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巨人・阿部慎之助二軍監督が大江竜聖と松原聖弥を目覚めさせた言葉

2020 11/21 11:00小山宣宏
巨人の阿部慎之助二軍監督(右)と橋上秀樹氏Ⓒ佐々木和隆
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Ⓒ佐々木和隆

安田学園の先輩・橋上秀樹氏との対談本上梓

巨人の阿部慎之助二軍監督と、12年に巨人の戦略コーチとしてリーグ3連覇に貢献した橋上秀樹氏の対談本『阿部慎之助の野球道』(徳間書店)が2020年9月末に上梓された。

安田学園の先輩・後輩という縁もあり、今回の企画が実現したのだが、「長嶋茂雄・原辰徳のDNA」を受け継ぐ阿部二軍監督と、「野村克也のDNA」を受け継いだ橋上氏という2人の対談は、興味深い言葉の数々で彩られている。

二軍の選手の指導法で気づかされたこと

対談中、橋上氏は阿部二軍監督にこんな言葉を投げかけていた。

「指導していたらわかってくると思うけど、『阿部慎之助』のような器用なバッターは二軍にはいない。これだけは間違いなく言い切れる」

この後、二軍での指導に入った阿部二軍監督は、橋上氏のその言葉の意味を身にしみるほど思い知らされる。「一軍でできて当たり前」だったことが、二軍の選手にはまだまだそのレベルの技術は身につけていないという、当たり前のことに気づかされたからだ。

そうした二軍の若手を指導していくうちに、阿部二軍監督は、「選手のレベルに合わせて声かけをする」ことの重要性に気がついた。

「たとえばピッチャーをA、B、Cの3つのランクに分けたとします。当然ですが、Cランクのピッチャーに対して、Aランクと同じものを求めると酷なんです。そこでCランクのピッチャーに対してはまずは褒めてあげるようにしていました。

『今のイニングはリズムがよかった』
『アウトコースのコントロールがよかったぞ』

この言葉で、Cランクのピッチャーは自信が持てるようになる。1つひとつの技術を積み上げていくことで、技術の向上に加えて、自信が持てるようになっていくんです」

この点については橋上氏も同意する。

「プロに入ってくる選手は、高校、大学、社会人、独立リーグといるけど、高校を出たばかりの選手と、社会人の選手とでは、技術や体力に大きな差がある。それを一緒くたにしてしまうのは、指導者としてやってはいけないことなんだ」

さらに一軍に上がったものの、まったく通用せずに二軍に落ちてきた選手に対しては、

「『なんで二軍に落ちてきたんだ? 何が足りなかったんだ?』とストレートな言葉で、ヒアリングしてあげることが重要なんじゃないかと思いいたりました。二軍に落ちた、だから『みんなで一緒に練習して、技術の向上に努めましょう』では、その選手にとって必要な技術が身につくとは思えない。

二軍の選手を指導するのに必要なのは、個々のウィークポイントに合わせて地道に練習を積み重ねていくこと、それに加えて指導者の根気だということを、あらためて学び取ることができました」

と、阿部二軍監督は力説している。

大江に投げかけた「特徴を作りなさい」という言葉の真意とは

今年、巨人の一軍でブレイクした若手と言えば、昨年その片鱗を見せ、今季は9勝を挙げた戸郷翔征はもちろんのこと、左腕の大江竜聖と外野の松原聖弥の2人も欠かせない。

大江は2016年のドラフト6位、松原は同年育成5位で指名された入団4年目の選手だが、昨年まで二軍暮らしが長かった彼らがなぜ一軍で欠かせぬ戦力となるまでに成長できたのか。阿部二軍監督はこう話している。

「昨年までの大江は、140キロを超えるストレートと、スライダーを投げるという、言ってみればプロの世界ではどこにでもいるピッチャーだった。そのままではこの先、生き残れないだろうと思って、『大江というのはこういうピッチャーだ、という特徴を作りなさい』と彼本人に伝えていました。それからは毎日のようにピッチングフォームを変えて投げていて、迷走していた時期もありました」

この点について、橋上氏はこう評価している。

「毎日のようにピッチングフォームを変える、つまり『迷走している』ということは、自発的に考えて何か変えようとしている証拠でもある。何も変えようとしないのは、きつい言い方をすれば何も考えていない証拠なんだ。二軍の選手は一軍の選手ほどスキルがないのだから、迷走して当たり前なんだよ」

結果、大江は左のサイドスローという貴重なピッチングフォームを会得し、一軍で通用する手ごたえをつかんだ結果、43試合に登板、3勝9ホールドという成績を残すことができたのである。

松原にたった1つだけ注意したこと

一方の松原については、阿部二軍監督はこう見ていた。

「もともと速いストレートを外野に飛ばす能力は持っていた。でも、守備にしろ、走塁にしろ、時折とんでもない雑なプレーをしでかすときがあったんです。そのことはコーチからも聞いていて、松原のプレーをつぶさにチェックしていた。すると、『あ、本当だ』『あっ、またやった』『おいおい、何度目だよ!』ということが繰り返されていたんです。

でも松原はそうしたイージーミスさえ修正できればもっともっとよくなると思い、一度松原本人を呼んで直接注意して、自分のプレーを見直させるということをさせました」

松原のようなタイプの選手は、首脳陣の見方次第では評価が低くなってしまうと、橋上氏は話す。

「どんなプロ野球選手でもミスはつきものなんだけど、一軍の首脳陣から『ミスをする選手』というレッテルを一度でも貼られてしまうと、『試合の局面を決める大事な場面でしでかすんじゃないか』と危惧されて起用しづらくなってしまう」

結果、松原は元々持っていたポテンシャルの高さを生かし、「できて当然のプレー」を身につけたことで、一軍から声がかかり、86試合に出場、2割6分3厘、3本塁打、19打点、12盗塁を記録。「2番・ライト」の定位置をつかみとることができたのだ。

このほかにも、大学生に負けたことをどうとらえたか、昨年の日本シリーズの第1戦でソフトバンクの千賀滉大からホームランを打てた理由、巨人軍の未来などについて、余すことなく語っており、示唆に富んだ1冊となっている。野球ファン、ひいては巨人ファンは注目の1冊だ。

阿部慎之助の野球道Ⓒ徳間書店

Ⓒ徳間書店


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