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抜群のスタートに見えた桐生祥秀はなぜ失格だったのか(2)

2017 5/23 09:46きょういち
桐生祥秀,Ⓒゲッティイメージズ
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昔は1回目のフライングは許されていた

 5月13日のダイヤモンドリーグ上海大会の男子100メートルで、日本人初の9秒台に挑んだ桐生祥秀(東洋大)は号砲から0秒084という鋭い反応を見せたが、0秒100未満の反応はフライングとなるルールでは失格となった。

 陸上にそんなに興味がない人からすれば、反応時間が、という前に、フライング1回目で即失格となることに違和感を覚えるかもしれない。

 そう。2003年前では各選手1回のフライングが許されていた。

 ただ、このルールだと、意図的にフライングをして駆け引きに使う選手がいたのと、フライングが多発することにより、テレビの放送時間内に大会が終了しないという事態があるために、2003年から1回目のフライングはだ誰がやってもOK、2回目以降は誰がやっても失格というルールに変更になった。

 ところが、これは不公平感が漂う(1回目にフライングしたものが「フライング得」になる)ために2010年にルールが変わり、現行のフライング即失格に変わった。

 ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が9秒58の世界記録をマークしたのが2009年。現行の制度になる前だった。そして、現行制度になった2011年の世界陸上ではフライングで失格となっている。フライング即失格という厳格な制度は、ボルトレベルの選手にも影響を及ぼしており、今のルールのままではボルトの記録は破られることはないのではないかとも言われている。

0秒100に近づく宿敵

 0秒100未満フライングのルールを思う時、ある選手のことを思い出す。今回のダイヤモンドリーグには出場していなかった、桐生のライバル山県亮太(セイコー)のことである。

 リオデジャネイロ五輪で銀メダルに輝いた男子400メートルリレーの1走である山県の武器はそのスタートにあり、反応時間は驚異的である。

 リオデジャネイロ五輪男子100メートル準決勝では全選手中トップの0秒109で反応。五輪直後の国内大会でも0秒107とフライングぎりぎりのところまで研ぎ澄ましてスタートしている。

 山県のスタートは「神業」「職人技」と呼べる粋まで到達している。

 かたやスタートで山県に負け、追いかける状況から走りに力みが生じ、何度も辛酸をなめてきた桐生。その桐生が今季、磨きをかけてきたのが、このスタートの反応だった。

桐生も近づいていた0秒100の壁

 桐生が9秒台を狙う上でのポイントはいくつかあったと思う。中盤から後半にかけて最高速度を高めること、終盤の落ち込みを抑えること……。その中の一つにスタートの改善はあったと思う。特に勝負、山県との勝負を考えたときにスタートを速めることは重要な要素だったはずだ。

 事実、今季はスタートの号砲への反応を高める練習をしてきたという。向かい風0.3メートルの中、10秒04の向かい風日本最高をマークした4月29日の織田記念での反応時間は0秒111と山県に迫る反応を見せた。

 昨年、予選落ちしたリオデジャネイロ五輪男子100メートル予選での反応時間は0秒150だから、大きく改善している。

 ただ、改善はできても速ければいいというものではなく、0秒100の壁がある。もし、スタートの速さを追求した上での結果が、フライングによる失格だとすれば少し皮肉なものである。

前向きな桐生

 とはいえ、桐生のコメント見る限り、前を向いている。上海から帰国後、メディアの取材にこう答えている。

 「これで(スタートを)ビビったら負け。この遠征が意味なくなってしまう。スタートのほんの少しの確認ができたと思ってこそ、収穫になる」

 スタートは明らかに改善され、安定感は増している。あとは追い風がそんなに吹かなくても、向かい風でなければ日本人初の9秒台が待っている。そんな思いにさせてくれる今季の桐生である。