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遅咲きの苦労人 杉田祐一の躍進を振り返る

2017 9/13 14:03跳ねる柑橘
杉田祐一選手、テニス
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錦織だけじゃない!杉田祐一の大躍進に迫る

日本を代表する男子テニス選手といえば圧倒的な成績を誇る錦織選手、そして圧倒的な個性の持ち主である松岡修造氏。
彼らの前では影が薄れがちだが、もちろん日本男子テニス選手は彼ら二人だけではなく、トップには何人もの選手がいる。添田豪選手、伊藤竜馬選手、西岡良仁選手、ダニエル太郎選手……。そして今回ご紹介する、杉田祐一選手だ。負傷の錦織選手に代わり日本テニス界を牽引する杉田選手に迫る。

杉田祐一選手の略歴

杉田祐一選手は1988年生まれの宮城県仙台市出身で、錦織選手の1歳先輩だ。中高は学校のテニス部に所属し、2005年のインターハイでシングルス優勝。翌2006年には全豪オープンのジュニアシングルスに出場し、同年にはプロデビューを飾った。2007年には早稲田大学に進学。現在は三菱電機に所属している。これまでにフューチャーズ大会で12勝、チャレンジャー大会で9勝をあげている。
2009年の全米オープンからはグランドスラムの予選に参加しており、これまでに全豪、全仏で1回、ウィンブルドンで3回本戦出場を果たしている。

スランプを経ての飛躍

杉田選手の2016年までの経歴を駆け足で見ていこう。
高校3年の2006年にプロデビューした杉田選手のプロ生活は、苦悩とともに始まった。早稲田大学に進学した2007年にスランプに陥り、ATPランキングが一気に1000番台にまで落ち込んでしまう。だが2008年には、フューチャーズ大会で5勝をあげるなど調子を取り戻すと、341位にまでランクアップさせた。
その後はチャレンジャー大会でも徐々にタイトルを獲得し、着実に力をつけていく。全日本選手権では、デビスカップ日本代表でもチームメイトの伊藤竜馬選手や添田豪選手らと決勝を争うなど、日本屈指のテニスプレーヤーとなった。

グランドスラム本戦に初出場

2009年から予選に参加していたグランドスラムだが、2014年のウィンブルドンでついに本戦出場を果たす。グランドスラムはテニス界の最高峰の大会であり、予選を通過するだけで賞金を獲得できるほか、ATPツアーポイントが加算される。この本戦出場というのは、トップ中のトップ選手たちを除く多くのテニス選手にとって大きなステップアップなのだ。
これを機に、杉田選手は本戦出場定着とATP大会の優勝を目標に定め、更に成長を志した。
2015年には2つのチャレンジャータイトルと、2年連続のウィンブルドン本戦出場を果たした。

2016年のステップアップ

2016年には全豪オープンで初の本戦出場を果たし、続く2月のチャレンジャー大会で優勝すると、2月末のATPランキングで99位に浮上し、はじめてトップ100入りを果たした。さらに初のATP500シリーズ本戦初出場となったゲリー・ウェバー・オープンでも初勝利し、7月にはマスターズ1000の本戦出場を決めた。
そして8月のシンシナティ・マスターズでは、2017年シーズンで大旋風を巻き起こしているアレクサンダー・ズベレフ選手、そしてニコラ・マユ選手を破って日本人4人目となるマスターズ2勝を果たした。

2017年、ATPツアー初タイトル!

2017年は3月にチャレンジャー大会で2勝、さらに4月にはバルセロナ・オープンではラッキールーザーで出場しベスト8進出し、ATPランクは73位に浮上した。
全仏オープンで初の本戦出場を果たした後、ツアーがクレーコートからグラスコートにうつると杉田選手が躍動。ウィンブルドンの前哨戦であるアンタルヤ・オープンではダビド・フェレール選手、マルコス・バグダディス選手らトップ10経験者らを次々と破り勝ち進むと、見事ATPツアー初優勝を果たした。グラスコートのATPツアー優勝は、日本人男子で初の快挙であり、錦織選手も松岡氏も成し遂げたことがない。

杉田選手の勢いは止まらない

グラスコートのATPツアー優勝により大会後のランキングで44位となり、松岡氏の現役最高位46位を上回った。錦織選手に次ぐ日本人歴代第2位のランクとなったのである。
その後もウィンブルドン本戦1回戦でクライン選手に勝利し、グランドスラム初勝利をあげるなど勢いは止まらない。
8月のマスターズ大会、ウエスタン&サザン・オープンではベスト8に進出し、続くウィンストン・セーラム・オープンでは第10シードで本戦からの出場など、大躍進を遂げた。
錦織選手がケガで2017年シーズン残りのツアーを欠場することになった今、日本テニス界を牽引するのは紛れもなく杉田選手となったのである。

プレースタイル:グラスコートが得意

一般にツアーを戦う選手たちは、全仏オープンまでのクレーコートシーズンからグラスコートにシフトすることに苦労する。サーフェスの性格がクレーと芝では大きく違いうためだ。バウンドや球足の速さはもちろん、滑りやすさや足腰への負担のかかり方が異なるのだ。
そのため適応が難しく、錦織選手をはじめトッププレーヤーも負傷してしまうことが多い。そんななか杉田選手はグラスコートとは相性が良い。グランドスラム初の2回戦進出を果たしたウィンブルドンは言うまでもなくグラスコートであり、初優勝したアンタルヤ・オープンはそのウィンブルドンの前哨戦である。
杉田選手はフットワークの軽快さが特徴で、リターンも強烈な選手と言われる。この特徴とグラスコートの特徴との相性が良いのか、滑りやすく足をとられる選手が多い中、杉田選手は転ばずに走り回り、食らいつき、ポイントを奪い、球足の速いグラスコートで脅威となる鋭いリターンでブレークを積み上げる。杉田選手は日本ではまだ稀なグラスコート向きの選手と言えるだろう。

次なるステージ、ツアー常連を目指す!

杉田選手はこれまで多くのチャレンジャー大会やフューチャーズ大会のタイトルを手にしてきたが、グランドスラムやATPツアー大会の本戦にストレートインするには、それだけでは十分とはいえない。2014年以降の杉田選手が目指し、少しずつ実践できているツアー本戦での勝利、そしてタイトルの獲得が不可欠なのだ。
ツアーの常連になればシードを獲得できることもあり、グランドスラムも本戦ストレートインもできるようになる。そうすれば、毎大会予選から戦って消耗する体力を本戦にあてることができるし、より戦略的にツアーを戦うことができるようになる。ATPランク50位台に入った杉田選手が次に向かうべきなのは、このツアー常連というステージなのだ。

今後の飛躍に目が離せない

現在の日本男子テニス界は、残念ながら錦織選手頼りのところがあるのが現実だ。だが西岡選手のような若手選手が徐々に実力をつけており、更には杉田選手が大躍進を果たしているためその構図も変わりつつある。この変化はテニスファンにとっては、待ち焦がれた嬉しい瞬間ではないだろうか。
デビューから11年目にしてようやく手にした初タイトルと、その勢いのままにATPランキングを駆け上がる杉田選手。日本男子テニス界をけん引する新たなリーダーに期待したい。