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復活を遂げたフェデラーの涙~宿敵ナダルとの激闘を制し全豪テニス制覇!

2017 4/12 20:20もりちょく
テニス
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Ⓒゲッティイメージズ

35歳のレジェンドがながした涙

2017年1月、オーストラリア・メルボルン。史上最多となる72万8763人もの観客が集まったロッド・レーバー・アリーナの中心で、35歳の彼もまた、その瞬間をじっと見守った。
ビデオ判定でポイントがコールされた瞬間、両手を大きく挙げて飛び跳ねたのは、ロジャー・フェデラー選手(以下敬称略)。これまで、グランドスラム男子シングルス最多となる17回の優勝、237週連続という歴代最長世界ランク1位など数々の伝説を生み出してきた。

「5カ月前にはこの場所を想像すらできなかった。素晴らしいカムバックだった」。

出典: 毎日新聞

全豪オープンテニスの優勝スピーチで涙を浮かべてこう語ったフェデラー。そこには、史上最高のテニスプレイヤーと称されながらも、半年もの間、コートから離れざるを得なかったレジェンドの喜びと苦しみがあった。

レジェンド・フェデラーの誕生?ニューボールズの時代?

16歳でウィンブルドンジュニア単複制覇を果たしたフェデラー。翌1999年にプロ人生をスタートさせる。当時のテニス界は、アンドレ・アガシ選手、ピート・サンプラス選手の2強時代。2001年ウィンブルドンで、5連覇を狙うサンプラスを破る大金星を挙げることに。
プレーも積極的なネットプレーから、ベースライン上での打ち合いを磨き上げ、オールラウンドプレーヤーとなる。数々のレジェンドたちを打ち破り、レイトン・ヒューイット選手、マラト・サフィン選手、アンディ・ロディック選手らと並び、2000年代の新たなテニス界を牽引する世代として「ニューボールズ」と称された。
2002年に世界ランクトップ10入り、翌年のウィンブルドンでグランドスラム初優勝を果たしたフェデラー。2004年には世界ランク1位に輝き、世界ランクトップ10との対戦では無敗と、同じニューボールズのライバルたちをも寄せ付けない強さを魅せる。
以降、グランドスラム歴代最多優勝、歴代最長世界ランク1位、史上6人目となる生涯グランドスラム制覇などを記録し、史上最高のテニスプレーヤーとして、新たなレジェンドとして君臨することになった。

陰りが見え始めたレジェンド?BIG4の時代へ?

これまで王者に君臨し続けてきたレジェンドも30代に突入。かつてニューボールズとしてしのぎを削りあってきたライバルたちも、コートから姿を消すようになる。フェデラーにとっても、その圧倒的なプレーに陰りが見えてきた。
男子テニス界では、長年のライバルであるラファエル・ナダル選手(以下敬称略)に加え、ノバク・ジョコビッチ選手(以下敬称略)、アンディ・マレー選手らが台頭。男子テニス界は、「BIG4」と呼ばれる時代に移り変わる。これまでよりも厳しい戦いを強いられることになったフェデラー。
2012年には、背中の不調による欠場もあり、彼のものとなっていた世界ランク1位の座をジョコビッチに明け渡すことに。2013年には10年ぶりにトップ4から陥落し、徐々に表彰台に立つフェデラーの姿が消えていった。

