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順当か、それとも波乱か? NFLディビジョナルプレーオフ展望【後編】

2020 1/12 11:00末吉琢磨
左からテキサンズのJJ・ワット、チーフスのパトリック・マホームズ、パッカーズのザダリアス・スミス、シーホークスのラッセル・ウィルソンⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

寒冷地での決戦 NFLディビジョナルプレーオフ

日本時間13日の月曜日に行われるNFLディビジョナルプレーオフ2試合は、そのどちらもが寒冷地で、しかもオープンフィールドのスタジアムでおこなわれる。天候も重要な要素となる、この2試合の展望をお届けしよう。

ヒューストン・テキサンズ対カンザスシティ・チーフス

温暖なテキサス州の、しかも開閉式ドーム球場を本拠地としているヒューストンにとって、カンザスシティでおこなわれるこの試合の相手はチーフスだけではない。平均気温マイナス0.6度と、1月が最も寒いカンザスシティの天候とも戦わなければならない。いや敵はまだいる。シアトルと並び、NFLで最もうるさいと言われるカンザスシティのファンが作り出すクラウドノイズだ。

多くの不利な条件の中、テキサンズが格上と見られるチーフス相手に食らいつくために必要なことはビッグプレーだ。そう、それは前週のバッファロー・ビルズ戦と同様に。

前半何もできず13点差をつけられ、第3クオーターでも再び自陣のゴール前まで攻め込まれたテキサンズ。タッチダウンを決められれば試合が決まってもおかしくない状況。しかしここである男が試合の流れを変えるビッグプレーを見せる。レギュラーシーズン第8週の試合で大胸筋を断裂。シーズン終了と言われながらも、不屈の闘志と共にこの試合で復帰したNFL最強のディフェンスエンド、JJ・ワットによるクオーターバック(QB)サックがそれだ。

それまで成す術がなかったテキサンズは、そのビッグプレーからチームの雰囲気が激変する。ヘッドコーチが現在のビル・オブライエンになって以来、16点差をつけられた試合で0勝22敗と、1勝すらあげたことがなかったチームが、そこから怒涛の反撃。結果、オーバータイムのフィールドゴールでビルズを下すことになるのだ。

テキサンズは勝利のために、再び同様のビッグプレーを見せる必要がある。またビルズ戦を欠場したワイドレシーバー(WR)、ウィル・フラーが復帰できそうだというニュースも朗報だ。彼がいる、いないでは、チーフスディフェンスバック陣に与えるディープゾーンの脅威が全く違う。

対するチーフスは、パトリック・マホームズ率いる爆発的な攻撃によるハイスコアリングな試合展開が望まれる。テキサンズは今シーズンどちらかのチームが30得点以上あげた試合で2勝5敗と、打ち合いに強いチームではないからだ。

だからといって今年のチーフスはオフェンスだけのチームではない。ここ3年間喪失ヤードで24、28、31位と、全く振るわなかったディフェンスが、今年は17位。総失点に至っては7位と、大幅に改善されたからだ。

今年ディフェンシブコーディネーターに就任したスティーブ・スパニュオーロは、セーフティ(S)陣を一新。チームのレジェンドだったエリック・ベリーとの契約を更新せず、ビッグプレーメーカーとして知られるフリーエージェントのタイラン・マシューと契約した。またドラフト2巡でバージニア大出身のフアン・ソーンヒルを指名。コーナーバックもこなせるスピードを持つ彼の加入でマンツーマン守備が安定し、スパニュオーロが好む複雑なブリッツを仕掛けることが可能になった。

ルーキーながら今シーズン全試合に先発したソーンヒルの加入は、チーフスパス守備に大きなインパクトを与えた。それだけに最終週に彼が前十字靭帯を断裂、シーズンエンドとなったことがチームへもたらす影響は少なくない。テキサンズが付け入る隙はそこだ。フラーの復帰が重要な意味を持つと言うのも、まさにその点にある。

シアトル・シーホークス対グリーンベイ・パッカーズ

本来ならディビジョナルプレーオフ屈指のカードになっていたこの対戦だが、シーホークスは攻撃の片翼を完全に奪われた状態でこの試合に臨むことになってしまった。

第14週に2番手のランニングバック(RB)だったラシャード・ペニーを怪我で失ったシーホークスは、2週間後にはエースRB、クリス・カーソンと、ペニーの怪我で2番手に昇格していたCJ・プロサイスの2人をも怪我で失ってしまう。RBで残ったのはレギュラーシーズン僅か3回しかボールをキャリーしたことがなかったルーキーのトラビス・ホーマーだけだった。

シーホークスはチームのレジェンド、マーション・リンチを呼び戻し、プレーオフ初戦にはなんとか勝利するも、リンチは6回のキャリーで僅か7ヤード。ホーマーも11回のキャリーで僅か12ヤードと、1試合平均137.5ヤードを叩き出し、チームの快進撃を支えたリーグ4位のラン攻撃は見る影もなかった。ホーマーのランは軽く、1年以上試合に出ていなかったリンチには1試合走り続けるスタミナがない。

残された片翼、ラッセル・ウィルソンのパス攻撃に頼らざるを得ないシーホークスだが、パッカーズのパスラッシュは強力だ。

シーズンオフにフリーエージェントでパッカーズに加入したラインバッカー、ザダリアス・スミスとプレストン・スミス。この二人のスミスはレギュラーシーズン、それぞれ13.5サックと12.0サックを記録した。チーム史上2人の選手がそれぞれ12.0サック以上を記録したのは初めてのことで、今シーズンのNFL全体でも彼らだけだ。そんな強力なパッカーズのパスラッシュをかいくぐり、果たしてウィルソンはパスを決めることができるのか?

パス攻撃トップ4チーム全てがプレーオフ進出を逃し、逆にラン攻撃トップ4チーム全てがプレーオフに進出を決めた今シーズン。これはNFLがAFLと合併した1970年以降で初めての出来事だった。それほどラン攻撃が席巻した今シーズンを、ラン攻撃を失ったシーホークスはどのように締めくくるのか?結果は月曜日、もうすぐそこまで来ている。