男子マラソンの現状と箱根の関係
男子マラソン日本歴代5位までのリストが以下の通りです(※は箱根経験者)。
①高岡寿成 2時間6分16秒 2002年
※②藤田敦史 2時間6分51秒 2000年
③犬伏孝行 2時間6分57秒 1999年
※④佐藤敦之 2時間7分13秒 2007年
⑤児玉泰介 2時間7分35秒 1986年
このうち、箱根経験者は藤田と佐藤だけ。日本記録保持者の高岡は龍谷大学卒ですが、関西の大学ですので、箱根の経験はありません。犬伏と児玉は高卒の選手です。
確かに日本記録を持つ高岡をはじめ、半分以上は未経験です。これを上位20位まで広げる、以下の通りになります。
※⑥今井正人 2時間7分39秒 2015年
※⑦谷口浩美 2時間7分40秒 1988年
※⑧藤原新 2時間7分48秒 2012年
⑨油谷繁 2時間7分52秒 2001年
⑨国近友昭 2時間7分52秒 2003年
※⑪諏訪利成 2時間7分55秒 2003年
⑫伊藤国光 2時間7分57秒 1986年
⑬森下由輝 2時間7分59秒 2001年
⑭前田和浩 2時間8分0秒 2013年
⑮三木弘 2時間8分5秒 1999年
⑯早田俊幸 2時間8分7秒 1997年
※⑰松村康平 2時間8分9秒 2014年
※⑱藤原正和 2時間8分12秒 2003年
※⑲川内優輝 2時間8分14秒 2013年
⑳中山竹通 2時間8分15秒 1985年
上位20人のうち、9人が箱根経験者とやはり過半数を超えません。ちなみに川内は学連選抜としての出場なので、微妙な立ち位置です。
半分以上が箱根未経験者なので、箱根から世界へ、というのはなんとなくうそ臭く思えるのですが、ただ、断定するのも短絡的のような気がします。
20世紀の記録が多く残る男子マラソン
それよりも問題はなのは、箱根人気が過熱した2000年より前にマークされた記録が、上位20のうちに七つもあることではないでしょうか。
今井が「山の神」としてもてはされ始めたのが2005年ですが、それよりも前の記録となれば、上位20のうち15も占めます。逆に言えば、2005年以降、上位20位に入った記録は五つしかありません。上位5位には一つもありません。
それでは、近年の箱根経験者は力が落ちているのかいえば、そうではありません。5000メートルや1万メートルの記録などを見れば、力は上がっています。
初代「山の神」である今井が、苦しみながらも地道に結果を出し、日本歴代6位の記録までたどり着いたことを考えても、箱根ランナーのポテンシャルは十分にあると思うのです。
では、何が問題なのか。もしかしたら、マラソンや実業団に魅力がないのかもしれません。もちろんそれは、箱根人気の裏返しでもあります。
実業団でいくら活躍しても、そう簡単には箱根の時のような注目を浴びません。最も注目を浴びるはずのニューイヤー駅伝でさえ、箱根には遠く及びません。
マラソンはと言えば、苦しい練習が続き、けがとも隣り合わせ。アフリカ勢の台頭によって、五輪、世界選手権で上位に入るのは至難の業ですし、その他のレースでも優勝どころか上位3人に入るのも難しい状況です。マラソンではなかなかお金を稼げないし、しんどい練習ばかり。だから、けがのリスクの少ない駅伝に特化しますし、マラソンを走ってもかつての名ランナー瀬古利彦の練習量にも遠く及ばない。だから、マラソンの記録が伸びなくても、仕方がないのかもしれません。
ここが箱根とよく比較される高校野球との違いかもしれません。
球児の多くはプロに行くことが究極の目標になっています。近年では大リーグまで夢が広がっています。高校で辞める子もいますが、「甲子園出場が目標」という球児も、甲子園は通過点としてとらえています。プロの世界に魅力があるのだと思います。
かたや長距離を走る子の多くは「箱根が目標」と言って、「マラソンで五輪出場」とは言わないような気がします。結局、箱根より先に魅力がないのではないでしょうか。
昨年3月に25歳で引退した箱根の人気ランナー、出岐雄大が言った言葉が思い出されます。
「箱根以上の目標を見いだせなかった」
柏原は犠牲者なのか
話を最初に戻しましょう。柏原は箱根の犠牲者なのか。
筆者はそうは思いません。箱根以上の魅力を提供できない日本陸上長距離界。その犠牲者なのだと思います。