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伝家の宝刀「バトンパス」で銅も 東京へ見えたリレー侍の課題

2019 10/7 17:19鰐淵恭市
銅メダルを獲得した(左から)多田、白石、桐生、サニブラウンⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

世界陸上男子400mリレー、2大会連続銅メダル

初の金メダルを期待された「リレー侍」には、収穫と課題を突きつけられた大会となった。

ドーハで行われた陸上の世界選手権男子400メートルリレーで、日本はアジア記録となる37秒43をマークし、2大会連続の銅メダルを獲得した。走力だけで言えば日本のベストメンバーとは言えない中で、これだけのタイムを出したのは十分に価値のあることだ。

一方、これだけのタイムを出しても金メダルに手が届かなかったのも事実。来年の東京五輪で頂点に立つのは決して簡単ではないことも痛感させられた。

キレ欠いた小池…メンバー変更が「吉」に

今回の日本代表は「9秒台トリオ」が話題となった。9秒97の日本記録を持つサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)、ともに9秒98の記録を持つ桐生祥秀(日本生命)と小池祐貴(住友電工)の3人だ。ここに200メートル代表でもある白石黄良々(セレスポ)を加えて予選に臨んだ。1走小池、2走白石、3走桐生、4走サニブラウン。記録は37秒78をマークした。悪いタイムではないのだが、気になっていたのが、小池の走りだ。

9秒98を出した7月のころとは違い、明らかにキレを欠いていた。個人種目でも100メートルこそ準決勝まで進んだものの、昨年のアジア大会を制し、得意としている200メートルでは予選落ちした。「調子が悪い」と判断したコーチ陣は、決勝では1走を小池から多田修平(住友電工)に代えた。これが、2大会連続の銅メダルへの一つ目の要因となる。

多田は典型的なスタートダッシュ型。リレーでは1走のスペシャリストでもある。決勝では、スタートの反応時間が0秒132と1番速かった。そして、スタートだけでなく、メダル争いをする位置でしっかりと2走の白石へバトンをつなげた。面目躍如である。

桐生→サニブラウンのバトンパスも成功

二つ目の要因は言わずもがな、日本のお家芸とも言えるバトンパスのうまさである。 各国のリレーメンバーの100メートルの自己記録(PB)の合計タイムと今回の決勝でのタイムを比較してみた。200メートルを主戦場としている選手はあまり出場しない100メートルのPBが遅いこともあるため、簡単には比較できないのだが、一般的にはこの差が大きければ大きいほど、バトンパスでよりタイムを縮めることができた、つまりはバトンパスがうまいと言える。

自己記録合計ⒸSPAIA

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そして、この差が最も大きかったのは日本で2秒78。日本のバトンパスは世界一なのである。続くのがブラジルの2秒57だが、日本は0秒21も差をつけている。逆に最も差が小さいのは金メダルの米国で2秒11。米国はいつも走力任せといわれるが、今回もその言葉が当てはまる。それでも、金メダルを獲得できるのが、すごいことなのではあるが。

日本のバトンパスがうまくいったのは、蓄積されたノウハウや練習の成果であることは間違いないのだが、ここでもやはり多田の起用が当たっている。

1走の多田は関西学院大出身だが、普段の練習は大東文化大で行っている。2走の白石も母校の大東文化大で行っている。バトンパスに必要な「信頼」が2人の間にはあった。レース後、白石はこう語っている。

「普段から一緒に練習しているんで、心と心がつながって、いいバトンパスができたと思います」

そして、予選ではうまくいかなかった桐生とサニブラウンのバトンパスもはまった。予選では、サニブラウンがおそるおそるスタートし、バトンパスがつまってしまった。そのため、決勝の前に桐生がサニブラウンに対し、思い切ってスタートするように促したのだという。そんな攻めの姿勢も、銅メダルにつながった。

史上最高のレベルとなった今大会

アジア新記録、2大会連続の銅メダルは誇れるものなのだが、これだけの記録を出しても銅メダルなのか、という印象も残ったはずだ。

日本が初めて世界大会(五輪、世界選手権)でメダルを獲得した2008年北京五輪以降の世界大会のリレーの成績をまとめてみた。

過去の400mⒸSPAIA

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日本の37秒43というタイムで銀メダルを獲得できなかったのは今回が初めてである。北京五輪や2年前の世界選手権なら金メダルに手が届くタイムである。それだけ今回がハイレベルだったと言える。

それを裏付ける数字がほかにもある。決勝で38秒を切ったチームの数。今回は2016年リオデジャネイロ五輪と並ぶ最多の「5」だった。さらに言えば、今大会の予選では38秒を切るチームが「8」もあり、メダル争いの常連でもあるカナダは37秒台をマークしながら予選落ちした。以前では考えられないレベルの高さである。

ちょっと前までは38秒を切ればメダルに手が届くと思われていたが、現在は37秒台前半の争いとなっている。

やはり日本にプラスアルファが求められているとすれば、長年言われているように個々の能力のレベルアップだろう。9秒台が3人生まれたとは言え、その状況は変わらない。2番手でバトンを受けながら、英国に抜かれたサニブラウンの言葉が印象的だ。

「あいつ(米国、英国)ら速いっすね」

東京五輪まであと1年弱。リレー侍の挑戦は続く。