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注目の日本選手権男子100メートル 9秒台に挑む4人<4>

2017 6/21 14:23きょういち
陸上
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出典 nuwatchai srikrungplee/Shutterstock.com

注目の日本選手権男子100メートル 9秒台に挑む4人<3>



 リオデジャネイロ五輪男子400メートルリレーのアンカーを務めた男は、完全に主役の座を奪われていた。

 6月4日に鳥取市で行われた布勢スプリント。国内では広島市の織田記念と並んで100メートルの記録が出やすいと言われる大会である。

 追い風1・9メートルとこれ以上ない好条件のもと、記録は10秒12。今夏にロンドンである世界選手権の参加標準記録には届いたものの、自己ベストには0秒02及ばなかった。

 何より、本来は200メートルが専門で、リオ五輪男子400メートルリレーの2走を務めた飯塚翔太(ミズノ)に敗れた。自己ベストも飯塚に抜かれ、100メートルを主戦場とするスプリンターにとって、立場はなかった。

 レース後のコメントは「つまずいた」。序盤での出遅れに納得がいかなかったようだった。

プロ1年目のケンブリッジ

 ケンブリッジにとっては、今年は勝負の年でもある。

 昨年12月、当時の所属先であり、アンダーアーマーの日本総輸入代理店であるドームを退社し、プロ選手となった。今年2月にナイキと契約。自分の走りがそのまま収入に直結するのがプロだ。5月のゴールデングランプリ川崎の記者会見では「結果を残していかないといけない、という気持ちが強くなった」と語っている。

 ケンブリッジにとって、今年はスプリンターとしての地位を確立するための年でもある。

 ジャマイカ人を父親に持つケンブリッジのポテンシャルは以前から高く評価されていた。一般的には桐生祥秀(東洋大)と山県亮太(セイコー)の2人の9秒台を争いと見られていた3年ほど前から、関係者では「ケンブリッジが最初に9秒台を出すのではないか」とも言われていた。

 ただ、日本大時代はケガも多く、かつ、勝負弱くて一般的にはあまり名前が知られていなかった。それが一変したのが、昨年の日本選手権。持ち前の終盤の爆発力で桐生と山県をかわして日本選手権初優勝。リオ五輪の切符を手に入れた。

 今季、追い風5メートルを超える中で9秒98をマークしたとは言え、自己ベストは10秒10で日本歴代10傑に入っていない。安定感も爆発力も、桐生や山県に比べてまだまだ。さらにプロ1年目。日本選手権では勝つことと記録の両面でスプリンターの地位を確立する必要がある。

 後半の力はライバルをしのぐだけに、前半でどれだけ食らいつけるかにかかる。そして、ライバルに比べて最もパワーのある走りができる。昨年の日本選手権のように、向かい風、雨という悪条件になると、勝てる要素が増えてくる。

 NHKのインタビューでケンブリッジはこう答えている。

 「終盤で勝つ」

 イメージはできている。

新星、西から現る

 6月10日に平塚で行われた日本学生個人選手権。関西学院大3年の多田修平は観客を2度驚かせることになる。

 1度目は予選。追い風4・5メートルに乗って9秒94をマークした。参考記録とはいえ、日本選手が電光掲示で9秒台を出すのは史上初だった。

 2度目は決勝。こちらも追い風1・9メートルに乗り、自己ベストを一気に0秒14も短縮する10秒08をマークした。これは朝原宣治氏が持っていた10秒19の学生記録を24年ぶりに更新するものだった。一躍、9秒台を狙える選手として注目を浴びるようになった。

 関西では知られた存在だった。大阪桐蔭高から関西学院大に進むと、関西インカレを1年で制覇。2年生になって10秒3台にまで自己ベストを伸ばしていた。

 足の回転が速く、とにかくスタートダッシュが速い。2月の米国合宿で、アサファ・パウエル(ジャマイカ)と練習し、鋭い飛び出しを身につけた。5月のゴールデングランプリ川崎では、リオ五輪男子100メートル銀メダリストのジャスティン・ガトリン(米)を中盤までリードし、ガトリンに「あれは誰だ」と言わしめた。

 ももを高く上げ、地面にたたきつけるような走り。男子400メートル日本機保持者の高野進は、解説者を務めるスポーツニッポンの紙面で、こう語っている。

 「とにかくトラックへの接地力が強く、さらにそこから足を畳んで伸ばす動作が実にうまい。加速段階に入るまでの技術も申し分ないし、まさに追い風が吹くと乗れるタイプのスプリンターと言える」

 多田は日本選手権に向けて、こう意気込む。

 「表彰台に上がりたい」

 決勝が行われる24日に、多田は21歳の誕生日を迎える。