通常、4回目の攻撃はパントもしくはフィールドゴール
4回の攻撃の間に10ヤード進むことで攻撃権を更新していくのがアメリカンフットボールの基本ルールであることは、第1回のコラムで説明した。実は、この「4回の攻撃の間に」というところにアメフトの面白みがつまっている。今回は4回目の攻撃(フォースダウン)に焦点を当てる。
4回の攻撃で10ヤード進むのがアメフトの基本でありながら、実は4回目の攻撃を行うことは少ない。意外に思われる方も多いと思うが、それには理由がある。
もし、4回目の攻撃で10ヤード進めなかった場合、今度はその地点から相手の攻撃になる。敵陣に攻め込んで攻撃権を相手に渡すならまだしも、自陣で攻撃権を渡すことはすなわち、失点を意味する。そのため、3回目の攻撃(サードダウン)を終えて、攻撃権を更新(ファーストダウン獲得)できない場合は、キックにいくことが多い。
自陣にいたり、敵陣にいてもゴールが狙えない位置にいたりする場合は、パントを行う。これは、パントを蹴るパンターと呼ばれる選手がスナップされたボールをいったん手で受けとった後に蹴るものである。パントは相手に攻撃権を渡すことを前提に、ボールを深く蹴り込むことで、相手の攻撃を不利な位置から始めさせることを目的としている。
パントの時、守備側では、ボールを受けるリターナーと呼ばれる選手がパントに備えて深く守っている。リターナーはボールを受けると前進し、陣地を稼ごうとする。逆にパントをした側はタックルで相手の前進を阻もうとする。そして、リターナーがタックルで倒されたり、サイドラインに出たりした場合、その地点からパントを受けた側の最初の攻撃が始まることになる。
敵陣深く攻め込んでフォースダウンを迎えた時は、キックでゴール※を狙うフィールドゴール(FG)で3点を奪いにいくこともできる。FGはボールがスナップされた後、ホルダーと呼ばれる選手がボールを受けて地面に置き、キッカーが蹴るものである。キックが失敗すれば、蹴った位置から相手の攻撃となる。
※ゴールは相手のゴールラインの10ヤード奥にある。高さ10フィート(3メートル)より上にある、幅18.5ヤード(5.6メートル)のゴールポストの間をボールが通過すると、得点が認められる。
「ギャンブル」と呼ばれる4回目の攻撃
4回攻撃できると言いながら4回目はいつもキックで逃げるのか、と言うとそうとは限らない。勝負どころでは、4回目の攻撃を行うこともある。特に、3回目の攻撃(サードダウン)を終えて、ファーストダウン獲得まで1ヤードを切り、あと数インチに迫っている時によく見られる。
この場合はフォースダウンで通常の攻撃を行う。その攻撃を「ギャンブル」、「フォースダウンギャンブル」と呼ぶ。攻撃に失敗し、ファーストダウンを獲得できなければ、その地点から相手の攻撃になる。文字通り、フォースダウンで攻撃を仕掛けるのはギャンブル、賭けなのである。
作戦としては、確実に進むための戦法を取ることが多い。通常は、攻撃を司るクォーターバック(QB)がほかの選手にボールを渡さず、ラインと呼ばれる選手たちとともに倒れ込むように前進を試みる。
もしくは、ボールを受けて走ることを得意とするランニングバック(RB)に渡して、RBがラインの選手上を飛び越えて(ダイブして)、前に進むこともある。守備側もジャンプしてこのダイブを止めようとする姿は、まさに肉弾戦で、迫力満点である。アメフトの映像で大男たちがぶつかり、その上を飛び越えるシーンを見たことがある人もいるかもしれないが、このフォースダウンギャンブルのシーンである可能性が高い。
ちなみに残り数インチの時は、ほとんどがランプレーだが、ランをすると見せて、短いパスをすることもある。ランに見せかけてパスを投げるような、相手を欺くプレーを「フェイク」と呼ぶ。このフェイクが決まった時は、爽快である。
ここぞという時には4回目でも攻撃へ
試合の終盤にさしかかるまでは、フォースダウンでギャンブルするのは、ファーストダウンまで残り数インチのときがほとんど。だが、相手に攻撃権を渡すことは負けを意味する時、例えば、試合終了直前で、数点差で負けている時などは、残りのヤード数にかかわらず、フォースダウンでギャンブルに出る。当たり前だが、勝負の世界なので勝たないと意味がない。パントを蹴ることで負けになることが確定してしまうときは、フォースダウンでギャンブルに出る。
ファーストダウンまでの残りヤード数にもよるが、それなりの距離を残してのフォースダウンはそう簡単には成功しない。ただ、高くない成功率の中でファーストダウンを獲得したときには、攻撃に勢いが出る。アメフトの逆転劇では多くの場合、フォースダウンでのギャンブルに成功している。まさに賭けに勝ち、勝利を手にしているのである。(続く)