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グランドスラム4大大会を知ろう(前編)

2017 6/28 09:44跳ねる柑橘
tennis grand
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グランドスラム―全テニス選手が夢見る舞台

プロテニス最高峰の大会、グランドスラム。全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドン選手権、そしてUSオープンの4つの大会を指します。
グランドスラム4大大会はすべてのテニス選手が出場を目指す大舞台です。今でこそ錦織圭選手が当然のごとく全大会の本戦に出場していますが、簡単に到達できない場所だということは忘れてはいけません。
4つの大会とも19世紀末や20世紀初頭から行われてきた由緒ある大会ですが、当初はアマチュア選手だけが出場できる大会でした。テニス界に変革が訪れた1968年。プロ選手にも4大大会の出場資格を与える「オープン化」が行われて現在の形に。ウィンブルドン選手権以外の大会につく「○○オープン」という名称は、1968年以降に改称された大会名です。
そんな歴史ある大舞台グランドスラムですが、それぞれ大会ごとの個性があります。大会の歴史や、会場の特徴などを知ったうえで観戦すると、さらに楽しむことができるはず。そんなグランドスラム4大大会の個性について、2回にわたりご紹介していきます。前編である今回は、全豪オープンと全仏オープンです。

全豪オープン―センターコートには年間グランドスラム2回の英雄の名が

毎年1月から1年をかけて世界中を回るプロテニスツアー。その中で最初に開幕するグランドスラムの大会が、全豪オープンです。
開催地はオーストラリアのメルボルン。南半球の1月は真夏。強烈な暑さと日差しによる過酷な環境のもと、陽炎が立つハードコートで死闘が繰り広げられるのが、会場のメルボルン・パークです。 このメルボルン・パークには、オーストラリア出身の伝説的テニス選手の名前がつけられたテニスコートがあります。
最大収容人数14,820人を誇るメルボルン・パークのセンターコートの名前は「ロッド・レーバー・アリーナ」。伝説的なテニス選手、ロッド・レーバーさんにちなんで名前が付けられました。ロッド・レーバーさんは4大大会シングルスを通算11勝したほか、生涯で200ものタイトルを獲得した名選手。1962年と1969年の2回、年間グランドスラム(1シーズンで4大大会すべてで優勝すること)を達成した男女でも唯一の選手です。
もうひとつが、メルボルン・パークのサードコート「マーガレット・コート・アリーナ」です。こちらは女子テニス界の伝説マーガレット・スミス・コートさんの名を冠しています。7,500人収容のキャパシティを備えます。マーガレット・コートさんはオープン化以降の女子シングルスで初めて年間グランドスラムを達成したほか、女子歴代1位となるグランドスラム24勝という記録の持ち主。ダブルス、混合ダブルスを含めると獲得タイトル数64という驚愕の数字を刻みました。
年間グランドスラムを達成した選手が男女ともにいる。オーストラリアがテニス大国であることがわかるエピソードですね。

全豪はかつてグラスコートだった!

全豪オープンといえば、青いハードコートが目に浮かぶ方も多いはず。しかし、この大会のサーフェスはかつてハードコートだったのをご存知でしょうか。
現在の会場メルボルン・パークが建設されたのは1988年。それまで会場として使われていたのは、メルボルンにあるクーヨン・テニスクラブという施設でした。ここのサーフェスはグラスでした。メルボルン・パークに会場が変更され、大きくバウンドするハードコートに変わったことで、全豪オープンで繰り広げられるテニスの性格が大きく変わることになりました。
現在、クーヨン・テニスクラブは全豪オープン前に「クーヨンクラシック」というエキシビションが開催されることで知られています。全豪オープンの前哨戦という位置づけのため、ここのセンターコートもサーフェスをメルボルン・パークと同じ素材のハードコートになっています。

灼熱のメルボルン・パークで1年の行方をうらなう

メルボルン・パークには3つの屋根付きコートがあります。先にご紹介した「ロッド・レーバー・アリーナ」と「マーガレット・コート・アリーナ」、そしてセカンドコートの「ハイセンス・アリーナ」です。
1988年に作られたロッド・レーバー・アリーナは、グランドスラムのセンターコートとしては初めて開閉式の屋根が設置されたコートですが、その目的は雨対策というよりは暑さ対策の意味合いが強かったのだとか。大会も暑さ対策をとっており、「エクストリーム・ヒート・ポリシー」と呼ばれる、熱中症対策のためのルールがあります。
これは外気温が35度を超えると、主審の判断のもと適用されるもの。3つの屋根付きコートでは屋根が閉められ、それ以外のコートでは試合開始時間の調整が行われます。
シーズン開幕直後の大舞台のため、オフシーズンの準備と練習の真価が問われることになります。またトッププロが拠点を置く欧米から遠い南半球のメルボルンまでの長距離移動と時差ぼけ、そして真夏の酷暑にも順応しなければならない、ハードな大会となっています。

