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ロッテの命運を常に握る男 荻野貴司の凄さがわかるデータ

2020 4/20 06:00浜田哲男
ロッテ・荻野貴司ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

OPSは右肩上がり

昨季はプロ入り10年目にして初の規定打席に到達。リーグ3位の打率.315、リーグ4位の28盗塁をマークしたほか、ベストナインとゴールデン・グラブ賞も初受賞したロッテの荻野貴司。

これまで毎年のように活躍を期待されていたが、故障に泣かされてきた。”走攻守”すべてレベルの高い荻野がシーズンを通して活躍した場合、どれぐらいの数字を残すのか。以前から多くのファンに注目されてきたが、初めて規定打席に到達したシーズンに文句のない成績を残した。首脳陣や多くのファンにとって、期待に違わぬ結果だったのではないだろうか。

今年10月で35歳を迎えるが、衰えを感じさせるどころか30代になってから年々OPS(出塁率+長打率)が向上するなど、さらなる進化を見せている(昨季のOPS.842はリーグ10位)。今回はそんな荻野の凄さに様々な角度から迫ってみたい。

荻野がいるとチームが変わる

どのチームにも、いるといないのとでは全くチームが変わるという影響力の大きいプレーヤーが存在するが、ロッテの場合は紛れもなく荻野だろう。近年の例を挙げると2018年。同年から指揮官に就任した井口資仁監督は「走塁革命」を掲げ積極的な走塁を励行していたが、その象徴が荻野だった。

荻野はシーズン序盤から走攻守でチームを牽引しリードオフマンとして十分な活躍を見せていたが、7月9日の西武戦で空振り三振した際に右手中指に球を受け骨折。戦線からの長期離脱を余儀なくされると、それまでAクラス争いをしていたチームは失速し下降線をたどった。

若い頃と比較して脚力の多少の衰えは否めないが、それでも塁に出れば相手バッテリーにかなりのプレッシャーをかけられるし、積極的な打撃はチームに勢いをつける。

元々四球は少なく、569打席に立った昨季の四球数もわずか40個。他のチームのリードオフマンと比較しても少ないが(日本ハムの西川遥輝は93個、元西武の秋山翔吾(現レッズ)は78個、楽天の茂木栄五郎は66個、オリックスの福田周平は62個)、打って出塁しチームの士気を試合序盤からグッと高めるのが荻野の魅力だ。

現時点でチームに荻野以上のリードオフマンはいない。

「苦手」が少なく、調子の浮沈が少ない

昨季の荻野は4月に.355のハイアベレージを残すと、以降も毎月コンスタントに安打を放ち高出塁率を維持し続けた。打率は3割を下回った月が一度もなく、調子の大きな浮沈がなく常に相手にとって脅威となっていた。

その理由は数字にもはっきりと出ている。投手の左右は苦にせず、対右投手の打率は.318で対左投手の場合は.305。ソフトバンクからフリーエージェント(FA)で移籍してきた福田秀平も新たなリードオフマン候補ではあるが、対右投手は.295と打っているものの、対左投手になると.135まで打率が低下。安定感で考えれば荻野に分がある。

多くの安打を放っているコースが視覚的にわかる打者ヒートマップ を見ても、荻野は投手の左右関係なく、ストライクゾーン内のほとんどのコースで安打を放っており、際だって苦手としているコースがないことも強みだ。

ゾーン別データを見ると、真ん中の打率は.426、外角中程は.329、内角中程は.357とベルト付近の球に対してハイアベレージを残している上、真ん中低めが.359、内角低めが.306と低めの球も巧みに拾い上げる。

好打者が苦戦するフォークもよく打つ

昨季パ・リーグの首位打者に輝いた西武の森友哉はどの球種に対してもハイアベレージを残しているが、対フォークの打率は.233と苦手にしている。打率2位オリックスの吉田正尚もフォークは.185と低迷している中、荻野は.371とフォークをよく打っている。

また、対カットボールの打率は驚異の.536(森は.348、吉田は.364)。ここまで打っていれば、カットボールが苦手という意識はほとんどないだろう。対カーブの打率が.243、対チェンジアップが.167と緩い球を打つことは課題だが、動く球にも落ちる球にも強く、ミスショットが少なく脚力があるとなれば、どんな投手にとってもやっかいな打者だ。

昨季7月末に加入し、一時は1・2番コンビを組み、守備位置では中堅・荻野の隣りの右翼を守っていたレオネス・マーティンは「本当に凄いプレーヤー」と絶賛していたが、様々な数字を見ると改めて荻野の凄さがわかる。

座右の銘は「人間万事塞翁が馬」

今季は左膝の違和感があり調整が遅れていたが、3月21日のファームでの楽天戦では2打席連続で適時打を放つなど復調の兆しを見せていた。NPBが当初目指していた4月24日の開幕に向けて良いコンディションで臨んでいけそうな流れだったが、新型コロナウイルス感染拡大の勢いはおさまらず開幕時期は白紙となった。

現在の活動休止期間を利用して、ロッテは公式インスタグラムでファンの質問に選手が答える企画を実施。荻野は座右の銘を聞かれ「人間万事塞翁(さいおう)が馬」と回答した。この言葉は、「人生の幸福や不幸は予測ができないものだ」と主に解釈される。

背景には、故障に泣かされ続けたプロ入り後の自身の歩みがあると想像できる上、どんな状況になっても最善を尽くすという意識が垣間見えるし、今の世界情勢と人々の生活をも表しているように思える。

一方、開幕時期が不透明な状況下でのモチベーション維持について問われると、「今できることは限られていますけど、できることを継続的にコツコツやっていくだけだと思っています」と答えた荻野。度重なる怪我を乗り越え、幾多の壁を乗り越えてきた男の言葉は説得力がある。

昨季、プロ入り10年目・34歳にしてキャリアハイの成績を残し、今後もさらなる進化を予感させる。不動のリードオフマンは来たるべき時に備え、静かに牙を研ぎ続けていく。

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