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もともと日本の男子バスケットボールリーグには、NBLとbjリーグの2つが存在していました。2016年、その2リーグを統一して誕生したBリーグ。島田氏はBリーグ元年の影響をどのように受け止めているのでしょうか。
前編では島田氏の経営論についてじっくりと語っていただきましたが、後編では、ジェッツのこれからの戦略、そしてスポーツクラブが目指すべき「地域愛着」の概念についてもお伺いします。
【ゲスト】

株式会社千葉ジェッツふなばし
代表取締役
島田慎二氏
1970年11月5日生まれ。新潟県出身。大手旅行会社を退職した後、1995年に株式会社ウエストシップ、2001年に株式会社ハルインターナショナルを設立し、海外旅行事業を担った。2010年には株式会社リカオンを設立し、コンサルティング事業に従事する。
2012年、株式会社ASPE(千葉ジェッツ)の代表取締役に就任し、翌年株式会社ジェッツ・インターナショナルを設立。現在は特定非営利活動法人ドリームヴィレッジの理事長、一般社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグの理事を務める。
【聞き手】

株式会社グラッドキューブ
代表取締役CEO
金島弘樹
金融業界を経て2007年に株式会社グラッドキューブを創業。幅広い業種のインターネット広告に関するコンサルティング業および広告運用を経て、インターネット広告代理店ならではの視点を活かしたサイト UI/UX解析・改善ツールのSiTest(サイテスト)を開発。あらゆる分野の解析を得意とし、その鋭い視点と先見性を評価され数多くの賞を受賞。
2017年から「Sports × AI × Analyze」というテーマでスポーツビッグデータのAI予想解析メディア SPAIA(スパイア)を立ち上げ、スポーツファンに新しいスポーツの愉しみ方を提供し海外進出も視野にいれている。
「千葉ジェッツ島田社長に聴く最強の組織論 [前編] ~ジェッツの活動理念ができるまで」へ
■Bリーグはチームに恩恵をもたらしたのか
金島:bjリーグとNBLが一つにまとまり、昨年9月にBリーグが発足して約8か月が経ちました。データを見ても、観客動員数は千葉ジェッツが圧倒的に一番です。 Bリーグになったおかげで、他のチームも含めて何か変わったのか。また、Bリーグによる恩恵があったのかどうか、恩恵を受ける努力をしているから恩恵を受けているのか。俯瞰してBリーグだけを見た場合どういう風に考えていらっしゃいますか。
島田:非常に難しいところですね。そもそもメディア側としては、bjリーグとNBLという二つのリーグがあるということで取り扱いづらくなるんです。どっちが強いんだという話になってくると分かりにくいので、メディアが付きにくくなります。
分かりづらいと、メディアバリューが低くなると思っています。リーグを変えた時は異端児みたいに言われましたが、二つあっても良くないと、当時からずっと言い続けていました。
それが一つになったことでメディアにとっては分かりやすくなったのですが、二つを一つにしたことで1+1が、2、3くらいになっていても、5、6、7にはなっていない。それはまだリーグが発展途上だからです。そういう意味では、リーグの支援により各クラブの成長性が加速しているという印象はないかもしれません。
去年の1年間、ラストbjリーグとNBLのラストシーズンに各クラブがしてきた経営努力があり、そこにBリーグというお祭りが重なって、少し跳ねた。そういう意味では、卵が先か鶏が先かではないですけど、リーグの統合がポジティブに寄与しているのか、危機に備えた経営者の努力のおかげで伸びているのかどうかというのは、非常に見方が難しいと思います。
うちで言えば、正直昨年からBリーグ元年に備えて経営努力をしてきたので、他のクラブよりも跳ねているのだと思います。Bリーグの効果が多少あるのかもしれませんが、少なくともリーグの貢献がめちゃめちゃ大きいという感じは、あまりないです。

