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東京パラリンピックから正式種目のパラバドミントン ダブルス強化がメダルへの近道

パラバドミントンの世界選手権記者会見に登壇した選手とスタッフⒸマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ

パラバドミントンが東京パラリンピックから正式種目

東京2020パラリンピックで、テコンドーと共に“パラバドミントン”が正式種目に採用される。

パラバドミントンの基本ルールは、健常者のバドミントンとほとんど同じ。違うことは、障害の程度によってクラス分けされることだ。「車いす」と「立位」にカテゴリーとして分けられて、障がいの状況でそれぞれクラスを分ける。

【クラス】
・車いす:WH1、WH2
・立位:SL3(下肢障害)、SL4(下肢障害)、SH5(上肢障害)、SS6(低身長)

シングルスの場合、コートは車椅子2クラスと立位カテゴリーSL3クラスが半分を使って行われ、残りのクラスはコート全面を使用する。加えて、車いすカテゴリーは、シャトルを打つ瞬間に胴体の一部が車いすと接しており、ネットとネットに近いサービスラインの間にシャトルが落ちるとアウトとなり、相手チームの得点になる。

ダブルスは、様々な条件でペアを組まれる。ペアを組む上で、基準となるものはクラス分けした際のポイントだ。WH1だと1ポイント、SL3であれば3ポイントのように、アルファベットの次に続く数字がポイントになる。車いす、立位共にコート全面を使用することになるが、車いすカテゴリーはシングルスと同様に、ネットとネットに近いサービスラインの間にシャトルが落ちるとアウトとなり、相手チームの得点になる。

各種目のペアを組む条件は次の通り。

【男子ダブルス】
・車いすは3ポイント以下 (例)WH1+WH2、WH1+WH1
・立位下肢は7ポイント以下 (例)SL3+SL3、SL3+SL4
・立位上肢は10ポイント以下 (例)SU5+SU5、SL4クラスの選手とペアは可能
・低身長は低身長同士 (例)SS6+SS6

【女子ダブルス・ミックスダブルス】
・車いすは3ポイント以下 ※男子ダブルスと同様
・立位は8ポイント以下 (例)SL3+SU5、SL4+SL4
・低身長は低身長同士 ※男子ダブルスと同様

ダブルスの出場権を確保する事がパラリンピック出場への近道

パラバドミントンは、東京パラリンピックで男女14種目が行われる予定で、既に出場権を争う戦いは始まっている。3月のトルコ国際から2020年3月に行われるスペイン国際までの14大会を“東京2020パラリンピックレース”と位置づけし、この間が勝負となる。

直近で、8月20日から25日に、スイス・バーゼルで世界選手権が行われる。世界選手権は、他の国際大会よりもグレードが高い試合と設定されており、ポイントも2倍加算されるので、パラリンピック出場権獲得に大きく影響する。日本は、開催国枠としてパラバドミントンも1枠は確保できる見込み(一部例外あり)だが、実力で出場権を獲得したいところ。そこで重要なのが“ダブルス”のポイントだ。実力でダブルスの出場権を獲得できれば、自然とシングルスでも出場資格を得ることができるのである。

ダブルス練習を実施する上で、課題となっているのが、選手の練習拠点が各地に点在していることである。専任コーチングディレクターである山﨑将幸氏は、合宿に関して「選手のコンディションや日程の都合上、国際大会の直前でしか出来ない」と話す。こうなると、ダブルスペア練習が不足がちになり、試合で実力を発揮することが難しい。山﨑ディレクターは車いす担当コーチでもあり「車いすの選手は、基本的に、西葛西に施設があるので、そこに来てもらっている。平日に仕事で難しい場合は、土日にダブルスペア練習をしている。主に、コンビネーションの練習を進めている」と話す。

パラバドミントンの山崎悠麻選手、里見紗李奈選手、鈴木亜弥子選手の写真Ⓒマンティー・チダ

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立位担当の金正子HCも現状を語った。

「クラスによって動かせる部分や守る場所も違うので、個人で強化するところを少しやってもらっていて、ダブルスのペア練習は、どちらかの拠点に移動して一緒に練習ができる環境を整えている」

ダブルスのペア練習が少ない中で、どのように精度を高めることができるのかが大事である。

「大きな舞台でも自分たちのプレーを忘れない」山崎悠麻

パラリンピックに初採用となるパラバドミントンには、世界を狙う選手たちが揃っている。

まずは、山崎悠麻(WH2クラス)。里見紗李奈(WH1クラス)とペアを組んで世界選手権WH1-2女子ダブルスに出場する。2019年ワールドツアーでは、金メダル5個を獲得するなど、世界でも結果を残す。

