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世界選手権連覇成し遂げた桃田賢斗 強さの原点は小学校時代から打ち込んだ「ヘアピン」

2019 9/5 06:00田村崇仁
東京五輪で金メダルが期待される桃田賢斗Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

日本勢初の世界選手権2連覇

まさに向かうところ敵なしの強さだった。バドミントンの世界選手権は8月25日までスイスのバーゼルで行われ、男子シングルスのエース、桃田賢斗(NTT東日本)が日本勢史上初の2連覇を達成し、来年の東京五輪へ大きな弾みをつけた。

ラリーの応酬では時速400キロ近いスマッシュも目を引くが、世界ランキング1位の桃田の強さを支える生命線はやはりネット際にふわりとシャトルを落とす得意技「ヘアピン」ショット。その描く軌跡が「髪留め」に似ていることからこう呼ばれているが、緩急自在のショットで世界トップ選手が研究してきても付け入る隙を与えない不動の地位を築いた。

スマッシュ速度ⒸSPAIA

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決勝でわずか38分、12失点の完勝

決勝の相手は第5シードのアンデルス・アントンセン(デンマーク)。昨年の大会で唯一、1ゲームを失った難敵だった。だが終わってみれば、試合時間わずか38分で計12失点の完勝。第1ゲームは2-6と離されかけたところから冷静に8連続得点で一気に逆転して21-9で先取し、第2ゲームは21-3と一方的な展開となった。

1年前は粘り強い守備をベースにした戦い方から世界を初制覇し、今年はテーマに掲げるスピードと攻撃面でさらなる強化を図った。ラリーの要所で自陣のネット近くから、相手側のネット際へシャトルを沈める「ヘアピン」を繰り出すことで流れを引き寄せ、甘い返球を誘う。そうなればスマッシュで仕留める。

柔らかい手先で感覚を微調整しながらシャトルの高さや飛距離、角度を自在にコントロールできる強さがある。軽やかなフットワークから正確なショットで我慢強く揺さぶることで、攻め急いだ相手はミスを連発。王者の戦いは最後までぶれなかった。

原点は小学校の遊び

「ヘアピン」の原点は小学校の「遊び」にさかのぼる。3歳上の姉の影響で小学2年から競技を始め、自宅の狭いスペースでゴムひもを張ってひたすら「ヘアピン」を打ち込んでいたという。進学した強豪校の福島・富岡第一中時代は、富岡高の先輩と対戦することが多く、体格で勝る相手に勝つために考えついたのが「ヘアピン」やフェイントで揺さぶる技だった。

針の穴を通すような正確無比のシャトルコントロールと巧みなステップ。意表を突く「ヘアピン」で相手のリズムを崩し、ラリーでコートを上下に使うことで相手の体力を奪えるのも大きい。絶対の自信を持つ技から流れを引き寄せるスタイルは今も息づいている。

謹慎期間で大きく成長

違法賭博問題で無期限の出場停止処分を受けた桃田は、自らの過ちでメダル有力候補だった2016年リオデジャネイロ五輪出場を逃し、積み上げてきたキャリアと信頼を失った。

2017年5月に処分が解除されるまで約1年間の「謹慎中」には社業に携わって社員の働く姿を胸に刻み、被災地にも通って子供たちとも交流。苦手だった走り込みや筋力トレーニングにも取り組み、体脂肪率は4%ほどに減ったという。鍛え上げたスタミナを武器に、長いラリー戦でも力負けしなくなった。足を使った守備から素早く攻撃に転じるスタイルが持ち味となり、技巧派だったプレーは体力面の底上げで一段上のレベルに進化した。

メダル6個の「新お家芸」

日本勢は今回の世界選手権で初の全5種目表彰台に立ち、昨年に並ぶ最多6個のメダル(金2、銀3、銅1)を獲得した。もはや東京五輪へ新たな「お家芸」と呼んでもいいだろう。その先頭に立つのが桃田だ。

世界選手権成績ⒸSPAIA

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1992年バルセロナ五輪から実施競技となったバドミントンはラケットで打った瞬間の初速が球技の中で最も速く、タン・ブンホン(マレーシア)が放ったスマッシュの初速493キロがギネス記録として認定されている。想像以上に激しいスポーツだ。

今大会で桃田は憧れの五輪金メダリスト、林丹(中国)らと共に世界選手権の連覇達成者に仲間入りした。ライバルの石宇奇(中国)やアクセルセン(デンマーク)は不在だったが、世界一までの道が険しいことに変わりはない。昨年9月から世界ランク1位を継続。夢に見た東京五輪で金メダルを視界に捉えるが、あえて目標は口にしない。「最高の結果」を出す前に地に足をつけ、一歩ずつ歩みを進める覚悟だ。

桃田 賢斗(ももた・けんと)2015年は世界選手権3位。違法賭博問題による出場停止処分で2016年リオデジャネイロ五輪に出られなかった。2018年1月に日本代表に復帰。同年世界選手権で日本男子として初の優勝を成し遂げ、今季は全英オープンを制し、ジャパン・オープンで2連覇。福島・富岡高出、NTT東日本。175センチ、72キロ。25歳。香川県出身。