチーム内競争を勝ち上らなければいけない。先発候補は森井の他にも、彼と同期入社で同級生の飯田大翔(やまと)に、野手から転向し、昨年の日本選手権予選でも先発した草海光貴らの他に、横田哲、東範之などライバルがひしめき合っている。昨年の夏場以降は、草海、飯田、そして森井の三人がエースの座を争っているが、まずはこの中から頭一つ抜け出す必要がある。

森井もその気、十分だ。

「自分で言うのもなんですけど、まだパッとしないので、自分がそこから一個でも二個でも頭抜けて行かなきゃダメだなと思っています。他の人にエースを獲られているようじゃダメだし、今年は自分と同期の飯田大翔もドラフト候補で名前が挙がっていますし、同級生で仲は良いんですけど良いライバルとして。そこに負けないよう自分がエースで一本立ちする気持ちで頑張りたいと思います」

セガサミー・森井絃斗。その進化を示す勝負の1年が始まった。

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