今年は「陸王大作戦」
もはや大学駅伝での風物詩となったレース前日での青山学院大.原晋監督の記者会見。毎回、「○○作戦」というキャッチーな作戦をぶちまけ、メディアの注目をさらうが、今回の作戦は「陸王大作戦」。
TBS系ドラマ「陸王」で実業団ランナー役の竹内涼真らに走り方を指導した原監督。作戦名について「陸上競技の王者を目指そうという意味です」と笑いながら話した。あまり大きな意味はなかったが、原監督らしい記者会見だった。
かたや、東海大の両角速監督は「ベストで臨める。目標は優勝」。冗談は言わず、原監督とは対照的な会見だった。
出雲は三大駅伝で最も短いコース
レースのことを話す前に、大学三大駅伝のおさらいを。大学三大駅伝(もしくは学生三大駅伝)とは、毎年10月にある出雲駅伝、11月にある全日本大学駅伝、正月にある箱根駅伝のことを指す。
出雲駅伝は三大駅伝では最も新しく、1989年に始まった大会。前年の3位までがシード校で、残りの13校は各地区学連の推薦という形をとっている。
コースの特徴はとにかく短いこと。大会自体が「スピード駅伝」をうたっているが、6区間で総距離は45.1kmでフルマラソンとほとんど変わらない。最長区間は10.2km。これは箱根の最短区間の約半分しかない。
箱根の場合はだいたい1人で20kmを走らないといけないが、出雲なら高校生の時に走っていた距離で勝負ができる。そのため、出雲は将来性のある1、2年生を起用する大会にもなっている。だから、同じ駅伝と言っても、出雲と箱根とは別ものと考えた方がいいのである。
青学のエースvs東海大の黄金世代
青山学院大は昨年の優勝メンバーが2人で、ともに4年生の田村和希と下田裕太。この2人を昨年と同じく、田村を2区(5.8km)、下田を3区(8.5km)に配置した。残りの4人のうち2人が今年の箱根駅伝の優勝メンバー。経験は十分と言えるオーダーとなった。
東海大は2年生に高校時代から名をはせた選手が一挙に集まり、「黄金世代」を形成している。そして、その黄金世代から5人がメンバーに選ばれた。残る1人も3年生で非常に若い布陣ながらも、3位だった昨年の大会を4人が経験しており、優勝を狙うには十分の布陣だった。
前半は東海大、青学ともある意味思惑通り
駅伝の定石は早い段階でトップの位置を確立することにある。後ろから追いかける展開になると、どうしてもオーバーペースになり、最終的に差が開いてしまう悪循環に陥る。だから、1区(8km)は重用になる。
その意味で、東海大の起用は当たった。阪口竜平がトップでたすきリレー。一方の青山学院大は今年の箱根1区で4位の走りをした梶谷瑠哉を起用したが、東海大に38秒差をつけられ、8位だった。この時点で、東海大の方がかなり有利な状況になった。
だが、青山学院大は前半で必ず有利になれるように、エースの田村を2区、マラソンも走れる下田を3区に配置していた。結果、田村が区間新の快走で3位に順位を上げ、下田でトップに立った。ある意味、青山学院大も原監督の思惑通りにレースを展開していたかもしれない。
2枚腰だった東海大
前半の3区を終えて、青山学院大が先頭。大学三大駅伝の連勝を「5」にのばすかに思えたが、東海大は後半にエース級を並べ、さらに引き離すことができる「2枚腰」の布陣だった。
4区(6.2km)は鬼塚翔太、最終6区(10.2km)は關颯人と、「黄金世代」の中ででも実力のある2人は後半に配置した。さらに5区(6.4km)には唯一の3年生である三上嵩斗。結果的にはこの3人全てが区間賞の走りで、2位の青山学院大に1分33秒の差をつける圧勝だった。
東海大が今季の主役かどうかは判断できない
東海大の優勝で幕を開けた今シーズンの大学駅伝。このまま東海大が今季の主役であり続けるのだろうか。
そう簡単にいきそうはない。これから全日本、箱根とどんどん距離が長くなる上、区間も増えるため、長い距離を走れるスタミナと、選手層の厚さが求められてくる。
東海大の主力は2年生で、箱根の距離への耐性ができているかどうかは未知数である。さらに、両角監督は長野.佐久長聖高の監督だったときから、クロスカントリーを練習にうまく使い、スピードランナーを育てるのが上手だった。それは東海大の指導者になっても変わっていない。だから、出雲は両角監督向きの駅伝でもある。
選手の将来まで考えて指導するなら両角監督の方針は大正解であるが、日本の大学駅伝はそうではなく、スピード以上に距離への耐性が求められる。その意味では、青山学院大はそのノウハウがあり、箱根に適したランナーを育てている。
だからだろう、原監督は出雲の敗戦後、こう言っている。
「全日本、箱根は距離が伸び、区間も多いから、層の厚いうちが有利。2つ取りにいく」
11月の全日本でどうなるのか。楽しみである。