一部で「箱根駅伝有害論」
2020年東京五輪のマラソン代表を決めるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)は日本中の注目を集めた。特に最後までもつれる展開に手に汗を握った。ちなみに男子は出場30人中24人が箱根駅伝経験者である。NHK大河ドラマ「いだてん」の主人公・金栗四三が日本のマラソン強化のために生み出した箱根駅伝は実を結んでいるのだろうか。MGCの結果から検証してみた。
陸上関係者の中では「箱根駅伝有害論」のようなものが語られてきた。箱根駅伝の異常な人気が選手を大学で燃え尽きさせ、男子マラソンの低迷になっているというものだ。事実、箱根駅伝の人気が高まってきた2000年以降、日本の男子マラソンは五輪でメダルを取れていない。
しかし、今回のMGC出場者で箱根を走っていないのはわずか6人。その6人のうち高卒は3人(木滑良、宮脇千博、岩田勇治)しかいない。かつては、宗兄弟、中山竹通、バルセロナ五輪銀の森下広一のように高卒が活躍した時代もあったが、今や「絶滅危惧種」。現在は高校のトップ選手のほとんどが箱根を目指して関東の大学に進んでいるのが現状だ。
箱根で強い東洋大、青学大出身が計8人出場
箱根が強化に役立っているかどうかは結論づけられないが、少なくとも箱根に出場するような選手ではないと、その後も活躍できてないのは事実である。今回のMGCで代表内定を勝ち取った中村匠吾(富士通)、服部勇馬(トヨタ自動車)も箱根のスター選手。代表入りの可能性を残した大迫傑(ナイキ)も4度箱根を走っている。
大学別で見ると、MGCに最多の選手を送り込んだのは東洋大で5人(服部、設楽悠太、高久龍、山本憲二、山本浩之)。2番目に多いのが青山学院大で3人(神野大地、橋本峻、藤川拓也)になる。なお、MGCを欠場した一色恭志も青学なので、実際は4人を送り出していることになる。過去10年の箱根の優勝回数を見ると、青学が4回で最も多く、東洋大が3回で続く。箱根での強さと、その後に育っているマラソン選手の強さがリンクしているのが分かる。
エースが走る2区と山の神が登る5区
ところで、箱根では「花の2区」という言葉がある。2区は最長区間(5区の方が長いときもあった)であり、序盤で流れをつくる重要な区間でもある。長らく各校のエースは2区を走ってきた。
しかし、昨今の箱根には「山の神」という言葉もある。標高差864mを上る5区は最もタイム差がつきやすい。そのため、近年では5区の選手に注目が集まり、エースのような扱いを受けてきた。
実際、2004年に創設された大会最優秀選手に贈られる金栗四三杯は5区の受賞者が最も多く、9人になる。2番目に多いのが1区の2人だから、5区の受賞者が圧倒的に多い。今回のMGCにも金栗四三杯受賞者である「初代山の神」今井正人(トヨタ自動車九州)、「3代目山の神」神野大地(セルソース)が出場した。では、MGCに出場した選手は学生時代に箱根で何区を走っていたのだろうか。
MGCの上位3人が箱根を走った時の区間と順位を表したのが次の表になる。
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中村と大迫は1区で区間賞、服部は2区で区間賞をとっているが、5区は走っていない。駅伝は序盤で流れを作れるかにかかっている。そのため、力のある選手は序盤に配置されることが多い。この3人は金栗四三杯を受賞していないが、そういう意味では駅伝の「王道」を走ってきたと言える。
10位までの選手、ならびにMGC出場30人が箱根でどの区間を走ったのかを表したのが次の表になる。
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10位までで見ても、1番多いのは1区と2区の、のべ7人で、5区はのべ2人しかいない。出場30人でみると、一番多いのは2区で、のべ17人となった。次に多いのが3区の14人だった。
もちろん、その時々のチーム事情もあり、必ずしもエースが2区を走るとは限らない。でも、MGCの出場選手を見ると、「花の2区」という言葉は生きていると言える。今も各校のエースは箱根の2区を走り、卒業後もマラソンのエースであり続けている。