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日大三・小倉全由監督が驚いた早実・斎藤佑樹のスタミナ、コロナ禍で情報入らず惜敗

2022 8/29 06:00SPAIA編集部
日大三の小倉全由監督,Ⓒ上野裕二
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Ⓒ上野裕二

4年ぶり18回目の出場を果たした日大三

夏の全国高校野球は仙台育英の初優勝に終わったが、今年もコロナに振り回された大会だった。

4年ぶり18回目の出場を果たした日大三も苦労したことがあった。『コロナに翻弄された甲子園』の著者である小山宣宏氏は、小倉全由監督から聞いたエピソードについて、本書にまとめた内容を抜粋する。

最大のライバルは早稲田実だった2006年夏

コロナ禍によって練習試合が少なくなった結果、他校、とりわけライバルとなる東京の高校の情報が入ってこなくなったのは、大きなデメリットだったと日大三の小倉は語る。

「通常、練習試合を組むときには、東京を除く他の道府県にお願いしています。東京の高校は予選を勝ち抜くうえでライバルとなりますから、そうした学校に対して自分たちの選手の情報を渡すようなことはあまりしたくないのです」

今でも思い出すのは2006年。この年の夏、日大三は優勝候補の一角に挙げられていたが、最大のライバルになると見られていたのが春のセンバツに出場し、ベスト8まで勝ち進んだ斎藤佑樹擁する早稲田実業だった。西東京予選で日大三は2回戦から登場すると順調に勝ち進み、決勝で早実と対戦することとなった。

「春のセンバツでは1回戦で北海道栄を9回完封、2回戦では関西に延長15回を投げて決着がつかずに再試合となり、翌日は3回から登板して残り7イニングを投げ切った。その疲れもあってか、ベスト8では横浜打線につかまって3対13で負けてしまったのですが、斎藤君が投手としてどの程度までレベルアップしたのか、注目していたのです。

早実と対戦した他の道府県の学校の監督さんと連絡をとって、『斎藤君はどうですか?』って聞くこともたびたびありましたし、『土日と連投しているので、夏までスタミナがもたないんじゃないですか』という話を聞くと、そうかと思いながらウチの打撃陣のレベルアップに励んでいたのです」

タフさを兼ね備えた投手に進化していた斎藤佑樹

だが、事前の情報とは反して、斎藤は春以上にタフな投手となっていた。早実には斎藤以上に優れた投手はいない。だからこそあえて斎藤を週末の練習試合で連投させて「投げるスタミナ」を作っていたのだと推測していた。

西東京予選の決勝で日大三が早実と対戦したとき、斎藤の無尽蔵のスタミナに小倉は舌を巻いた。

「普通、夏の予選の場合はイニングを追うごとに投手の球速は落ちてきてしまうのですが、斎藤君は違いました。イニングを追っても球速は落ちないどころか、維持、もしくはそれ以上になるのです。

延長に入ってウチが有利かなと思っていたのですが、延長10回表にウチが1点勝ち越したものの、その裏に早実に追いつかれ、11回裏にサヨナラ負けを喫してしまいました。斎藤君を連投させていたのは、暑い夏の大会を乗り切るためのスタミナ作りだったんだなと、後になって気づいたのです」

実際、延長11回になっても、斎藤は140キロ台中盤から後半にかけてのストレートをビシビシ投げ込んでいた。夏の炎天下の神宮球場のマウンドは、夕方近くの時間帯になっていたとはいえ、体感温度で35度以上はあったはずにもかかわらず、斎藤は衰えを見せない。

三高打線は斎藤の力投の前に文字通り力尽きた。そして斎藤は甲子園で躍動し、決勝に進出。夏3連覇を狙う田中将大(現楽天)擁する駒大苫小牧と延長15回を投げ合い、翌日の再試合で4対3と勝ち、深紅の優勝旗を東京に持ち帰った。

「他校の監督さんから東京のライバル校と練習試合をしたという情報を基に、ライバル校の分析をすることはあります。けれどもコロナ禍の3年間はそうしたことができなかったことは間違いなくありました」と小倉は語っている。

コロナに翻弄された甲子園

Ⓒ双葉社


「一生懸命」の教え方

Ⓒ日本実業出版社


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