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注目の男子100メートル 頂点に立ったのは「第5の男」

2017 6/26 16:41きょういち
陸上
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Photo by Stefan Schurr/Shutterstock.com


 男子100メートル決勝の10分前に激しい雨が降り始めた。でも、2万人を超える観衆の熱気は冷めることなく、むしろヒートアップしていった。

 6月25日まで大阪で行われていた陸上の日本選手権。日本人初の9秒台が期待される男子100メートル決勝が行われた24日のテレビの視聴率は、13%を超えたという。陸上を取材して10年以上になるが、これだけ注目された日本選手権は初めてだったかもしれない。

 大会前は、10秒01の日本歴代2位の記録を持つ桐生祥秀(東洋大)、同4位の10秒03を持つ山県亮太(セイコー)、昨年のリオデジャネイロ五輪男子400メートルリレーのアンカーだったケンブリッジ飛鳥(ナイキ)、今年に入って急成長した多田修平(関西学院大)の4強の争いだと思われていたが、蓋を開けてみれば「第5の男」の圧勝だった。

「メンツがメンツだったので、楽しみで仕方ありませんでした。(10秒0台を連発したことの自信は)結構ありましたね。スタートがはまれば9秒台行くかな、というくらいのところはありましたが、まあ、まだ難しいですね」

 そう語ったのは、サニブラウン・アブデルハキーム(東京陸協)。ガーナ人の父親を持つ18歳である。

2年前に一躍脚光を浴びる

 予選で自己ベストを0秒12縮める10秒06をマーク。準決勝も同じタイムを出し、決勝では日本歴代6位となる10秒05で初優勝。決勝の前に200メートルの予選を走りながら、100メートルでは3本とも10秒06以内と、そのパフォーマンスの安定度は群を抜いていた。

 それでも、サニブラウンは言う。

 「まあ、スタートが遅れても、そこからしっかり持ち直すことができたのは良かったかな、と思いますが、ちょっともったいないレースでもあったのかな」

 190センチ近い大柄な体をいかし、終盤に向けてぐんぐんストライドが伸びてくる。日本選手権で2位になった多田のような激しい動きはないが、スムーズに前に進む。まだ上半身の動きには粗削りの部分も多く、伸びしろを感じさせてくれる。

 さて、このサニブラウン、知らない人は新星が現れたように思うかもしれないが、彼は2年前に一度大きな注目を浴びている。

 コロンビアで行われた世界ユース選手権で、100メートルと200メートルをともに大会新で制した。200メートルを持っていたのは、あのウサイン・ボルト(ジャマイカ)だった。

 世界選手権にも日本選手史上最年少で出場し、200メートルで準決勝まで進んだ。同年、国際陸上競技連盟が選ぶ新人賞に選ばれた。

 昨年のリオデジャネイロ五輪にも期待が高まっていたが、左太もものケガで代表選考会の日本選手権を欠場。リオでの400メートルリレーの日本代表の活躍は皆の知るところだが、その場にいなかったがために、陸上を詳しく知らない人にはそこまで知られた存在になり得なかった。

人と違うことを恐れない

 小さいころはサッカーと陸上をしていたが、中学からは陸上に専念。当初は成長痛で練習が思うようにできず、記録も平凡だったが、中3ごろから頭角を現し始め、高校生になって一気に世界レベルにまで力を伸ばしてきた。

 冒頭のコメントを見ても分かるのだが、日本選手にありがちな緊張とは無縁であり、ここ一番で強いタイプ。誤解を恐れずに言うなら、いい意味でメンタルが通常の日本人とは違っているような気がする。

 ハーフの日本人が増えてきたとはいえ、ガーナ人の父を持つサニブラウンはどうしても目立ってしまう。そんな中、家庭の方針は「周囲に流されず、自分の決めたことをやり抜く強さを持つ」ということだという。

 だからだろう、サニブラウンは人と違うことを恐れない。例えば高校3年生の時のインターハイ。紫外線対策が疲労軽減につながることから、レース中もサングラスをかけて走った。「高校生にサングラスはふさわしくない」という声も聞かれたが、意に介さなかった。競技場近くに休憩のための部屋を借り、自転車で競技場との行き来するのも異例のことだった。

 高校卒業後は米国のフロリダ大学へ進学。わずか18歳ながら、海外を拠点にトレーニングをし、海外のコーチのもとで学ぶのもあまり聞いたことがない。とにかく、いい意味で前例とかにはとらわれないタイプである。

 そして、海外の競合と練習する中で力をつけてきた。それは自身も実感している。

 「最初の3~4歩は以前より、速くなっています。最初の3歩を速くするには脚が流れたらできないので、そういったところも含んでのことで、今年少しずつ成果になっています」

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