全国への予選は一つのみ
実業団女子駅伝が変わっているのは、全国への予選が一つしかないところだ。普通、全国予選と言えば、各都道府県や、ブロックごとに分かれた地域でやることが普通である。
実業団女子駅伝でも、かつてはそうだった。2015年から現行の方式だが、それまでは東日本、中部・北陸、西日本の3ブロックで行われていたし、さらにその前となれば、九州でも行われていた。
ただ、ブロックごとにスポンサーを集めるのが厳しいことや、ブロックごとのレベルが違い、出場したほとんどのチームが全国へ進めるようなブロックもあった。そのため、現行の予選方式になった。
予選会であるプリンセス駅伝から全国大会であるクイーンズ駅伝に進めるのは14チーム。そして、前年のクイーンズ駅伝の上位8チームがシードされているので、全国では22チームが争われることになる。
侮れない予選会
さて、予選会と言えば、シードからもれたいわゆる「二流」のチームが出場すると思われがちだが、そんなことはない。
今回で言えば、2年前まで3年連続日本一だったデンソー、過去7回日本一の三井住友海上、日の丸をつけた選手を擁するパナソニック、積水化学、ダイハツが出場した。さらに言えば、今回のプリンセス駅伝で優勝した豊田自動織機は、昨年のクイーンズ駅伝でたすきの受け渡しでうまくいかずに失格となり、今年の予選会にまわる羽目になった。予選会といえども、侮れない大会なのである。
台風の影響で強風下のレースに
レースは予想通り、優勝候補のパナソニックが1位、積水化学が2位で1区(7キロ)を通過。対抗馬のダイハツがトップと7秒差の5位、豊田自動織機がトップと9秒差の10位と、力のあるチームが順調なスタートを切った。台風の影響で猛烈な風が吹く中でのレースだったが、1区は向かい風。あまりにも強い向かい風のため、差が付きにくい状況ではあった。
2区(3・6キロ)は短いため、大きな変動はなく、パナソニックがトップを堅持。2位も積水化学と変わらず、3位には豊田自動織機が上がってきた。この3チームの優勝争いになるかと思われていたが、最長10・7キロの3区でダイハツが追い上げてきた。
ダイハツの3区は、今夏の世界選手権1万メートル代表の松田瑞生。持ち前のパワフルな足の運びで、10人を抜き、3位に上がった。だが、この区間の区間賞は、4年前に豊川高校で全国高校駅伝優勝を経験しているパナソニックの堀優花。2位に30秒の差をつけたトップのパナソニックが有利な展開に持ち込んだ。
だが、駅伝には状況を一変させる「大砲」のような選手がいる。それが、近年では男女を問わず、また高校生でも実業団でもそうなのだが、アフリカ出身の「助っ人」である。助っ人がいるかいないかは、チームの戦力を大きく左右する。
3区を終えて2位だった豊田自動織機には4区(3・8キロ)にアン・カリンジがいた。だが、パナソニックには助っ人はいなかった。結果、4区を終え、豊田自動織機はトップに立ち、パナソニックは30秒差を逆転されただけでなく、さらに15秒差をつけられて2位となった。
全国への出場権争いは劇的な結末に
駅伝の面白みを凝縮した展開は終盤に待っていた。5区(10・4キロ)の残り2・5キロでパナソニックが豊田自動織機に追いつき、後は一進一退。6区(6・695キロ)ではパナソニックがリードする展開が続いたが、残り600メートルで豊田自動織機の林田みさきが抜き去り、そのまま逃げ切った。林田は区間新の快走だった。
駅伝の面白みはこれだけではなかった。
駅伝の楽しみは優勝争いだけでなく、シード権争いや全国への枠をかけた争いがある。今回は全国大会に行くには14位以内に入ることが必要。そして、最後の最後でその14位争いにドラマが待っていた。
ゴール直前、13位エディオン、14位京セラ、15位三井住友海上という順位だった。ところが、ゴール20メートル前でエディオンの若林由佳がコースを外れて倒れ、失格となる結末。結果、14位に三井住友海上が滑り込んだ。
担架で運ばれる若林と、歓喜にわく三井住友海上。優勝争い以上に、駅伝の過酷さを映し出す光景だった。