5勝9敗で7位の東京グレートベアーズ
バレーボール男子V1リーグ(1部リーグ)の東京グレートベアーズが、14試合終了時点で5勝9敗と7位(10チーム中)につけている。毎シーズン、秋に始まり春先に終わるリーグ戦だが、東京グレートベアーズが年内で5勝するのは、前身のFC東京バレーボールチーム時代を含めて初めてだ。
過去に、チーム数が8チームから10チーム、レギュラーシーズンの対戦方式が3回戦総当たりから4回戦総当たりに変更されて、試合数が増えていることはある。ただ、シーズンを折り返していない段階で、負けが4つ先行しているとはいえ5勝しているのは新鮮に映る。
FC東京から体制変更して1年目の昨シーズンは、チーム史上初の10勝を挙げた。今後、残り22試合で昨シーズン以上の成績を残せるのか、また、プレーオフ出場の6位以内を達成できるか。一番の鍵は、長年チームに染みついていたメンタリティだろう。
昨年オーナー企業変更で生まれ変わり
東京グレートベアーズは、FC東京バレーボールチームの休部に伴って株式会社ネイチャーラボが2022年4月にチームを譲受し、同年6月に発足した。チーム譲渡の際のリーグ規定により選手スタッフの多くが新チームにそのまま移った。
東京グレートベアーズ(旧FC東京)は、長年トップリーグ(1部)に所属しているが弱小チームだった。8チーム時代は下位リーグとの入れ替え戦の常連で、2018・2019年シーズンからは10チームになったことで、入れ替え戦にこそ行かないものの8位が定位置だった。
ネイチャーラボのもと生まれ変わったチームの1年目は、譲渡時期が遅かったこともあって大きな選手補強をせず、運営側もまずはチームの認知度を高めることを重視していた。有名アーティストや俳優をゲストに呼んだり、人気アニメとのコラボをしたり、選手たちの見せ方を工夫するなど、既存のVリーグチームではあまりやってこなかった取り組みで話題を呼んだ。
東京体育館や有明コロシアムという大規模会場で約8000人集める快挙を成し得ている。チームの強化は二の次という印象だったが、それでも初の10勝に到達した。
今シーズンはリーグ中盤で7位(10チーム中)につけており、早い段階で5勝到達。もちろん対戦相手の巡り合わせがあったとはいえ、長年チームを見続けている者としては何かムズムズする状況だ。
シーズン前には選手獲得に資金をかけるなど戦力を整えてきた。サントリーやジェイテクトで優勝を経験し、日本代表では女性から圧倒的人気のあるアタッカー柳田将洋、経験豊富な日本代表のセッター・深津旭弘を獲得して強化するなど、勝つチーム作りを模索し始めていた。
在籍4年目の武藤鉄也もチームの成長を実感する。
「この時点で5勝って本当になかったこと。チームが変わって、メンバーも変わって、勝っていくチームになっていくためには、FC東京にいたメンバーや他チームから加入したメンバーも含めて一つになって同じ方向に向くことは重要。今までになかったような経験から、勝っていくチームになる過程にいるのはありがたいこと」
深津旭弘、柳田将洋らの加入で徐々に変化
FC東京時代は負け慣れている印象があった。優勝争いするような強豪相手にはあっさり負けたり、良い勝負をしてフルセットまで持ち込めたりしても結局負けることが多かった。
さらに記者目線でいうと、連敗が続いていようが情けない内容の試合をしようが、会見で笑みを浮かべたり、斜に構えた発言をしたり、取材するこちらが心配させられることもよくあった。2018・2019年シーズンに指揮したイタリア人のアレッサンドロ・ロディ元監督は「東京にあるチームということに満足している」と会見で苦言を呈すこともあった。
もちろん責任を感じたコメントをする選手たちもいたが、FC東京全体から受ける印象は”下位で満足するチーム”だった。当の選手たちはそんなつもりは毛頭なかっただろうが、コート上での姿からそう感じられた。
2020・2021年シーズンからは当時日本代表のリベロだった古賀太一郎が移籍加入し、そういった雰囲気を変えられるのかと期待した。明らかに他の選手たちの発言や試合で見せるふるまいなど変わっている部分はあったが、チーム全体から漂う雰囲気は大きく変わっているようには見えなかった。
しかし、昨シーズンから選手全員が社員からプロ契約となり、今シーズンは柳田や深津といった「勝者のメンタリティ」を持つ選手が増えた影響なのか、チームとしての勝利に対する執着がこれまで以上に高まっているように映る。
