ロンドンで「フジカキ」へバトンタッチ
日本バドミントン界の人気の引きつけ役だった「オグシオ」から、2008年北京五輪で「スエマエ」に女子ダブルスのバトンは引き継がれました。(「バドミントンの四文字ペア その歴史②「スエマエ」編」参照)
そして、歴史は繰り返します。
北京五輪後、スエマエの末綱聡子は「もっとうまくなりたい」と現役を続け、前田美順は「あんな楽しい場所はない。もう一度出たい」と意欲を燃やしました。2011年世界選手権は銅メダル。日本バドミントン界初の五輪でのメダルを目指して、2012年のロンドン五輪に乗り込み増した。
しかし、そこで新たなペアが注目を浴びます。スエマエの所属先の後輩で、藤井瑞希、垣岩令佳が組む「フジカキ」が先輩たちからバトンを引き継ぎました。
運の女神が明暗を分ける
フジカキのことを語る前に、スエマエのロンドン五輪を思い出しましょう。
4チームによるリーグ戦が行われ、上位2チームが準々決勝に進むシステムで、スエマエはリーグ戦で2勝1敗でした。普通なら2位の成績ですが、この時は2勝1敗で3チームが並び、得失ゲーム差で3位に。そのため、予選リーグで敗退しました。
スエマエは勝っても準々決勝に進めないことが分かっていながら、最終戦に臨み、そして勝ちました。勝っても、五輪から去らなければならない。そんな無念が彼女たちの真っ赤になった目からうかがえました。
運に恵まれなかったスエマエに対し、フジカキは対照的な勝ち上がりを見せます。
まさかの無気力試合
フジカキの予選リーグは2勝1敗の2位通過。順調にいけば、準決勝で世界ランク1位の中国ペアに当たるはずでした。
しかし、ロンドン五輪の女子バドミントンでは、ある「事件」が起きました。無気力試合。つまり、意図的に負けるという行為です。ちょっと話がそれるようですが、フジカキを語る上で避けては通れない話です。
ロンドン五輪の予選リーグは、四つに分かれた組の上位2ペアが準々決勝に進む方式でしたが、どの組の1位がどの組の2位と準々決勝で当たるのかが最初から決まっていました。そのため、準々決勝以降を有利にするため、わざと2位になろうとしたのです。
筆者もその場にいましたが、異様な光景でした。サーブをわざとネットにかける。ショットを意図的に外に打ち出す。会場には地鳴りのようなブーイングが響きました。このような無気力試合をしたのが韓国の2ペアと、中国、インドネシアのペア。そして、この4ペアは失格となりました。その中に世界ランク1位の中国ペアがいました。結果、準決勝では、格下のカナダとの対戦になりました。それがフジカキの運命を変えます。
藤井の強気が垣間見られた記者会見
実はフジカキにも疑いの目が向けられました。フジカキが予選リーグの最終戦に敗れたために、リーグ3位になったインドから無気力試合だったのではないか、と訴えられました。
世界連盟の裁定の結果、無気力ではないと認められましたが、インドのメディアがフジカキに直接聞きました。準々決勝でフジカキが勝利した後の記者会見です。
「わざと負けたのではないか」
それに対し、藤井は語気を強めて、返しました。
「あり得ない。相手が強かった」
さらに続けるインドメディアを遮るように藤井は言い放ちました。
「もう、その質問やめてもらえませんか」
実は文字にできないような激しい言葉を藤井は吐いていました。こんな強気なところが、彼女の強さを支えていたのかもしれません。
高校時代からのペア
フジカキの前に活躍したオグシオ、スエマエはそれぞれ別々の高校出身の選手がペアを組んでいましたが、フジカキは青森山田高校の先輩後輩です。藤井が一つ先輩。藤井は高校時代、シングルス、ダブルス、団体という全ての種目で全国優勝を成し遂げるスター選手でした。
強気な藤井がそのセンスを生かして、前衛でゲームをつくり、パワーのある垣岩が後ろから決める形がはまりました。藤井が社会人になった後、垣岩を同じチームに誘って、ペアを継続。そして、ロンドン五輪にたどり着きました。
無気力試合の、いい意味でのあおりを受けて、準決勝はカナダペアに快勝。決勝は中国ペアに完敗しましたが、日本バドミントン界初のメダルとなる銀メダルを獲得しました。
メダルの後にすぐ解散
しかし、一般の人はオグシオほどにこのフジカキの名前を覚えていないと思います。なぜでしょうか。
ロンドン五輪直後に行われた日本での国際大会で彼女たちはペアを解消します。藤井がもう日本代表として戦う気持ちがなかったというのが理由の一つでした。
フジカキは一瞬で有名になり、すぐに解散。だから、記憶に残りにくかったかもしれません。
ちなみに藤井はその後、海外へ。2016年は英国のリーグで戦っています。
と、書いていたら、2月12日に藤井の日本での復帰が発表されました。東京五輪を目指して、約4年ぶりに「フジカキ」が復活します。(続く)
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