全仏オープン―赤土煙る屈指の難所

5月から6月にかけて開催されるツアーで2番目のグランドスラムが、全仏オープンです。会場は、華の都パリ近郊にある「スタッド・ローラン・ギャロス」。この名称にも実在の人物の名前が使用されています。ローラン・ギャロス氏は、世界初の地中海横断飛行を成功させた名パイロット。第一次世界大戦中にはフランス軍のエースパイロットでもありました。
全仏オープン最大の特徴は、なんと言っても赤土。4大大会唯一のクレーコートです。クレーコートはハードコートやグラスコートよりも足元が滑りやすく、球足は遅く、スピンボールのバウンドへの影響が出やすいという特徴があります。強烈なスピンボールと優れたフットワークを武器とするラファエル・ナダル選手はこのサーフェスを得意としていて、2016年までに全仏だけで9回も優勝しています。
一方でナダル選手同様にグランドスラムを10回以上制しているロジャー・フェデラー選手やノバク・ジョコビッチ選手は、全仏の優勝回数は2016年まで1回のみ。4大大会制覇を目指すトップ選手にとって最大の難所であるといわれます。

フランステニスの偉人の名を冠するコート

このローラン・ギャロスにも2つ、偉大なテニス選手の名を冠したコートがあります。 まずはセンターコートの「コート・フィリップ・シャトリエ」です。フィリップ・シャトリエさんはフランスの元選手で、引退後はフランステニス連盟やITF(国際テニス連盟)の会長も務められました。スタンドは14,840人を収容。クレーコート世界最高の舞台として、多くの赤土のスペシャリストたちがこの地を目指しています。
続いて約10,000人収容のセカンドコート「スザンヌ・ランラン・コート」です。スザンヌ・ランランさんは世界初のプロテニス選手。オープン化前の4大大会ではシングルス8勝を記録しています。白血病の39歳の若さでこの世を去ったランランさんは、フランスでは「テニスの女神」としていまも敬愛されています。
現在、グランドスラムの4大大会では唯一、センターコートに屋根がない会場となっています。クレーコートは他のサーフェスと違い少量の雨なら試合が続行されますが、悪天候が続くと丸一日全試合が延期となることも。コート・フィリップ・シャトリエとコート・スザンヌ・ランランの両コートには、2020年頃をめどに屋根が設置される予定です。

もっともファッショナブルなグランドスラム

全仏オープンはファッションも注目される大会です。パリという土地柄と過ごしやすい6月の開催ということもあって、男女ともオシャレなウェアに身を包みプレーに臨みます。パリ市街地からもそう遠くないため、訪れるお客さんの装いも華やか。スポーツとファッションが融合した様を楽しむことができます。
また、ローラン・ギャロスに名を刻むテニスの女神スザンヌ・ランランさんも、女子テニス界のファッションに新たな風を吹き込みました。コルセットをつけてドレスがテニス女子のドレスコードだった当時に、半袖&膝丈スカートという斬新なスタイルでプレーしたのです。
また4大大会で唯一、審判のコールがフランス語なのも特徴です。何もかもが独特な全仏オープン。現地観戦はもちろん、テレビ観戦でもいつもと違うワクワクを持ってみることができる大会です。

波乱を含む前半2大会

今回は4大大会のうち、最初に行われる全豪と全仏の2つの大会をご紹介しました。全豪は最初の大舞台であるうえに環境への順応が問われる大会として、そして全仏はクレーコートというサーフェスの影響で、トップ選手たちが予期せぬ苦戦や早期敗退を強いられることもあります。
グランドスラムの開催国は4か国ともテニスの歴史の長い強豪国です。会場の雰囲気やコートにつけられた各国のレジェンドの名前やエピソードを知ることで、楽しみ方の幅も広がるのではないでしょうか。 次回はグランドスラムの後半戦、ウィンブルドン選手権とUSオープンをご紹介します。