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金島:自分たちがしっかりやってきたからこそ積み上がっているデータが確かにありますし、Bリーグができたからといって観客動員数が大きく増えたチームがあるわけではないので、やはり島田社長がおっしゃるように、恩恵というよりはどちらかというと経営努力が大きいんじゃないかと。それと複合で、今がある。そしてまだまだ強くなる。
島田:そうですね。まだまだどちらかというと、そう言われても仕方ないかもしれません。
■経営者としての意思決定のタイミングと戦略
金島:最近取り組んでいった中で、ピンチだったことはありますか。「人・モノ・金・時間・情報」が有限の中で、過去に色々と経験されているのでピンチだとは思ってないかもしれませんが、一般の経営者であればそういう風に感じていたかもしれないことはありましたか。
島田:そうですね。そういう意味ではおっしゃる通り、私はピンチってあんまり考えない方です。正直に言って前の会社では色々ありましたが、このジェッツという仕事を請け負っている中ではあまりなくて。そもそもあり得るとしたら、最初に引き受けるかどうかというところだった。あとは再建を果たすための博打としてリーグを変えたこと。
我々は「千葉ジェッツ」という名前で千葉県全域で活動してきて、明確にホームタウンを決めなければならなかった時に、船橋市か千葉市かの両市からラブコールをいただいていたので非常に悩みました。結果として、船橋市がホームタウン、千葉市がフレンドリータウンということで試合を開催、地域活動も両市に対して積極的に行っております。
そこらへんが多少、私が苦しんだというか、意思決定に悩んだというところではありますかね。
金島:選手もスタッフの方も社長自身も、そういう意思決定したことでより分かりやすくなりますよね。
島田:そうですね。
あとは全然違う次元で、うちがbjリーグからNBLに移籍をした唯一のチームなんですが、移籍した初年度に20連敗しているんです。当時はバカじゃないのっていう話だったわけで。bjリーグでも大して強くないし、NBLなんか行っても打ちのめされるだけなのに、島田社長がジェッツを潰す気かみたいに叩かれながら決断しました。
今でこそ我々の決断はファンからも業界的にも正解だったと。あの時にジェッツをあえて戦略的にブランディングして、挑戦的なクラブとして世の中にアピールしていこうと決め、苦労した結果、強くなったり人気が出てきたので、あれがあったからだよねって言われるようになりましたけど。
それはちょっと小さい話ですけど、自分で決断したことがいきなり花開いたわけではないんですよ。そこで打ちのめされて毎回ダブルスコアで、ファンから私に向かってタバコでも投げられるんじゃないかみたいな空気の中、「打倒トヨタ」(当時アルバルク東京のスポンサーがトヨタ自動車だったため)を標榜して資金調達していたのですが、NBLに移籍して2年目には5戦2敗で3勝と勝ち越したのです。
金島:逆にその20連敗があったからこそ、みんな危機感を持ったり、より連帯感が生まれたりしたのかもしれないですね。そこでいきなり10連勝とかしてたら、もしかしたら今とは違う状況だったのかなあと。
島田:そうですね。その屈辱を晴らして、なんとか結果で示したいっていうのが経営者にとってのモチベーションになり、そこで私の闘争本能に火がついたというか、絶対倒してやる、みたいな感じになりましたね。そういうエピソードがありました。

