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東芝・宮川哲「球速よりも抑えられることが大切」 2019ドラフト候補インタビュー

2019 10/6 11:00永田遼太郎
社会人野球 東芝の宮川哲ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

東芝が誇る社会人屈指の右腕・宮川哲

最速154キロ。その数値自体に彼は、関心を示さない。

傍目には自身のポテンシャルを表す誇らしい数値のようにも思えるが、球速がどれだけ速くても試合で「0」に抑えなきゃ何の意味も持たないと、彼は首を横に振る。

宮川哲、24歳。

今秋のプロ野球ドラフト会議で上位指名確実と評される社会人野球屈指の右腕は、「勝利への渇望」を胸にいざプロの門を叩く。

本格的に投手に転向したのは、高校に進学してからと遅かった。

東海大山形高には外野手として進学。武田宅矢監督の薦めで、高校1年からブルペン練習は欠かさずに行うようになった。しかし、高3の春になっても基本は外野手としての出場が主であり、投手として主戦を任されたのは高3夏の山形県大会だけ。

アマチュア野球ファンにその名が知れ渡ったのは、上武大学に進学してからのことだった。
大学では2年秋から徐々に頭角を現すと、4年の春、秋に関甲新学生野球連盟の最多勝を獲得。春夏計68回2/3を投げて、自責点6、防御率0.79という圧倒的な数字を残し、チームの絶対的なエースとして君臨した。

それでもプロからは指名の声がかからず、大学卒業後は社会人野球の東芝へ進むと、入社1年目の昨年は日本選手権の準々決勝、新日鐵住金広畑(現在は日本製鉄広畑)戦で150キロを超える速球を見せつけ好投。その名をアピールした。

そして迎えた社会人野球2年目の都市対抗野球。ひとつ年上の岡野祐一郎との二枚看板として大会に臨むも、若干の悔いが残った。

初戦のJR東日本東北戦では5回途中(4回2/3)87球、2失点で降板。2度目の先発となった準決勝のJFE東日本戦でも3回に相手の2番打者・今川優馬に先制の2ランを浴びるなど、5回99球で2失点して降板した。チームも延長10回表に一度は1点をリードしながら、その裏に守り切れずに逆転負け。2010年の第81回大会以来の黒獅子旗に今年も届かなかった。

雪辱に燃える今秋。チームは4月に行なわれたJABA四国大会を制し、社会人野球日本選手権の出場を決めている。昨年は優勝した三菱重工名古屋に破れベスト4どまり。今年はそれ以上の成績も期待されている。

宮川もプロ入りに向けて、ひとつ大きな勲章を手に弾みをつけたい。
そんなドラフト会議直前の心境と、ここまでの野球人生を振り返ってもらった。

東海大山形時にピッチャー転向

―野球をはじめたのは?

「4歳か5歳の頃ですね。少年団に入ったのは小学校1年生のときなんですけど、兄が野球をやっていたので、(最初は)それに付いて行って一緒にやるって感じでした」

―どんな幼少期を過ごされたんですか?

「活発って感じですかね。基本は外で遊んでいる元気な男の子だったと思います。僕は家系がみんな野球で、父も高校まで野球をやっていて、おじいちゃんも野球をやっていた。その影響で兄も僕も野球をやるようになりました」

―当時のポジションは?

「最初はキャッチャーをやっていて、それから外野をやったり、ショートをやったりですね」

―その頃はピッチャーであまり投げなかった?

「ありましたけど、4年生から5年生くらいまでは、ずっとキャッチャーをやっていたので、基本は外野かキャッチャーって感じでしたね」

―肩が強かったからそっちを活かしてという感じだったんですか?

「そうです」

―たしかピッチャーに正式に転向されたのは東海大山形に進んでからですよね?

「中学はファースト、セカンド、外野で。高校は外野で入って、途中からピッチャーをやるようになりました。3年最後の夏だけピッチャー。春とかも外野でしたね」

―宮川投手の場合は高校の途中からピッチャーを始めたということで、体が出来上がってからピッチャーを始めたことになります。その点で何か感じることはありますか?

「たぶん、他の人よりは肩とか肘とかの消耗は少ないんじゃないかと思いますね。そういう面では昨年、肉離れはしましたけど大きな怪我とかはないので…」

―東海大山形でピッチャーに転向したのはどういうきっかけで?

「山形県の一年生大会があって、そのときに(監督から)『ピッチャーやってみろ』って言われて、1試合だけ登板して、(試合は)負けたんですけど、そこから基本は外野をやりながら、ピッチング練習はずっと続けていたので徐々にって感じですね。それからピッチャーをやるようになりました」

体幹とウエイトトレーニングで球速が急激アップ

―当時の球速とか覚えていますか?
「高校は140前半くらいですね。1年生大会のときは球速表示もなかったので、2年生のときに出した数字が大体それくらいです。」

―外野手から投手に転向したという点で、体の使い方とか何か感じる部分はありましたか?

「今でも遠投はよくするんですけど、その感じで投げているのであまり違いはないかなって思います」

―遠投は体を大きく使うという点で、プロのピッチャーでも登板前に取り入れたりする選手が多いです。そのイメージでマウンドでも基本は投げていると?

