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大阪国際女子マラソン、今年も解説務める高橋尚子氏「選手たちが抱えている思いに色付けできたら」

2023 1/29 06:00SPAIA編集部
高橋尚子氏,Ⓒカンテレ
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Ⓒカンテレ

高橋尚子氏の注目選手は?

29日に開催される第42回大阪国際女子マラソン(正午からカンテレ・フジテレビ系で全国生中継)で、今年も解説を担当する高橋尚子氏(シドニー五輪・金メダリスト)が今大会の見どころを語った。

2024年パリ五輪に向け、2023年10月に行われる代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の前哨戦で、MGC出場権を持たないランナーにとっては出場切符獲得を目指す大会。さらに、ブダペスト世界選手権(2023年8月)の代表選考レースでもあり、2時間23分18秒の派遣設定記録を突破したランナーは代表候補となる。

まず、注目選手としては「やはりMGCの出場権を獲得している安藤友香選手(ワコール)、上杉真穂選手(スターツ)、佐藤早也伽選手(積水化学)が中心になってくると思います。(27日に行われた招待選手の記者会見で)表情や声の張りを見ていると、特に安藤選手や上杉選手がすごく良かったように感じました」と3選手の名前を挙げた。

「ただ、表情や自信に満ちた声も大切ですが、第一はすべての練習をこなせてきたと思える気持ちです。ケガや不安が少しでもある人は、それが試合に直結することが多かったと思います。今回の記者会見で並んだ選手のほとんどが“すべての練習をできました”と言っていたので、今大会のものすごく楽しみなところになります。それぞれの選手にテーマがあって、目指すところは違いますが、(今大会が)背景や思いが形になる瞬間になってくれたらいいなと思っています」と話した。

安藤選手については「初マラソンから6年、ずっと苦しい思いをしてきました。他の種目で自己ベストを更新しているにもかかわらず、初マラソンの記録(2時間21分36秒で初マラソン日本人最高記録『名古屋ウィメンズマラソン2017』)に縛られている部分がとても大きいので、今大会が真の意味で解き放たれて一歩を踏み出せる機会であってほしいなと思っています」と語った。

続けて、「安藤選手は海外選手を意識しながら積極的にレースを進めていくと思います。そして、佐藤選手が安藤選手をマークしながら走ると思うので、そのような展開になったときは我慢比べになるでしょう」とレース展開を予想した。

「上杉選手には爪痕を残してほしいです」

その佐藤選手については「昨年9月の『ベルリンマラソン』で自己ベストを更新し、自信をつけたと思います。そこから練習を重ね、スピードが上がったという手ごたえも感じているようなので、流れに乗っている自信を形にできるタイミングなのではないかなと思います。話しているときはおっとりしていますが、人一倍負けず嫌いだと言われています」と明かした。

また、上杉選手については「私が社外取締役を務めている“スターツ”の一員ではありますが、それを度外視しても、毎回チャレンジ精神があり積極的なレースを走るので、本当にワクワクするマラソンを見せてくれます。この1年間は“タイム”よりも“勝負”にこだわったところを含めて、これまで彼女が自分よりも速いレースについていく姿に本当にワクワクさせられました。

今大会では、初めて先頭に立つ瞬間やペースを変える瞬間が見られるのかもしれないと思うと、やはりすごく楽しみです。そういった選手がレースを変えるような動きをすることで、他の選手への刺激にもなるのではないかなと思っています」と期待を寄せた。

さらに、「上杉選手には爪痕を残してほしいです。どの大会でも存在感を出した人は、その後も強い選手になっています。少しの間でも自分が主導権を握ったり、レースに変化を加えたりする能力は次につながると思います。これまで必ずテーマを持って、1つずつ殻を破ってきた上杉選手だからこそ、今回は主導権を握ってペースを変化させるところを一瞬でも見られたらいいなと期待しています」と話した。

外国人選手の招集やコース変更の影響は?

