球速が速いパワーカーブの使い手が増加
投球にアクセントをつけたり、打者のタイミングを外したり、使い方次第で投球の幅を広げられるカーブ。一昔前は、直球との球速差や変化が大きいスローカーブやドロップカーブが主流であったが、近年、直球との球速差がそれほどなく、タイミングを外すよりも鋭い回転をかけて空振りを奪うパワーカーブが増えてきている。
代表的な使い手は、ソフトバンクの石川柊太や昨季まで阪神に在籍したピアース・ジョンソン(現パドレス)。また、パワーカーブの中には人差し指をボールに立てて握るナックルカーブもあり、オリックスのブランドン・ディクソンやヤクルトの五十嵐亮太らが得意としている。
今回は、このカーブを得意とする、投げる割合の多い投手を何人かピックアップし、「球速」「空振率」「被打率」といった面から比較してみる。
投球の多くをカーブが占める投手は?
まずは、球界屈指のナックルカーブの使い手とも言えるディクソン。昨季は6月以降にクローザーを任されて18セーブを挙げる活躍を見せたが、その投球の柱となっていたのがカーブ。投球割合で実に約57%を占めており、平均球速が約138kmと速いのが特長だ。同球種による空振率は約19%と高く、被打率は.143。打者はナックルカーブが来ると分かっていても打てていないことが分かる。まさにディクソンの生命線ともいえる球種だ。
このディクソンの数値を上回るカーブの持ち主がジョンソン。阪神在籍期間は昨季のみと短期だったが、絶対的なセットアッパーとして鮮烈なインパクトを残した。全投球の約46%がカーブで、空振率は約20%、被打率は.110と驚異的な数字をマーク。ディクソン同様に、投げるのはほとんど直球とカーブの2種。つまり、ジョンソンのパワーカーブも、打者は来ると分かっていても打てなかった。
そして、この2投手ほどの割合ではないが、カーブを多投するのが石川。平均球速は約125kmとそれほど速くはないが、ブレーキがきき縦に鋭く変化するのが石川のパワーカーブの特長だ。昨季はレギュラーシーズンの登板が2試合と少なすぎるため、2018年シーズンの成績をみてみると、被打率は.209。直球による奪三振数は40だが、それに次ぐ35三振をカーブで奪っている。しかし、空振率は約9%とそれほど高くはない。
昨季10年ぶりに古巣のヤクルトに復帰した五十嵐亮太は、約16%がカーブ。平均球速は約128kmで、空振率は約16%とまずまずの数字。被打率は.190と五十嵐の投球に欠かせない球種だと分かる。
ドロップカーブの使い手
パワーカーブ以外のカーブの使い手を考えた時に、真っ先に名前の挙がるのがソフトバンクの武田翔太と楽天の岸孝之だ。この2投手のカーブは通常のカーブよりもトップスピンが多く、垂直方向に大きく変化するドロップカーブ(球速は遅め)に位置づけできる。ただ、ここ数年の武田はカーブの割合が減ってきており、昨季のカーブの被打率は.390と精彩を欠いた。13勝(6敗)と好成績を残した2015年シーズンには、カーブの投球割合は約25%で、被打率は.198と優れた数字を残している。
一方の岸は、全投球におけるカーブの割合が直球に次いで多い約20%。空振率は約13%、被打率は.232とまずまずの数字。ちなみに、武田のカーブの平均球速は約120km、岸は約110kmと、ディクソンらのパワーカーブと比較すると球速差がある。
カーブを投じるメリット
カーブは、カットボールやツーシームといったムービング・ファストボールが主流となっている中で、打者があまり意識していない、狙っていない球種であり、そのメリットは意表をつけることだ。また、パワーカーブにしろドロップカーブにしろ、投げる高さにもよるが概ねバットの下に当たることが多く、ゴロアウトを取りやすい、フライにはなりにくい利点もある。カットボールやツーシームとの組み合わせでタイミングを外す際にも有効だ。
昨季までロッテに在籍したマイク・ボルシンガーは、昨季こそ不振に終わったが、2018年シーズンはナックルカーブを武器に凡打の山を築き、13勝(2敗)の好成績を残した。昨季58試合に登板し、40ホールド、防御率1.38、投球回58回2/3を大きく上回る91個の三振を奪うなど圧倒的な数字を残したジョンソンも、パワーカーブで打者を封じ込めた。あまり打者が目の慣れていない同球種を巧みに操れれば、ある程度の成績が残せることを証明している。
現時点ではパワーカーブの使い手は助っ人外国人に多いが、今後日本人投手でもそれを武器に圧倒的な投球を見せる投手が出てくることを期待したい。
2020年プロ野球・東京ヤクルトスワローズ記事まとめ