「はい、今も遠投は毎日しています。試合で投げる前も遠投してから入るようにしていますし、遠投だけで終わったりするときもあります。ピッチングをしないときでも遠投だけはしているので」

―それくらい遠投を大事にしているということですね。東海大山形高を卒業後、上武大学に進んでから球速もぐんぐんと上がっていきました。どんなトレーニングを積んだんですか?

「体幹とかウエイトも結構やっていたので、体が大きくなったのもありますし、同時に体も強くなっていったので、(球速が)出たんじゃないかと思いますね」

―それぞれの割合で言うとどれくらいのペースでやっていたのですか?

「体幹は今も毎日やっていますね。ウエイトも重視していますけどやらない日もあるんで。体幹とか腹筋、背筋の強化は毎日やっています」

―それだけ毎日、体幹の強化を欠かさないのはどのような考えがあってのことですか?

「軸をしっかりさせないと投げれないので、まずは軸を作って体がぶれないようにと考えています」

球速よりも抑えられることが大切

―大学時代のフォームと今のフォームを比べると、同じセットポジションですが少し違いを感じます

「足の高さは大学の方が上げていますし、流れるようにと言ったら大学のときの方がそうだったと思います。大学のときは『激しさ』みたいな、どちらかといえばそういうフォームだったんですけど、今はどちらかというと『緩やか』といった感じのフォームで、力感がないフォームで速い球を投げる練習をしているので、今の方が動きはゆっくりかなって思います」

―それを意識するようになったのはいつ頃からですか?

「大学は勢いだけで行けていたので、社会人に入ってからですね。試合で打たれたりして、たぶん見たままのフォームで(ボールが)来るのでバッターもタイミングが取りやすかったと思うんです。それを今は130キロくらいに見える緩いフォームで投げて150キロ投げられたらバッターも打ちにくいんじゃないかと思って、そこからやるようになりました」

―球速は最速154キロ。自分ではそんなに気にしていない?

「出たら出たで良いですけど、試合が終わってから『今日何キロ出てたよ』と周りから言われても『あっ、そうなんや』みたいな感じで思うくらいで、球速が出ていても(試合で)抑えないと意味がないと思いながらやっています」

―でも、150後半が見えてくると周りから160キロ云々とか言われると思うんですけど、その辺の色気はないんですか?

「それはあまり気にしないです。自分はそこまでのレベルじゃないので…、別に…。なんて言うんですかね。周りに流されずに自分をしっかり持っていれば大丈夫なのかなって。取り入れるものは取り入れなきゃダメですけど」

―同僚で先輩の岡野祐一郎投手とはいつもキャッチボールを一緒にしながら、お互いにないものをアドバイスし合ったりするそうですが

「試合の中の話になるんですけど、ギアを入れたり、下げたりとかバッターを見て、どういう投球をするかとか、そういうのは勉強になることが多いので、自分から聞きに行ったりもしています。『こういう状況ではどう投げますか?』とか試合の中でのことを結構聞きます。あとはキャッチボールをしているときに『今日は少し体が開いているよ』とかお互いに感じたことを言い合う感じです」

日本選手権へ向け調子上向き

―今年の都市対抗野球の話をします。まずは西関東第2予選。初戦はJFAM EMANON戦で5回を49球、1安打、0失点、7奪三振という素晴らしいピッチングを見せました。

「その試合は自分のやるべきことだけをやろうと思って投げていました。(手応えも)真っ直ぐの質が良くて、良い回転がかかっていたので、それを続けようという感じでしたね」

―その1週間後の5月27日に三菱日立パワーシステムズ戦があったわけですが、序盤2点のリードをもらいながら、6回1/3を投げて121球、7安打、3失点。試合も敗れてしまったわけですが

「真っ直ぐとか(ボール自体)は前の試合よりも良くなっていたので、状態は全然良かったんです。(序盤から)真っ直ぐが多くて、エンジンかけっぱなしでずっと行っていたので、(中盤)バテたって感じでしたね。

あのときは2試合で勝負(本戦出場の可否)が決まるので、後ろにもピッチャーがいましたし、味方が点を獲るまでは、点はあげないと思ってずっと投げていましたし、行けるところまで行こうという考えでしたけど、6回じゃ早いので、最低でも7回か8回くらいまでは投げられないといけないと思っています」

―その後、東京ドームの本戦に入って行ったわけですけど、本戦はあまり調子が良くなかったと聞いています

「そうですね。初戦(JR東日本東北)は緊張もあったのか分からないですけど良くなくて、次(準決勝のJFE東日本)は状態的には良かったんですけど結果が…って感じで。調子が悪くなるタイミングがたまたまそこに来てしまったのが、悪かったかなと感じています」

―都市対抗本戦にピークを持って行けなかった?