今月15日、アメリカで開催された『ヒューストンマラソン』で、新谷仁美選手(積水化学)が2時間19分24秒の日本歴代2位の好記録で優勝。

高橋氏は「ここ数年、選手の実力は本当に上がってきていて“春を前に芽が花を開く”そんな瞬間だと思います。新谷選手が開花したことによって、次から次へとそこに続く選手が増えることを期待しています。記者会見でも、招待選手は(新谷選手に)刺激を受けたとお話ししていたので、新谷選手の記録を身近に感じて“自分にもできるんだ!”と思って挑んでもらいたいです」とコメントした。

中でも応援している選手を聞くと「安藤選手とは同じ岐阜県出身で、佐藤選手は私もかつて所属していた“積水化学”で、私がいま関わっている“スターツ”には上杉選手がいて…3人ともに思いがあるので、皆さんに頑張ってほしいなと思います」と笑顔を見せた。

また、今大会では様々な変化が見られる。まず、3年ぶりに招集する外国人選手については「海外の選手が入ってくると、いずれケニアやエチオピアの強豪国の選手と戦わなければならないことを、本人たちも実感すると思います。日本国内だけではなく、五輪や世界陸上など、世界に向けての目線になるということがすごく大きいのではないかと思います」と話した。

そして、第30回大会(2011年)以来12年ぶりにコースも変更。「20km地点過ぎに上り坂があるのは、選手たちにとって1つの不安材料であり、第一関門という思いもあると思います。マラソンは必ず、徐々にきつくなるのではなく、10kmや15kmなどどこかの地点で苦しい場面が出てきます。そういったタイミングで上り坂があると、心身ともにネガティブになる可能性があるので、そこはうまく乗り切ってもらいたいなと思います。

ペースメーカーが、上りは抑えて下りで速まるなど同じペースで進めなかったときに、(ペースメーカーと)走り方や感覚が似ている選手であれば楽ですが、そうでない選手にとっては苦しさを感じる場合があります。そこのリズムをうまくつかめるかというのがポイントだと思います」と見解を述べた。

生中継での解説へ意気込み

今年は沿道の応援も復活。「私も『大阪国際女子マラソン』を走りましたが、レース後半で落ちたときは“なにやっとるんや!”とか“前にいけ!”という声援が聞こえてきました。大学4年間を大阪で過ごしたということもあり、身近な存在として声をかけてくださいました。

大阪は叱咤激励が本当に熱く、背中を押してもらうことがとても多かったので、応援が復活するのは(選手にとって)すごく大きいことだと思います。大阪城公園内を2回走るなど、大阪の象徴的な場所を通りながら感じる皆さんの応援はすごく励みになると思います」と語った。

高橋氏は、今年も生中継で解説を務める。「マラソンは、42.195kmと長く、見ていてつまらないと思う方もいらっしゃると思います。ただ、選手の位置取りひとつをとっても、実はスタートしてから自然とそこにいたわけではないことが見えてきます。

たとえば、野口みずきさんは給水を失敗しないように一番左端の前で走ると決めていたり、伊藤舞選手(大塚製薬)は少し集団と離れてでも必ず平坦な道を選んだり、佐藤早也伽選手は人に囲まれたくないから集団と少し距離を置いたり…それぞれの選手によって違います。なので、選手たちがなぜその位置にいるのかを想像して伝えることによって、視聴者の皆さんにはレース前半から楽しんでいただけるのではないかなと思います」とベテラン解説ならではの“技”を明かした。

今年も解説には女子陸上界のレジェンドが並ぶ。「みんなが一堂に会する機会が『大阪国際女子マラソン』しかないので、同窓会みたいで楽しいです(笑)。先輩である増田明美さんや有森裕子さんから、今年加わる福士加代子さんまで、色々なマラソン選手がいます。マラソンで感じることは選手それぞれで違っているので、選手が何を考えているのか1つをとっても正解がありません。

そこで、解説者の様々な思いや考えを聞けることで、視聴者の皆さんにより楽しんでいただけるのではないかなと思います。出場選手は、走る姿を見せることができても、やはり口で喋ることができないので、選手たちが抱えている思いも含めて私たち解説陣が色付けできたらいいなと思っています」と意気込んだ。

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