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共生社会を実現するブラインドサッカー ~ワールドグランプリを観戦してみた~後編

2018 4/11 11:10きょういち
ブラインドサッカー,ワールドGP2018,日本代表,イングランド代表
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気配と音を頼りに

3月21日から25日まで行われた「IBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)ブラインドサッカーワールドグランプリ)」は今年から始まった大会だ。

出場したのは、日本(世界ランキング9位)、トルコ(6位)、イングランド(12位)、アルゼンチン(2位)、ロシア(13位)、フランス(14位)の6チーム。予選でA組に日本、トルコ、イングランド、B組にアルゼンチン、ロシア、フランスに分かれ、各組の1位同士で決勝、2位同士で3位決定戦、3位同士で5位決定戦を戦う。

ブラインドサッカーは前後半20分ずつだが、プレーがファウルなどで止まるたびに時計が止まる。だから、実際の試合時間は通常のサッカーとあまり変わらない。

筆者が観戦した開幕戦は日本―イングランド。雨に雪が混じる極寒の中、戦いは始まった。

初めて見るブラインドサッカーだったが、驚かされることがいくつもあった。

まずは選手のポジショニング。目が見えていなくても、コートの中での位置を把握している。例えばゴールキーパーがボールを持てば、きれいに選手はコートに散っていく。相手のフリーキックとなれば、しっかりと壁をつくる

パスやドリブルにも驚いた。時にコートの対角線上にロングパスが通る。おそらく練習のたまものだろうが、とてもアイマスクをしているとは思えない。

ドリブルでは、足に吸い付くような細かいドリブルで、ジグザグに相手をかわしていく。気配や音で相手の居場所を感じているのか、こちらの想像以上に突破していった。

ボールが止まると審判が転がす

もちろん、目が見えていないのだな、と感じる部分もある。

例えば、ボールが止まった時。ボールが転がらないと、中に入っている金属の音が鳴らないから、選手はボールがどこにあるのかわからない。ところが、観客は目が見えるから、近くにボールがありながらその位置がわからない選手の姿を見ると、不思議さともどかしさを感じる。だが、これが応援する力を生む。「そこっ、そこっ」と心に思いながら観戦することになる。

開幕戦は雨が降っていたこともあり、よくボールが止まった。その度に、審判が足でボールを少しだけ転がす。そんな、ブラインドサッカー独特の風景が何度も見られた。

サイドにあるフェンスに勢いよくぶつかるときもある。ボールを取りにいった時などに、よく起こる。シュートを空振りするときもあれば、いいパスが来ても速すぎると位置が把握できず、うまく受けられないときもある。でも、それがブラインドサッカーなのだ。

選手たちはボールの音と、敵味方の声を聞き、位置関係を把握する。まさに「耳で見る」ということだ。さらに、目が見えるゴールキーパーとガイドの指示で、目が見える人と見えない人が同じ絵を描く。この共同作業が、ブラインドサッカーの良さである。選手とスタッフの絆で戦うスポーツである。

音が頼りのため、観客は静かにしなければならない。もちろん、得点を挙げたシーンでは声を上げて、選手をたたえてもいい。

開幕戦では勝利したけれど

さて、開幕戦となった日本とイングランドの試合。先制したのは日本だった。

体格ではイングランドの方が二回り以上も大きく、フィジカルでは相手の方に分がある中、前半14分に日本が得点を挙げた。

エース黒田智成が右フェンス際でボールを拾い、ドリブルで一気に切れ込む。左足を振り抜き、ゴール右隅へ決めた。その2分後に失点をしたものの、後半11分に勝ち越す。決めたのは、またもや黒田だった。

右サイドから切れ込み、ゴール前でフェイントを入れながらシュートを決めた。日本はこの点を守り切り、開幕戦で勝利を挙げた。

黒田はこの日の活躍について、日刊スポーツにこう語っている。

「みんなが体を張ってゴールを守り、ボールを前線に送ってくれていたので、チャンスがあったら思い切って狙おうと思っていました。1点目は思い切り蹴りました。2点目は冷静に相手をかわしてミートできました」

引用元:日刊スポーツ2018年3月22日 ブラサカ黒田智成2発イングランド撃破「熱い」監督より

幸先の良いスタートを切った日本だったが、世界のレベルの高さを思い知らされることになった。次戦は世界ランキングで格上のトルコ戦だったが、0―2で敗れた。結局、A組3位に終わり、5位決定戦にまわった。5位決定戦ではフランスに1―0で勝利。6チーム5位という結果は開催国として満足のいくものではなかったであろう。

東京パラリンピックまであと2年。今回は参加していないブラジルなど、世界には強豪がまだまだいる。日本代表は目標とするメダル獲得に向け、さらなる強化が必要だと感じた。