「はい。良い選手とかってそういうところ(大一番)に調子を合わせられて、全然関係ないところでは調子悪いみたいなのがあるじゃないですか。(自分の場合は)都市対抗野球のそのときに調子が悪くなったといったらおかしいですけど、初戦にそれが来てしまった。

初戦が終わった次の日の練習では徐々に調子も良くなって、良い頃の感じが掴めたというか修正も出来たので、自分の中では良い状態でJFE東日本戦を迎えたんですけど、結果は負けてしまったので…」

―準決勝のJFE東日本戦は感覚として悪くなかったと。

「悪くはなかったです」

―初回、JFE東日本の今川優馬選手に変化球を右中間二塁打を打たれた後、3回の第2打席でライトスタンドに先制のツーランを打たれています。あの試合のキーになった場面かなと思っているのですが

「(初回に二塁打されたのは)カットボールだったんですけど、今振り返るとバッターをしっかり見れてなかったのかなと感じています。初回の第1打席でも真っ直ぐに振り遅れていたんですけど、そのときカットボールが147キロか148くらい出ていて、ちょうど相手のバッターに合うタイミングになってしまっていたと思うんです。あそこで真っ直ぐを続けていたら(結果も)分からなかったと思います。

ホームランを打たれたのも高め(ストレート)でコースは(アウトコースに)行っていましたけど、ちょうどバットが合う所に行ってしまって、打たれたのもあるので、あそこでもう少し冷静になって、バッターを見れていたら、また違う結果だったのかなって思っていますね」

―コントロールミスで悔やむ部分があったんですね

「配球は結果が全てだと思うし、それで抑えたらそれが正解になるので分からないですけどね」

―その後、チームが追い付いて、延長10回に一時は勝ち越しましたがその裏に2点獲られてサヨナラ負け。目標の日本一まであと少しで届きませんでした。

「悔しいのはありましたけど、あまり引き摺ってもいられないので。悔しい気持ちを忘れずにもっとレベルアップしようと思いました」

―その敗戦からはや2カ月。次の大舞台は11月の日本選手権になるわけですが状態の方はいかがですか?

「上がって来ていますね。昨日(9月26日の)三菱日立パワーシステムズ戦も、相手バッターが真っ直ぐに合っていなくて、結構さされていた感じはしたので、基本は真っ直ぐを中心に投げてみたんですけど、自分の投げている感じでは良かったかなと思っています。まだ一番良いというほどではないですけど、徐々に良くはなってきている感じはします」

ストライクゾーンを二分割で投げる

―ちなみに宮川投手の投げるストレートでこのコースに、こういう風に投げれているときは状態が良いと感じるところはありますか?

「アウトローの真っ直ぐかインコース真っ直ぐ。どっちやろう?(笑)左バッターのインコースにしっかり投げれているときは良いですね」

―左バッターのインコース。高さはあまり関係ないですか?

「それは全然、意識していないです。高さは全然気にしていないので」

―コントロールという部分で、よくストライクゾーンを何分割で投げているとか言いますけど、宮川投手の意識はどれくらいの感覚なんですか?

「僕は内か外ですね」

―二分割?そこに強い球を投げるって感じで?

「強い球が投げれているのが条件で…。真ん中に行くのは良くないですけど、しっかりバッターがさされる球を投げれていたら別に良いかなと思って投げています。ファールとか獲れる球だったら」

―150キロを超えるストレートと140後半のカットボール。さらに140キロ台のフォークボールもある。見分けが難しいと言われたことはありますか?

「カットボールは結構速いので、左打者の内側とか効果的だと思うんですけど、右打者は真ん中から外だったらそのまま行っちゃって、打たれることもあるので使い方が難しいです。左打者ならさされたり、バットを折ったりもすることが出来るので…。あとはカーブで相手打者をビックリさせるとかはあります」

―それが出来ているときは、かなり調子が良いと感じているときですか?

「はい。変化球もそうですけど、あとは真っ直ぐが良い回転というか投げれていたら良いと思います」

―ブルペンでもその辺をチェックする?

「結構、相手バッターを想定して、カウントをつけてとかやったりもするので、そう言う感じで投げています」

―変化球を投げる際に気にされているポイントとかありますか?

「カットボールはストレートよりも腕を振るとか、カーブだったら逆回転をかける。カーブも腕をゆっくり振るんじゃなくてしっかり腕を振って投げる。そういうイメージです」

先発リリーフ関係なく大事な場面を任せられる投手に

―最後にプロ野球ドラフト会議についてお聞きします。上武大学のときにもスカウトから注目もされていたわけですが残念ながら指名はかからなかった。それをどのように受け止めましたか?

「まだそこまでのレベルじゃなかったのかなと思って…。社会人に行って、もっとレベルアップして、プロの一軍でも通用するピッチャーになろうと思って頑張りましたね。あの経験(指名漏れ)はもうしたくはないですし、それは嫌だからその分頑張ろうと思ってここまでやって来ました」

―ドラフト会議まであと少しです。今はどのような想いで過ごしていますか?

「この数週間は日本選手権があるので、しっかりそこに向けて調整していきたいと思っています」

―プロではどんなピッチャーになりたいと考えていますか?

「大事なところを任せられるピッチャー。今の時期だとポストシーズンですか?そこで任せてもらえるようなピッチャーになりたいです。先発とかリリーフとか関係なく大事な場面で任せられるようなピッチャーになりたいです」