NFLチャンピオンシップ 過去の名勝負を振り返る
サラリーキャップの時代以前、スーパーボウルは凡戦が多いといわれていた。名勝負はむしろチャンピオンシップにあると。そう、両カンファレンスの決勝戦、NFLチャンピオンシップでは、これまで多くの名勝負が繰り広げられてきた。
そのNFLチャンピオンシップが、今年もすぐそこまで迫っている。そんな今だからこそ過去の名勝負を振り返ってみたい。それはある伝説的なクオーターバック(QB)が手にしたスーパーボウル出場の唯一のチャンスが、最後の最後で打ち砕かれた試合だ。
ランドール・カニンガム モバイルQBの先駆け
ランドール・カニンガム。1985年ドラフト2巡でフィラデルフィア・イーグルスに入団した彼は、その類まれな運動能力で新時代のQBと呼ばれ、マイケル・ヴィックやラマー・ジャクソンといったその後に続くモバイルQBの先駆者となった選手だ。
4度のプロボウル、2度のオールプロに選ばれ、NFLで多くの名誉を勝ち取った彼だが、そんな彼でも手に入らなかったものがある。それはスーパーボウルという舞台だ。
カニンガムが最もスーパーボウルに近づいたのは1998シーズン。怪我に苦しみ一度は引退したものの、ミネソタ・バイキングスのヘッドコーチ(当時)、デニス・グリーンの説得で現役復帰。復帰翌年にあたるその1998シーズンに、バイキングスはランディ・モスという稀代のワイドレシーバー(WR)を手に入れ、彼とカニンガムのホットラインを軸に快進撃をみせる。レギュラーシーズン15勝1敗と圧倒的な戦績を残し、バイキングス攻撃陣の記録した総得点556得点は、当時のNFL記録となっていた。
第1シードとして堂々プレーオフに進んだバイキングスは、ディビジョナルプレーオフでアリゾナ・カージナルスに圧勝。スーパーボウルの大本命としてNFCチャンピオンシップに駒を進める。そしてその試合はやって来る。
1998-99 NFCチャンピオンシップ アトランタ・ファルコンズ対ミネソタ・バイキングス
カニンガムは全盛期といわれたイーグルス時代ですら、一度もスーパーボウルの舞台に立つことはできなかった。それどころか、このNFCチャンピオンシップに登場したのもこの時が初めてである。怪我をし、走れなくなり、一度は引退。そして復帰し、成熟したQBとなり掴んだキャリア唯一のチャンス。しかしそれは残酷な幕切れと共に潰えることとなった。
バイキングスはその攻撃力をこの大舞台でも存分に発揮し、第2シードのアトランタ・ファルコンズから前半20対14とリードを奪う。シーズンで一度も負けなかったホームで、ファンの大歓声の後押しを受けながら、まさしくこれが彼らの勝ちパターンだった。最終クオーターが始まり、その差を10点に広げたバイキングスの、そしてカニンガムのスーパーボウルは、もうすぐそこまで来ていた。しかし運命は暗転していく。
名手ゲイリー・アンダーソンのキックミス
7点差に追い上げられた残り時間2分11秒。バイキングスは敵陣21ヤード地点からフィールドゴールを狙っていた。点差と時間を考えれば、このキックによる3点で試合はほぼ決まる。蹴るのはオールプロ選出のキッカー、名手ゲイリー・アンダーソン。彼はこのシーズン35回蹴って35回成功。ただの一度もフィールドゴールを外していなかった。それどころか最後にフィールドゴールを外したのが2年以上も前のことで、それ以来122回連続でキックを成功させていたのである。
距離は38ヤード。決して難しい距離ではない。加えて風のないドーム球場。彼を邪魔するものは何もなかった。だが、蹴られたボールはポストの僅か左へと外れていく。
ありえない光景を目の当たりにしたバイキングスの選手たちに、気持ちを切り替える間もなくファルコンズが攻撃を畳み掛ける。そして残り試合時間49秒、ワイドレシーバー、マシスの手に吸い込まれたボールの位置は、バイキングスのゴールラインを超えていた。
延長戦に突入することになったこのチャンピオンシップは、フィールドゴールを決めてファルコンズが勝利する。延長戦でのカニンガムのプレーは集中力を欠いていた。ボールをファンブルし、簡単なパスも通らなかった。夢を乗せたボールの軌道がそれていったあのときに、彼の中で試合は終わっていたのかもしれない。
逸れていったボールの先に見たもの
その後3年間フットボールを続け、カニンガムは引退する。引退後はラスベガスでプロテスタント系の牧師となり、神に奉仕する職業へと転職した。それはまるで格下のジミー・ヤングに喫した敗戦後に「神を見た」と述べ、ボクシング界から去り牧師となった元ヘビー級チャンピオン、ジョージ・フォアマンのようでもあった。
あのフィールドゴールが外れたときにカニンガムが見たものは、敗れた夢ではなくフォアマンと同じものだったのかもしれない。