2人は昨年9月タイ国際大会で初めてペアを組んで試合に出場した。

「里見選手のシャトルがわからない。お互いにローテーションのタイミングがわからなかった」

山崎は、手探り状態から里見とのダブルス練習が始まったことを明かした。

山崎・里見ペアの持ち味は“ローテーション”と呼ばれるスタイルだ。通常の車いすダブルスでは“サイドバイサイド”という、それぞれがコートの半面を守るスタイル。しかし、WH1クラスの里見が狙われることが多くなるので、WH2クラスの山崎が、里見をカバーしながら試合を進めていく。
※WH2は腹筋ができ、前後に身体を動かせるため、WH1より広い範囲で動くことが可能

「里見にシャトルが集まる中で、どのように私がカバーできるのか。私がシャトルを打つことで、攻撃に転ずることも可能になる」

山崎は、健常者の頃に経験したバドミントンを応用しながら、里見と気持ちを合わせていく。

パラバドミントン山崎悠麻選手Ⓒマンティー・チダ

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ライバルは、“チェアワークの速さが武器の中国”とこれまで“世界ランク1位をキープしてきたタイ”である。タイは、ドバイ国際で中国ペアを下して優勝。世界ランキングも6月10日現在のWH1-2女子ダブルスで1位を獲得している。

「中国勢は対策を練ってくるだろう。今回の世界選手権で、自分たちの立ち位置がわかる。私たちは、楽しく試合ができている時がベストのパフォーマンスを発揮できているので、大きな舞台でも自分たちのプレーを忘れないように、一つでも良いメダルを持ち帰りたい」

山崎はさらに「チェアワークはそれほど早くない」と付け加えた。正確なショットで世界と勝負をし、里見と楽しくプレーができるかも勝敗を分けるポイントになってくるのかもしれない。

「なんとしてもメダルを2つ持ち帰りたい」里見紗李奈

「今はそれぞれスキルを上げている段階。世界選手権で2人が合わさった時、どんな感じのパフォーマンスができるのか楽しみ」

山崎とペアを組む里見は、競技歴1年半で国際大会を制するなど若手のホープと呼ばれて、世界選手権に向けての記者会見では終始笑顔だった。

「悠麻さんとダブルスを楽しそうにやっていると言われるのでそこを見て欲しい」

里見も山崎同様に、ペアの強みとして“ローテーション”を挙げ、アピールする。

「私がダブルスをするときは“悠麻さん(山崎)が一緒だから大丈夫と思っている』と先日悠麻さんに伝えたら、悠麻さんから“私も紗李奈ちゃんが一緒だから大丈夫だと思ってやっているよ”と言ってもらえたので、お互いすごく良いペアだなと思う」

パラバドミントンの里見紗李奈選手Ⓒマンティー・チダ

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ペア結成当初から考えると、里見と山崎の信頼関係は、かなり大きくなったことが伺える。

「なんとしてもメダルを2つ持ち帰りたい。しっかり勝つことが私の目標」

里見は、世界選手権シングルスと合わせて2個のメダルを持ち帰る決意をしている。大きな舞台でどこまで実力が発揮できるのか注目だ。

「L字の動きをマスターしてダブルスの上位に食い込みたい」鈴木亜弥子

SU5クラスの鈴木亜弥子。2010年に一度現役引退したが、東京パラリンピックでパラバドミントンが正式種目となったことがきっかけで、2016年に現役復帰をしている。

「シングルスは優勝、ダブルスは3位」と鈴木は目標を掲げた。そして、ライバルとして、楊秋霞(中国)の名前を出す。「過去の対戦成績は2勝4敗。2018年以降一度も勝利が無い。フットワークを見直して、ヤンに勝ちたい」と決意を新たにした。

2016年に復帰した当初はシングルスのみの出場だったが、昨年9月からは、パラリンピック出場権を確保する上で鍵を握るダブルスにも挑戦。鈴木はSU5クラスのため、SL3クラスの選手でないとペアを組めない。そこで取り組んでいるのが“L字の動き”である。

「パートナーがコート1/4の前を、私が残りの部分を守るという初めてのスタイルでやっている。コーチからアドバイスをもらいながら、コースを変える事、特殊な動きもある中、なんとか3位以内の成績を残している。対戦相手にはSL4同士のペアが多くて、くまなく2人で動いてくる。L字の動きなので、難しいところはあるが、パラリンピック独特なもので楽しい」

こうして、鈴木はパラリンピックレースを心から楽しんでいた。

「シャトルが前衛の真ん中に来た時にどちらがシャトルを取るのかなど課題はある」

シングルスでは実績があるだけに、ダブルスでも確実に出場権を確保しておきたい鈴木。そのために、特殊な“L字の動き”をマスターし、世界の頂点を目指す。

パラバドミントンの鈴木亜弥子選手Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ


日本選手が世界ランク上位で活躍しているパラバドミントン。個人としては、世界で実績を残しつつあるが、メダルを獲得する以前に、パラリンピック本戦の出場権を実力で確保しないといけない。そして、出場権はほとんどをダブルスで争われ、ダブルスで出場権を確保できれば、シングルスも自動的に出場権を与えられて、初めてメダルを目指す舞台に立つ。

その舞台に立つためにも、ダブルスで全種目実力で出場権を獲得できるかがキーポイントになる。

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