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大坂なおみ躍進の秘訣は「万能型」への急成長

2019 2/11 07:00田村崇仁
大坂なおみ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

全豪オープン初制覇で四大大会2連勝

テニスの四大大会、全豪オープンの女子シングルス決勝で21歳の大坂なおみ(日清食品)がペトラ・クビトバ(チェコ)に7-6、5-7、6-4で競り勝ち、初の頂点に立った。昨年の全米オープンに続き、四大大会2連勝の快挙達成で、世界ランキングは男女を通じてアジア勢初の1位に上り詰めた。「大坂時代」の到来を印象づける強さの秘けつは「万能型選手」に急成長するデータにも表れている。

サービスエース断トツトップの59本

全米制覇から数カ月で大きな進化が見られたのは破壊力抜群のサーブに加え、リターンの強さと速さにある。大坂は全豪オープンで7試合を戦い、サービスエースは合計59本で、出場選手の中で断トツのトップ。2位は準決勝で大坂に敗れた元世界1位のカロリナ・プリスコバ(チェコ)で37本だった。1試合平均でも8.43本で、プリスコバの6.17本を大幅に上回った。

サービスエース表,ⒸSPAIA

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ファーストサーブのスピード別に見ると、大坂は時速192キロで5位。199キロでトップのビーナス・ウィリアムズ(米国)には劣ったが、磨き上げた得意のサーブをワイド、ボディー、センターへと効果的に打ち分け、スライスサーブなど多彩な種類でも苦しい場面を切り抜けた。

リターンも大きな武器

一方、肉体改造で下半身が強化され、リターンも最大の武器として際立つ数字を残した。相手のファーストサーブに対するリターンで挙げたポイントは、7試合で136ポイントと2位のプリスコバを抑えて堂々のトップだ。セカンドサーブに対するリターンでのポイントは83ポイントで、クビトバに競り勝ってこちらもトップだった。

リターン表,ⒸSPAIA

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長身から繰り出す角度のあるサーブを持つ準決勝のプリスコバ戦、決勝のクビトバ戦でもベースラインから下がらず、セカンドサーブになると、さらに大胆に前へ出てプレッシャーをかけた。体幹の強化を徹底し、多少振り遅れてもボールをコントロールできる力がついた自信がその戦略を支えている。土壇場で流れを引き寄せたのは間違いなく力強く、素早いリターンの成長だった。

ブレーク成功も最多

「私のアイドル」と目を輝かせる憧れの選手、四大大会通算23勝のセリーナ・ウィリアムズ(米国)を支えたスタッフから成功のメソッドを注入され、オフに厳しい鍛練を積んだ成果が全豪で表れた形だ。

トレーニング担当のアブドゥル・シラー氏とは「コート上のスプリンター」を目指し、ラケットを握る時間を減らして早朝から短距離、長距離を厭わず走り込んだ。精神面も支えるコーチのサーシャ・バイン氏は「一歩前に出て勝負を」と説いて強く打ち返す準備を重ね、ストローク戦でもベースラインから下がらずに圧倒した。そんな新たな大坂スタイルが確立されつつある。

勝負どころで集中力を研ぎ澄まし、1回戦から決勝まで合計31度で最多ブレーク成功数もマークした。1試合平均4.4度のブレークを奪い、試合を有利に進めていたことがデータ上でも明らかだ。2位は準優勝したクビトバで7試合、計28度のブレーク成功。3位は計27度でプリスコバだった。

ブレーク表,ⒸSPAIA

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男子で圧倒的な強さを示して優勝したノバク・ジョコビッチ(セルビア)はデータで見ると、サービスエースが計45本で18位。相手のファーストサーブに対するリターンで挙げたポイントは148ポイントでトップと鉄壁の守備力を証明し、合計42度で最多ブレーク成功数もマークしたが、いかに大坂の攻守のバランス感覚が優れていたかが分かる比較だ。

メンタルの成長も

大坂は決勝でメンタル面の成長も示した。マッチポイントを握りながら2セット目を逆転されたが、ここから崩れずに立て直した精神力は成熟した証しでもある。ファーストサーブの確率は第1セットの56%から最終セットで64%に上昇。第2セットで凡ミスは14本に増えたが、最終セットは「感情をオフにした」とトイレタイムで心身を一新。無表情を貫いて再び集中力を高め、凡ミスを10本まで減らした。ファーストサーブを決めた時のポイント獲得率を89%にまで高め、安定感を完全に取り戻したことが、勝利につながった。

次は生涯グランドスラム(四大大会全制覇)達成を視野に入れる。それには技術の一層の向上が必要だ。残る赤土の全仏オープンと芝のウィンブルドン選手権は3回戦進出が過去最高。ハードコートの全米、全豪を2連勝したが、未完成な部分はまだ少なくない。

赤土では武器とする強打が弾むと勢いが弱まり、ラリーが長くなりがちで体力面も試される。足を滑らせながら打ち返すクレーコート独特のフットワークもこれまで苦手にしている。芝は得意の強力サーブを生かせるが、イレギュラーバウンドへの対応が難しい。しかし大坂は全てのサーフェスに適応する万能型の能力を身に付けつつある。

追いかける立場から追われる立場に変わり、難しさは当然出てくるだろう。それでも来年の東京五輪も見据える日本のスーパースターは、世界1位に今後も君臨する意気込みだ。「ポスト・セリーナ」として、夢の生涯グランドスラムを達成する無限の才能を秘めている。

大坂 なおみ(おおさか・なおみ)1997年10月16日生まれ。父はハイチ出身、母は日本人。3歳から米国で暮らす。2013年に15歳でプロに転向。翌年に11年全米オープン女王のサマンサ・ストーサー(オーストラリア)を破って脚光を浴びた。16年に四大大会デビューの全豪オープンで3回戦進出などと躍進し、女子ツアーを統括するWTAの最優秀新人賞。昨年はツアー大会で初優勝し、全米で日本勢初の四大大会シングルス制覇。姉のまりもプロ選手。日清食品。180センチ。21歳。大阪市出身。