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【有馬記念】馬場も距離もペースも違うGⅠ連勝 いよいよイクイノックスの時代へ

2022 12/26 10:37勝木淳
2022年有馬記念のレース結果,ⒸSPAIA

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乱世の統一者の資格

今年の漢字に「戦」が選ばれ、暗い話題の多い1年が間もなく終わる。競馬界もまた「戦」という文字が似合う戦国時代。GⅠでは1番人気の連敗が話題になり、JRA・GⅠ連勝は牝馬クラシック二冠スターズオンアースと春のタイトルホルダー。その2頭も秋は連勝を伸ばせずに終わり、まさに時代は群雄割拠。乱世の統一者の出現を待つ。

1年間回顧記事を書いて気づくのは、重賞のスローペースが少ないこと。GⅠでは後半が1秒速いレースは3レース。秋は2歳GⅠまでハイペースになり、ジャパンCだけがスロー。ハイペースや平均ペースが多く、締まった競馬が多かった。

また、インを上手くさばいて勝つ場面も目立った。距離ロスの少ない立ち回りが勝因になるということは、力の差がないからでもある。能力差で逆転するレースが減った1年ではあったが、イクイノックスは唯一そういった言い訳無用の競馬で秋2連勝を飾った。

有馬記念は中団外目を追走。勝負をかけてまくってきたボルドグフーシュを最後の直線まで待って、突き放した。3歳キャリア6戦目にして中山芝2500mで王者の競馬。来年の芝中長距離路線はイクイノックス中心に進みそうだ。間違いなく有馬記念で統一者の資格を得た。 

10年表に載る親子の名

それにしても、年を重ねたからか父キタサンブラックの天皇賞(秋)や有馬記念がつい最近のように感じてならない。引退レースの有馬記念は2017年だから、たった5年前のこと。翌春種付け、さらに翌年初年度誕生。その初年度イクイノックスが3歳で有馬記念を勝った。あまりのスピードに頭が追いつかず、有馬記念のウイナーズサークルに立ったイクイノックスがキタサンブラックに見えた。

5年で親子GⅠ制覇といえば、タニノギムレットとウオッカの日本ダービーが記憶に残る。ウオッカもタニノギムレットの初年度産駒だった。初年度産駒が親子GⅠ制覇を達成したのはネオユニヴァースとアンライバルド(皐月賞)、ロジユニヴァース(日本ダービー)がいるが、この親子の間隔は6年だった。また有馬記念となれば、ディープインパクトとジェンティルドンナが8年、ハーツクライとリスグラシューは14年も間があいた。トウカイテイオーもシンボリルドルフの初年度産駒だが、皐月賞と日本ダービーは7年、感動の有馬はトウカイテイオーが1年休んだ5歳時。8年後のことだった。

来年以降、しばらくは天皇賞(秋)と有馬記念では過去10年表に親子で名前が掲載されることになる。競走馬としては遅咲きだったキタサンブラックだが、イクイノックスは東京スポーツ杯2歳Sから重賞1、2、2、1、1着。遅咲きではない。ペースを問わず、先行して押し切る父に対し、イクイノックスの武器は最後の瞬発力。この親子、適性に共通点はなく、イクイノックスが登場したときには、キタサンブラックのイメージで語れない馬と評価された。

それでも有馬記念親子制覇。イクイノックスの守備範囲は広い。天皇賞(秋)は前半1000m通過57.4の超ハイペースでレース上がり36.7を上がり32.7で突き抜け、有馬記念は場内計時で前半1000m1.01.2とタイトルホルダーが飛ばさず、レース上がり35.9を上がり35.4で完封した。距離も馬場も、問われる適性まで異なるGⅠを連勝。イクイノックスの総合力は抜けている。

復調の兆しあった5着エフフォーリア

ファン投票1位で2番人気タイトルホルダーは9着と崩れた。上記のように春の走りとはややイメージが違う抑制された逃げ。スタートからあまり積極的に行けなかったあたり、凱旋門賞のダメージもあったか。立て直して、ぜひとも宝塚記念のような走りでイクイノックスと再戦してもらいたい。

スローで前が余力ある形になったことを察知したのが2着ボルドグフーシュ。菊花賞と同じく3コーナーから進出し、2着。力があるところを存分に発揮した。騎乗した福永祐一騎手はラストチャンスで有馬記念初制覇と史上4人目の八大競走制覇をかけたが、あと一歩及ばず。その心意気は感じ、かつボルドグフーシュのよさを活かす攻めた競馬だった。

3着ジェラルディーナはスタートひと息で、後方追走。4コーナーで真ん中より内の進路を選択。最後は前が壁になる場面もあり、斜め外に走らせるロスもあった。それでも3着は立派。こちらも母との親子制覇がかかったが、適性は十分感じさせてくれた。

4着イズジョーノキセキは13番人気であわや波乱の使者になるかという競馬。今年も随所で光った岩田康誠騎手のインベタがスロー気味の流れでハマった。4コーナーでバテた馬をさばきながら、斜めに外に持ち出してきた。見事な手順だった。

昨年覇者エフフォーリアは5着。春は馬場の影響もあり、行きっぷりが悪かったが、この日はやや行きたがるぐらい。走りのリズムは取り戻しつつある印象。勝負所の手ごたえは外からきたイクイノックスには劣っていたが、復調の兆しはみえた。

2022年有馬記念のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。



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