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■目標を達成した後の、社長としての役割
金島:しっかりと観客動員数も入るようになって、富樫選手のようなスタープレイヤーあるいは外国人選手も抱えている。そしてチャンピオンにもなってきた。経営としての基盤は固まりつつあって、スタッフの向上心もあふれていると思うのですが、今後どういう風な経営・支援をしていきたいか、現時点で何か考えていらっしゃいますか。
島田:私は原理原則主義者なので、そもそも私がBリーグの一クラブであるジェッツの仕事をどこまでやっていくのかというのは当然考えます。
もともとは再建のために来ましたが、再建はもう果たしているどころか今は経営数値全般、観客数や売り上げやSNSのフォロワー数などリーグでもほとんどトップになりました。来年は観客動員数の平均を4500人から4800人にしようとか、売上が今9億だから10億にしましょうとかいうことが、私がやるべき仕事なのかというのは常に考えます。
それが一つと、このクラブが目指すべきなのは、質の向上でしょうね。顧客満足度を高めるというか。要は急成長していきているので、色んな成長痛もあるわけです。たとえばお客さんはたくさん入ってきているけど、みんな立ち見だったり、どこに座ればいいのか分からないという感じだったり。ボランティアや中でさばく人の人数が足りないとか、その人たちの教育が追い付かなくてホスピタリティが落ちているとか。エンターテインメントの部分はもうちょっと投資してもっとアグレッシブにいかないといけないよね、とか。いっぱいあるわけですよ。
私はこの5年で日本一になると宣言してやってきたんです。実際に5年で日本一になりました。有言実行できて、売上も観客数も1位になり、スタッフがそれについてきてくれた。私が5年といったことを実現するために無理もしているんですね。その無理、成長痛をリハビリしていく。極端な話、私じゃなければ会社が成り立たない雰囲気を仕組みで変えていくであるとか、質を高めたりとか、そういうことが私が今やらなければいけないことなのかなと思っていますけどね(笑)
金島:その成長痛っていうのがキーワードかなと思います。急成長しすぎることによって、知らない間に社員が疲弊したり、観客へのホスピタリティができていなかったりということをしっかりとなくすよう、一人ひとりがしっかり時間を作って、自分の事業とかサービスに集中できるようにしようということだと思います。
■Bリーグが目指すべきは、「地域愛着」という世界観
金島:最後に、Bリーグ2017年の抱負や目標はありますか?
島田:さっき言ったような質の向上の話はベースにありながらも……月並みに優勝ですというのもなんか違う気がするんですよね。そういうことじゃないんだと思います。こういう当たり前の質問って私は困っていたんですけど。
金島:ファン目線であればあるほど簡単に優勝と言えないというか、もっとファンを喜ばせるエンターテインメントをしっかりと構築していきたいと。そういう風に色んな記事で島田社長の言葉を拝見していて、今の「優勝とは簡単に言えない」につながるのかなと感じました。まずは観客あるいはステークホルダーを喜ばせてハッピーにさせるということがあるからこそなのかなと。
島田:そうですね。そういう意味では、究極は理念追求なんですけど、もうちょっとキャッチーな言葉でいうと、「地域愛着」と私は言ってます。そういう世界観を、バスケット界というかスポーツ界で作りたいんですよね。
たとえばプロ野球は大きな親会社みたいなのがいるじゃないですか。地元の夏祭りなんか顔を出さないですよね。サッカーも地域密着を謳っていますけど、親会社がそのまま胸スポンサーやメインスポンサーだったりします。
それに対して、バスケットは大きな親会社を持たないところが多いんです。だから地域で愛されて生かされることが、生きる全てなんですよね。だからそういう意味で、もっと必死なんです。事業規模は小さいし社会的存在感は小さいけど、もっと経営者の魂みたいなものが、他のスポーツに負けないものがあるのがバスケの特徴だと思うんです。
そういう思いで、地域に根差すというよりは、地域を生きる術として必死になってやっている。うちもそうやってきて、多少は他のクラブに比べて存在感を持てるクラブに成長してきましたが、最初の頃は頭を下げて、何とかお願いしますお願いしますって言って、今でもそれは変わらないです。その甲斐あってか、今はネットとか見ててもたまに「ジェッツがあるから船橋に引っ越そうかなあ」と言ってる人がいたり、「ジェッツの試合が観やすいように、どうせ関東圏に行くんだったら千葉がいいね」とかいう投稿が出てきたり。

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うまく言えないですけど、「地域密着」はJリーグで、バスケは「地域愛着」だと。地域密着はプロセスであって、地域愛着が目的だというのがうちの考えで。やっぱり勝った負けたっていうのは相対的な議論なので、そこに執着しちゃうとビジネスとして安定した経営をするには、あまりにも変動要素が大きすぎます。そこに依存しちゃいけない。
子どもが部活をやっていて、大会に出るっていったら仕事を休んででも行きますよね。これが究極です。そこまではいかなくても、そういう親子の感情を介した愛着というか、愛情と同じくらいのレベルに引き上げていく世界観をバスケットで作りたいと思っているんです。うちはどこよりも最初にそういう域に達するような、深層心理にまで入り込むように愛される存在になりたいなと思っています。観念的ですが、究極のハッピーってそういうさまなのかなって。そのために日頃イベントしたり、夏祭りに市民として盆踊りしにいったりすることもあるし。
多分、このBリーグのようなリーグは、世界的に見てもなかなかないんですよ。私はこれは世界初だと思っています。なので、すごくチャレンジだと思います。
(取材:金島弘樹 / 文・構成: SPAIA編集部 / 写真:蒼山隆之)