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Jリーグ徳島のダニエル・ポヤトス新監督が味わったスペインでの栄光とギリシャでの挫折

2021 1/20 19:00KENTA
サンティアゴ・ベルナベウⒸAntoine Barthelemy/Shutterstock.com
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ⒸAntoine Barthelemy/Shutterstock.com

1年前からすでに接触

今年7年ぶりにJ1に挑戦する徳島ヴォルティスに、新たなスペイン人監督がやってきた。プロ選手経験のない42歳、ダニエル・ポヤトスだ。2020シーズン、見事にヴォルティスをJ1へ導いたリカルド・ロドリゲス監督が浦和レッズへ移り、その後継者として来日した形だ。

ヴォルティスは2019シーズンにJ1昇格プレーオフ決勝戦まで勝ち上がったものの惜しくも昇格を逃した。しかし、実はヴォルティスのフロントはロドリゲス監督の引き抜きに備え、その時から当時レアル・マドリードU19の監督をしていたポヤトスに接触していたという。つまりギャンブル人事に見えて、実際はかねてからマークしていた人材の招聘に成功したことになる。

「未知の新監督」と日本の意外な接点

ヴォルティスの監督に就任することが発表されるまで、ポヤトスのことを知る者はほとんどいなかっただろう。

2008年からRCDエスパニョールのアカデミーで監督のキャリアをスタートさせた彼は徐々に経験を積み、2014年から2シーズンは強豪アトレティコマドリードのトップチームでシメオネ監督の下、分析を担当。2018年にはレアル・マドリードU19の監督に抜擢された。2020年にはギリシャ3強のひとつ、パナシナイコスでトップチーム監督に初挑戦した。

日本とは全く縁がないと思われたポヤトスは、実は過去に2度来日していた。2014年12月に、なんと徳島で女子中高生70人向けに開かれたパスやポジショニングの講習会に参加。さらに2015年8月には、淡路島で開かれたスペイン流サッカークリニックにゲストとして呼ばれ来日している。ヴォルティスのオファーを受けたのは、そうした経験が背景にあったのかもしれない。

レアル・マドリードU19で見せた無類の強さ

そんな「未知の新監督」はヴォルティスでどんなサッカーを志向するのだろうか。キーワードは「ボールポゼッション」と「コントロール」だ。ポヤトス監督の哲学を最も色濃く表現していたのはレアル・マドリードU19だろう。

彼が率いた2年間、レアル・マドリードU19は無類の強さを誇った。ヨーロッパ全土のユースチームがしのぎを削るUEFAユースリーグでは2年間の合計14試合で11勝1分け2敗、40ゴール22失点。これは有望な選手が集まるレアルマドリードとはいえ素晴らしい数字だ。レアルはどんな戦いをしていたのだろうか。

基本布陣は4-1-2-3。試合途中に守備堅めで5-4-1へシステム変更することはあったが、基本的に4バックは固定。ポヤトス監督は、守備で相手を「コントロール」することを目指す。

相手のビルドアップの形に合わせて前線6人の並びを変形させ、相手と自分たちの力関係をみながら時にはブロックを敷き、時にはハイプレスをかける。いい意味で型がなく、相手に合わせてやることを柔軟に変えていく。

攻撃時は「ボールポゼッション」をベースに相手を押し込む。相手が1トップならセンターバック2人で、相手が2トップならミッドフィルダーが1人降りて3人で、常に数的優位を確保しながら前進していく。

相手が片方のサイドに固まったら一気に逆サイドにサイドチェンジ。この辺りはロドリゲス監督が仕込んだパターンと似ていて、今の徳島ヴォルティスとは親和性がありそうだ。

ギリシャ・パナシナイコスでの挫折

満を持して初のトップチーム監督を務めたパナシナイコスでは、ポヤトス監督は挫折を経験した。

2020年7月に就任してから親善試合を含む7試合で2勝1分け4敗、3ゴール5失点。持ち前の守備戦術は機能し失点は少なかったが、複数得点ができなかったことが引き金となりわずか3か月でクラブを去った。記事では辞任とあったが事実上の解任だった。

パナシナイコスの試合をチェックしたところ、レアルマドリードU19でうまくいっていたことが全くできていなかった。相手にハイプレスをかけられたら選手が諦めて大きく蹴って逃げてしまう。選手が臆病になっているように見えた。

また、選手が戦術を遂行するための時間も与えられていなかった印象だ。辞任発表後、彼はTwitterを更新。「クラブが忍耐を持ってくれなかったのが残念です」とコメントしている。

パナシナイコスは多額の負債を抱え、選手への給与未払い問題もあり、2018年にファイナンシャルフェアプレー違反で3シーズンの間UEFAの主催大会への参加を禁じられており、オーナーが変更となった。そういったクラブ内のゴタゴタがまだ続いていて安定した運営ができていない。

ポヤトスはクラブ事情に巻き込まれ挫折を味わった。逆説的に、そんな彼がヴォルティスを選んだということは、ヴォルティスのフロントを信頼していることの証明とも言える。

いきなり逆境…コロナ禍で来日メド立たず

20チーム中4チームが降格するという史上最も過酷な今年のJ1。徳島ヴォルティスのJ1残留はフロント、選手とサポーターがポヤトス監督をサポートし、ポヤトス監督も選手たちの信頼を掴めるかにかかっているだろう。

モチベーターとしては未知数だが戦術は申し分なく、ポヤトス監督が信頼しているマルセルコーチも共に連れてくることができた。いずれにせよ、ロドリゲス監督が構築した独特かつ合理的な攻撃に変に手を加えず、ポヤトス監督が得意な守備戦術を徐々に仕込んでいくのが良いだろう。

しかし、ここにきて政府の入国制限強化によりポヤトス監督の来日のめどが立たず、1月18日から始まったキャンプに間に合わなくなってしまった。

外国人監督が日本で結果を残すためには、日本人への理解とコミュニケーション、日本の環境への適応が必要不可欠。リモートでコーチと連携しトレーニングを見ているというが、出遅れてしまったことには違いない。チームは逆境を跳ね返すことができるだろうか?

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