10秒の壁の前に立ちはだかった0秒100の壁
冒頭の関係者の言葉のように、映像を見た筆者も抜群のスタートのように見えた。ただ、陸上のスタートは一つの基準がある。
「反応時間が0秒100未満の場合は不正スタート(フライング)」
この基準は、選手がちゃんと音を聞いてスタートしているかどうかを表している。医学的には、人間が音を聞いてから反応するまで最低でも0秒1はかかると言われている。だから、スタートの反応時間が速くすればいいというものではない。0秒100未満では、不正スタートなのだ。
では、抜群のスタートに見えた桐生のスタートの反応時間はいくつだったのか。
0秒084。
現代の医学的根拠に基づいたというルールでは、桐生は「音を聞く前に反応した」ということになる。
「自分ではぴったり(のタイミングで出たスタート)だと思っていた」と桐生はコメントしている。もしかしたら、音を聞いてスタートしていたのかもしれない。でも、医学的根拠と言われる0秒100を判断基準とし、さらに判定装置で0秒100未満と判定されてしまった以上、どんなに抜群のスタートでも、フライングで失格という判定になることは間違いではない。
それがルールというものである。