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横綱日馬富士が暴行か 謎を深める貴乃花親方の行動(1)

2017 11/20 11:08きょういち
大相撲
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出典 masisyan / Shutterstock.com

 11月14日、スポーツニッポンが1面で「スクープ」を放った。角界のトップにいる横綱の日馬富士が、幕内の貴ノ岩にビール瓶などで暴行したというものだ。

 暴行を受けたとされる貴ノ岩は、「右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い 全治2週間」などと書かれた診断書を日本相撲協会に提出して、11月12日初日の九州場所を休場。日馬富士はこの暴行疑惑が報じられた14日から九州場所を休場した。ただし、休場の理由は暴行に関するものではなく、自身の腕のケガによるものだった。

 この疑惑が報じられて以降、新聞、テレビとも連日この話題で持ちきりである。一方、いくら報じられても納得いかない部分、分からない部分が多いのも事実である。今のところ、何が「真実」なのかが見えてこない。

ビール瓶で殴ったと報じられる

 最初に疑惑を報じたスポニチによると、暴行の内容はこうだった。


  • 10月26日の鳥取巡業の夜に、日馬富士がモンゴル人力士を集めて酒の席を催した(日馬富士も貴ノ岩もモンゴル人である)
  • その席で日馬富士が貴ノ岩に暴行
  • その際にビール瓶で殴った
  • 理由は貴ノ岩の態度が気にくわなかったから
  • 貴ノ岩の師匠である貴乃花親方はノーコメント


 これだけ読めば、日馬富士が一方的に悪い。だから、この疑惑が報じられた朝から、日馬富士が所属する伊勢ケ浜部屋には大量のマスコミが押しかけた。

 さらにこの際、日馬富士が「貴乃花親方、貴乃花部屋、貴乃花部屋後援会関係者、相撲協会、(伊勢ケ浜)部屋の親方に大変迷惑を掛けたことを深くおわび申し上げます」と謝罪した。普通、このように謝れば、スポニチの報道を認めたように思える。多くの人がそうだったのではないだろうか。だから、この時点では日馬富士が一方的に悪い、という風潮だった。

 この謝罪後、伊勢ケ浜親方と日馬富士が、貴乃花部屋へ出向き、貴乃花親方に直接謝罪しようと思ったが、貴乃花親方はそれを無視する形で、車で立ち去った。角界において、親方と弟子は親子の関係で語られる。「子」にケガをさせられた貴乃花親方の怒りは相当のものではないかと、思われた。

「事実」の裏が取られていなかった可能性

 スポニチの報道が出ると、各社は後追いし、日馬富士が貴ノ岩に暴行したと報じた。先述のように、日馬富士の謝罪の様子も放送、掲載された。

 さらに、疑惑が報道された翌日の11月15日には、ほとんどの新聞社が暴行の様子を詳細に報じた。それによると、暴行の様子は以下のようなものである。


  • 酒席には、日馬富士、貴ノ岩のほか、白鵬、鶴竜、照ノ富士ら、10人前後がいた
  • 2次会で、日馬富士が貴ノ岩の兄弟子へのあいさつがないことなどを注意
  • その際、貴ノ岩の着物の帯にさしていたスマートフォンが鳴り、それを操作しようとした際に日馬富士が怒る
  • ビール瓶で殴った後は素手で殴打。照ノ富士も殴られ、止めに入った白鵬が突き飛ばされる


スポニチ報知日刊サンスポ がほとんど同じ内容を報じている。日刊だけが書き方が少し違うが、ほかの3社はほとんど同じだ。特に相撲関係者の言葉は同じものが使われている。

 各社同じようなことを報じているから、これが「事実」として走ってしまった。もちろん、事実かもしれないが、あまりに同じ内容になっていることに違和感を禁じ得ない。そういったことに注目して読む人はなかなかいないかもしれないが。

 同じことを報じているから、各社がちゃんと裏を取って書いた事実なのかと言えば、絶対にそうとは言えない時もある。もしかしたら今回はそうかもしれない。今回の暴行の詳細は、共同通信が報じ、それをスポーツ紙がそのまま掲載した可能性があるからだ。

 共同通信とは、ニュースを加盟社に送る会社である。新聞などの媒体を持たず、共同通信のニュースが載るかどうかは、加盟社ごとの判断による。国内の地方紙、スポーツ紙、毎日新聞、産経新聞、中日新聞などが国内ニュースの配信に加盟している。むしろ、日本のメディアにおいて加盟していない社の方が珍しく、国内ニュースで加盟していないのは朝日と読売ぐらいである(ほかにもあるかもしれないが)。

 共同通信が流してきたニュースをそのまま使うというのは普通のことなのだが、この暴行の詳細について、スポーツ紙はおそらくほとんど裏も取らずに、そのまま掲載したのではないかと思われる。そのスポーツ紙はさらにワイドショーでそのまま引用された。だから、共同通信が報じた詳細が「事実」として一般の人にすり込まれてしまった。

 とはいえ、日馬富士は謝罪しているし、この内容が正しいのだろうと、多くの人が思っていた。

(続く)