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【大迫傑・設楽悠太】常識を覆す⁉独自の練習で結果を出した2人のランナー

2018 3/21 12:00Mimu
大迫傑
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Ⓒゲッティイメージズ

2人の長距離ランナーが陸上界を賑わせている

ドラマ「陸王」(TBS系)が人気になるなど、ここ1年は大いに盛り上がりを見せた日本陸上界。現実の男子マラソンからも、2人のランナーが結果を出している。

ともに1991年生まれの26歳の大迫傑(すぐる)と設楽悠太は、これまで10000mといった長距離の試合で活躍するライバルで、マラソン出場の実績がほとんどなかった。記録を出した2人の練習方法と環境は、常識とはかけ離れたものだった。

世界トップのアスリードに囲まれた環境で練習する大迫

大迫は現在、ナイキ・オレゴン・プロジェクトに所属している。アメリカのオレゴン州に本拠地を置く陸上競技チームであり、世界でもトップクラスの選手しか所属することができない。世界のトップたちに囲まれた環境で練習しているアジア人選手は、大迫のみなのだ。

長野の佐久長聖高校時代に駅伝で結果を出し、早稲田大学に進学。その後も箱根駅伝1区で断トツで区間賞を獲得するなど、日本陸上界のホープだった大迫は、卒業後の2014年からナイキ・オレゴン・プロジェクトに参加する。

しかしこの時、日清食品とも契約を結んでおり、いわば二重在籍の状態だった。2015年に日清食品との契約を解除し、ナイキ・オレゴン・プロジェクトに正式加入。自身の拠点もオレゴン州に移し、プロ選手として活動を始めた。

2度目のマラソン挑戦で早くも結果を出す

ナイキ・オレゴン・プロジェクトに身を置いてから、大迫はさらに見事な走りを見せるようになる。2016年の日本選手権では5000m、10000mの2冠を達成。その2種目でリオ・オリンピックに出場する。

2017年に大迫は、マラソンで陸上界を沸かせる。4月17日、自身初マラソンとなるボストンマラソンに参戦すると、いきなり2時間10分28秒という好記録で3位入賞。さらに12月3日の福岡国際マラソンでは、2時間7分19秒の走りを見せた。これは当時の日本歴代5位となる記録だった。わずか2度目のマラソンで、日本人トップの走りをみせたのだ。

マラソン3度目にして日本新記録を達成した設楽

設楽は、現在Hondaに籍をおいている実業団選手。彼も学生時代から多数の実績を残しており、東洋大学では1年生から箱根駅伝へ出場。双子の兄・啓太とともに、チームを牽引した。

卒業後に入社したHondaでも、チームの中心となって活躍し、2015年の日本選手権では10000m2位、北京で行われた世界陸上の代表にも選ばれた。

2017年2月、東京マラソンに初挑戦すると、2時間9分27秒と好成績を残す。2度目の挑戦となった12月のベルリンマラソンでは、2時間9分3秒と自己ベストを更新。そして、3度目の挑戦となった2018年2月の東京マラソンで2時間6分11秒をたたき出す。これは、高岡寿成が2002年に達成した日本記録(2時間6分16秒)を16年ぶりに更新する大記録だった。

大迫が2度目で歴代5位の記録を出せば、設楽は3度目で日本新記録を出す。これがわずか1年の間に起きた2人の出来事だった。

マラソンの常識を打ち破る練習で結果を出す

タイムだけでなく練習法も、これまでのマラソンの常識を覆すものだ。2人とも練習で40kmを超える距離は走らない。通常マラソンの練習では、40km走を何度も走りながら調整を行っていく。しかし、2人はそういったことを一切やらず、独自の調整法でここまでの記録を打ち立てたという。

これには、彼らなりの考え方がある。例えば大迫の場合、距離にこだわらず質の高い練習にこだわっている。スピード、スタミナ、フィジカル、これらのバランスを考えつつ、マラソンに必要な能力を鍛え上げる練習を行っているのだ。

大迫にとってマラソンは自分との闘いで、周りの選手に左右されず自分のペースを保つことを優先している。目の前の選手がスパートをかけたからといって、無理にそれについていこうとしない。30km、35kmと、その時点での自分のスタミナを考慮し、ペース配分をしているのだ。それが徹底できれば、自ずとタイムがついてくるという。

2人のランナーの登場で東京五輪がますます楽しみに

設楽も練習では30kmまでしか走らない。しかし考え方は大迫と違い、30kmから先は気持ちの問題だという。
ペースを意識して走るのは30kmまでで、そこから先の12.195kmは、技術よりもメンタルで走るのだという。その現れなのか、日本記録を樹立した試合では、ゴール直後に倒れ込んでいた。

また設楽は、最後の10kmに勝負をかける感覚は実践の中でこそ磨かれることだと考え、重視している。実際、東京マラソンに出場する前にも多数レースに出場し、30kmから先に必要なメンタルを鍛え上げてきた。

アメリカと日本に拠点を置いて活動する2人のランナー。その練習法は、今までのマラソンの常識を覆すものであった。しかし、そこには彼らなりの哲学があるのだ。2020年の東京オリンピックでは、彼らの努力が世界中を驚かせてくれるだろう。