ただ、古賀は冷静にチームを見つめる。
「物事って裏からも表からも見れる。勝ったから全部うまくいっているわけではなく、負けたから全部悪いわけではない。そこの精度をちゃんとチームに落とし込まないと、負けたから全部が悪となると、チームはどんどん負のスパイラルになる。そういったところが、チームの中で1人、2人、3人と声かけできる選手が増えていけば、どんどん方向性が決まっていく。そこを1人か2人でやっているよりは、勝ってきた選手がどんどんチームに入ってきているので正しい方向にいっているし、(柳田、深津の)2人が加入してくれたことでそこの精度は間違いなく上がる。そこをやり続けることがメンタルがぶれないことになるのかなと思う」
今シーズン加入し、所属したJTサンダーズ広島や日本製鉄堺ブレイザーズでは優勝争いを何度も経験している深津もブレることなく、冷静にチームを見つめる。
「どのチームにもしっかり勝負はできている、あとは20点以降のこの1点とか、最後の局面だと思うし、自分たちが乗り越えていくだけ。どういうボールが取れたら勝てるとか、やっていく中で(チームとして)わかっていけば大丈夫だと思う。(昨シーズンはチームにいなかったので)わからないですが、今シーズンはこれまでの試合で競っている内容が違うから、勝ちきれないけどチームのプラスの部分がある。少しずつ成長できている部分もあり、あと少しだと思っている」
チームのこれまでのメンタリティを変えていけるかを問うと「1人で抱え込むとかではないんで、全員で役割分担をしながら、責任を一人一人もってやれれば、チームも落ち込むこともないので大丈夫です。対戦相手からしたら、心が折れてしまったり、勝負にいく姿勢が落ちてしまったら楽。どういう状況でもチャレンジし続けることが今のチームには重要」と言い切った。
古賀だけでなく、深津、そして柳田といった選手たちの加入が、着実にチームのメンタリティを変えているのは間違いない。
減っているストレート負け
試合の内容も着実に変化している。今シーズンこれまで14試合(36試合中)5勝9敗の中で、0−3のストレート負けは2試合のみ、フルセット負けは3試合。昨シーズンはストレート負けが14試合(36試合中)もあり、フルセット負けは5試合だった。あくまでリーグ中盤の段階ではあるが、少なくともあっさり負けることは減っている。
あと一歩で勝てる要素があったのに勝ち切れなかった試合を、いかに取りこぼさずに勝ち切るか。技術、戦術の部分もあるだろうが、チーム全体のメンタリティの変化は大きな要素だろう。戦力面でも年明けからは、近畿大学の後藤陸翔、早稲田大学の伊藤吏玖といった、東西トップの大学からの内定選手も加わる。
東京グレートベアーズはホームゲームでは、リーグトップクラスの集客力を見せており、さらには年末年始に有明コロシアムでのホームゲームが計4試合続く。少なくとも5000人は超える観客を集めると予想される。
柳田はリーグ序盤の会見で、大勢の東京グレートベアーズファンの前でプレーするモチベーションを話していた。
「(運営が)集客の施策とか色々やってくれている。集客は自分たちがプレーで魅せるかも、ものすごく関係する。バレーボールの魅力というところと集客のところと、僕たち東京グレートベアーズが、東京でやっているからには両輪で回せることが理想。(チームカラーである)ピンクのウエアを着てくれて客席を埋めてくれることは僕ら選手にはすごいモチベーションになる」
それまでの話題先行のチームのままなのか、会場を埋めつくすファン、サポーターの前で勝つ姿を多く見せられる、強い首都のチームとなっていくのか。ある意味、正念場のシーズンではある。
先日行われた天皇杯で優勝したパナソニックパンサーズ、準優勝のウルフドッグス名古屋、世界クラブ選手権で3位の快挙を成し遂げたサントリーサンバーズと現状の東京グレートベアーズを比較すると、まだ少し厳しいかもしれない。
ただ、東レアローズ、日本製鉄堺ブレイザーズ、JTサンダーズ広島、ジェイテクトスティングスといったリーグ中位陣とは戦えるところまで来ている。チームの成長度合いを測る物差しになる相手だろう。
果たしてシーズン10勝を超えられるか。東京グレートベアーズが真価を問われるのはこれからだ。
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