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【アイビスSD】内外にできた馬群を控えて差したビリーバー 直線競馬のターニングポイントとなる勝利

2022 8/1 10:55勝木淳
アイビスSD、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

創設当初からあった直線競馬のセオリー

01年、新潟競馬場に国内初の直線コース芝1000mが誕生した。直線競馬とはどんなレースになるのか。当時、話題を集めた。海外競馬に精通した関係者からはヨーロッパの直線競馬のように馬群が内、外に分かれるのではと言われ、ファンの間でも陸上の100m走のように横一直線に広がれば、それは壮観だろうと興味は尽きなかった。

しかし、競馬は馬が群れで移動するという習性を利用したもので、横一直線にはならなかった。ただ、ふたを開けてみると、日本の直線競馬は馬群が内と外に分かれることもなかった。周回コースのレースでは滅多に使われない外ラチ沿いに密集。少しでも状態のいい部分を走らせよう、そんな意図があった。

アイビスSD初期はメジロダーリング、カルストンライトオといった快速馬が活躍。直線1000mは究極のスピード勝負の舞台とされてきた。カルストンライトオが02年にマークした53.7は現在でも破られず、このコースのレコードタイムだ。

内ラチ沿いから5着に粘ったスティクス

そんな二つの概念は変化しつつある。今年のアイビスSDにはそんな意味があった。まず内枠4頭がスタート直後から外の馬群に見向きもせず、一目散に内ラチ沿いに走った。これはご存じの通り、昨年のアイビスSDで14番人気バカラクイーンがとった奇襲。結果は3着。開幕週に行われるアイビスSDであれば、芝の状態は内と外でそこまで変わらない。ならば内枠から斜めに外へ走るより、まっすぐ内ラチ沿いを進もうという意図があった。

今年のように複数の馬が同じ考えならば、ヨーロッパ競馬のように内側にも馬群ができ、馬の本能を呼び覚ますことも可能になるのではないか。今年の結果はもっともダッシュ力を利かせ、2番手を進んだスティクスが13番人気5着。他馬と内ラチ沿いで併せる形をとれれば、どうなっていたか。せっかくの重賞出走、枠順が出た時点で諦めるわけにはいかないという貪欲な姿勢を称えたい。いずれは開幕週のアイビスSDならば、内枠は不利ではないと言われる日も来るかもしれない。

追い込んだビリーバーとロードベイリーフ

もう一つ。最近の直線競馬は以前より逃げ、先行一辺倒ではなくなりつつある。もちろん、圧倒的なスピードで押し切るのも戦法の一つ。ただそうでない形も見かける。今年の韋駄天Sはマリアズハートが6番手付近から差してきた。今年勝ったビリーバーも20年アイビスSDで13番手から追い込んで3着。直線競馬も道中どこかでリラックスさせ、脚を溜めて終いを伸ばすといった周回コースと同じような競馬も通用する。ビリーバーは見事に今年、その戦法で勝利した。外枠から後方を進み、残り400m付近から進出。一度は前が壁になり進路を失ったが、残り200mで外ラチ沿いに活路を見出し、馬群を縫って抜けだした。直線競馬で差す経験を積んできたことが実を結んだ。

ビリーバーは7歳にして重賞初制覇。さらに杉原誠人騎手、管理する石毛善彦調教師、馬主ミルファーム、ビリーバーの父モンテロッソもJRA重賞初制覇と初物づくし。なおミルファームは生産者としては00年ユーワファルコン(中日スポーツ賞4歳S)以来22年ぶりにJRA重賞ウイナーを出した。

ビリーバーはルッジェーロとの抽選1/2をかいくぐっての出走、枠順といい運も味方した。地道に研鑽する苦労人たちに競馬の神様が微笑んだのではないか。前日にはデビュー21年目黒岩悠騎手が新潟ジャンプSで重賞初制覇を飾り、夏の新潟は賑やかな幕開けとなった。

2着はスピードで押し切りを狙ったシンシティだったが、3着ロードベイリーフは5番枠から隣のスティクスとは正反対に、スタート直後、素早く外ラチ沿いに向かった。17番手からレースを進め、タイミングよくすぐ内側に進路を見つけ、そこに飛び込んだ。ビリーバーと同じく前半リラックスし、末脚にかけた競馬だった。

今年内枠4頭が進路を内にとったことは来年以降、直線競馬に影響を与えるだろう。

競馬は時代とともに色々と変化する。直線競馬もまた、ここ数年で新たな戦法が生まれ、転換期を迎えつつある。22年第22回アイビスSDはそのポイントの一つなのではないか。


2022年アイビスSD、通過順,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。


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