伊藤美誠、平野美宇と同じ21歳
アメリカ・ヒューストンで行われた卓球の世界選手権。シングルスでは張本智和が初戦負け、伊藤美誠もベスト8で終わるなどメダル獲得はできなかったが、ダブルスでは若手の活躍が目立った。
初出場の宇田幸矢・戸上隼輔の大学生コンビが男子ダブルスで銅メダルを取ったことも快挙だが、やはり今大会で一番活躍したのは、張本との混合と伊藤との女子ダブルスと、2種目で銀メダルを取った早田ひなだろう。
伊藤美誠・平野美宇と同じ21歳で「黄金世代トリオ」として注目されてきた早田。「卓球は五輪ぐらいしか観ない」という人にとっては、早田は伊藤と平野を追いかけている存在に見えるかもしれない。
リオ五輪では伊藤が代表で平野が補欠、東京五輪は伊藤と平野が代表で早田が補欠だし、全日本の初優勝も平野が16歳、伊藤が17歳に対し、早田は19歳だ。
しかし、今大会前、「日本勢で一番勢いがあるのは早田」と見る声もあったのだ。早田は先月のアジア選手権で日本勢では47年ぶりとなる3冠を達成し、存在感をアピール。国際大会での連勝記録はなんと20を越えていた。ブレイクのタイミングこそ同期2人より遅れたが、ついにやってきた。ここからは「早田ひなのターン」だ。
日本勢には少なかった長身を生かしたパワフルなドライブマン
早田ひなの一番の持ち味は、身長167cmと恵まれた体格から繰り出すパワフルな両ハンドドライブだ。日本では伊藤や福原愛など小柄な選手の活躍が目立ってきたが、ドライブをフルスイングした時の威力は長身の方が出しやすいし、ネット際のボールの処理や大きく左右に振られた時の対応、台から離れた時のドライブの打ち合いなど、長身の選手が有利になる局面は多い。
海外には長身を生かしたパワーヒッターも多く、長い間、中国の絶対的エースとして世界のトップに君臨した丁寧や、今回の世界選手権で優勝し、新たな女王になった王曼昱などがこの戦型にあたる。
色白ですらりとした体格にかわいらしいビジュアルからは想像しにくいかもしれないが、早田の卓球は男子のプレーに近く、大きく体を動かして戦うダイナミックな両ハンドプレーは、これまでの日本の女子選手とは違った見応えがある。
伊藤や平野のようにコンパクトなスイングと速い打点で戦うタイプと比べると、パワーが出る代わりに脚力も体力も必要になるため、早田の卓球には強いフィジカルが求められる。
早田は身長が大きく伸び始めた中学生の頃に今のスタイルに転換しているが、「体力の消耗が激しい分、試合の後半に失速するようになった」と明かしていて、これが他の2人より結果が出るのが遅れていた理由の1つと言える。技術だけでなくフィジカルもジュニアアスリートからトップアスリートに成長したことで、結果がついてくるようになった。
器用さ示す「右利きのサウスポー」
今回の世界選手権で早田は2つのダブルスのメダルを獲得したが、“左利きの早田”はこれまでもダブルスの名手として注目されていた。卓球のダブルスでは、サーブレシーブのコースの都合で左利きが有利になるからだ。
しかし筆者は、単に早田が左だからというだけでなくダブルスにとって重要な適応力を持っているとみている。今回の世界選手権をみても、女子ダブルスで組んだ伊藤はバック表の異質速攻、混合の張本はバックが強いドライブマンで戦型が大きく違うので、ダブルスでの動き方も返ってくるボールも戦術も全く違ったものになる。
さらにワールドツアー・グランドファイナルで優勝した時のパートナーは早田と似た戦型の浜本由惟だし、ドイツオープンで優勝した時は打点の早い平野、先月のアジア選手権で日本ペアとして43年ぶりの優勝を果たした時には勢いのある大学生・戸上と、速攻型と組んでもパワー型と組んでも、前陣と組んでも中陣と組んでも結果を残している。
実は早田は左利きではない。私生活では右利きで、全日本で優勝して中継カメラにサインをした時にもペンを右手で持っていた。どんなパートナーと組んでも結果を残せる器用さは、こういうところからきているのかもしれない。パリ五輪こそはと代表を狙う早田。黄金世代が目指すメダルの色はもちろん金一択だ。
《ライタープロフィール》
福田由香
NHK岡山キャスター、テレビ愛知アナウンサーを経て「羽鳥慎一モーニングショー」（テレビ朝日）で現場リポーターとして活動した経歴を持つ異色のライター。卓球初段。全日本社会人選手権、全国インカレ出場。学生時代は全国国公立大学卓球大会で数々の賞状を手にした。
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