コートから消えたレジェンド

2014年からは元世界ランク1位のステファン・エドベリ氏をコーチとして招聘。サーブ&ボレーの名手のもとで、かつての得意スタイルであるネットプレーを磨きなおし、原点回帰を図る。2014年の国別対抗戦・デビスカップでは、スイスを悲願の初優勝に導き、それ以降、ツアー通算1000勝、史上初のグランドスラム通算300勝など、かつてのレジェンドを思い出させるプレーが復活する。
しかし、2016年の2月、左ひざの内視鏡手術を受けることに。キャリア初の手術からの回復を目指す中、背部の怪我も重なり、全仏オープンを欠場することになった。
復帰後のウィンブルドンでは、準決勝、ミロス・ラオニッチ選手とのファイナルセット。14回ものラリーが続く中、ネット際で攻めようとした瞬間、相手の逆を突いたショットに足を滑らせ転倒。ラケットを放り出しコート上に倒れこむ。治療後にコートに戻るも惜しくも敗退。ウィンブルドン後には、完全に体を回復させるために、リオデジャネイロ五輪と全米オープンも含め、残りのシーズンを全て欠場することを表明した。
かつて302週もの間、世界ランク1位の王者に君臨し続けていたレジェンドも、2001年以降最低の17位まで陥落。BIG4、そして新たに台頭する若手選手らとの戦いは、35歳のフェデラーにとっては、体を満身創痍にさせることになった。

コートに再び?王者に返り咲くために必要なこと?

2016年1月、半年に公式戦の舞台に姿を現したフェデラー。7年ぶりとなった全豪決勝の相手は、奇しくも宿敵でありフェデラーと同じ時期に怪我に悩まされたナダルだった。
試合前、フェデラーに対する不安要素として考えられたのが、コートカバーリング力の低下やフルセットにもつれ込んだ際のスタミナなどの体力面だ。過去の実績を見る限り、技術面に関しては問題なかったが、35歳のフェデラーにとって体力に関しては全盛期と同じようにはいかない。実際に、30台に突入してから、終盤で集中力を欠きミスが増えた結果、惜しくもファイナルセットで落とすという試合が多く見られていた。
また、ナダルには、2008年のウィンブルドン決勝で、バックハンドへの強烈なトップスピンをラリー戦で繰り返され敗れた過去も。5年ぶりの優勝のために不可欠なことは、ショートポイントを積み重ね、出来るだけ速い試合展開に持ち込むことだった。

進化し続けるレジェンド・フェデラー

ナダルとの決勝戦。そこにはもう30代という年齢と怪我で苦しんでいたフェデラーの姿はない。目にしたのは、さらに技術を磨き上げ進化を遂げた、あのレジェンドの姿だった。
サービスゲームでは、ナダルのサービスエースが4に対して、フェデラーは20と圧倒的な数字。プレースメントを意識して両サイドに上手く打ち分けたことで、フェデラー本来の持ち味である繊細なボールタッチによる自由自在なコントロールが光った。
また、ファーストサービスの得点率は75%と高い成績にあるように、積極的なサーブアンドボレーも。ナダルのバックハンドへの返球と、長いラリー戦を避けたいという意図が見てとれる。試合全体でのアンフォーストエラーが、ナダルの19に対しフェデラーが48と多いのだが、リスクを負ってでも攻め続けたいというフェデラーの意志も感じられた。
そして、ウィナーの数はナダルの35に対して、73とこれも圧倒的な数字。特に、ナダル戦で苦手とされたバックハンドで、正確なダウンザラインを量産したことが要因だ。このウィナーの数からも、ショートポイントで素早い試合展開にするために、攻撃的なショットを狙っていたということが読み取れる。
原点であるネットプレー、輝かしいキャリアのもととなったストローク。この2つを磨き上げたことで、怪我からの復帰だけでなく、よりレジェンドらしい完成されたテニスに進化させたのだ。

新たなレジェンド物語のはじまり

7年ぶり5度目の全豪優勝を果たしたフェデラー。これで、自身の歴代最多記録を更新するグランドスラム18回目の優勝、歴代2番目の年長記録となる35歳174日での優勝、そして史上初となる3つの四大大会で5回以上の優勝を記録となった。まさにレジェンドにふさわしい復活劇に、72万人以上の歓声に包まれる中、フェデラー自身も涙をながして喜びを表現。
惜しくもこの大会4回戦でフェデラーに敗れた日本の錦織圭選手も、ブログでレジェンドの復活に対する特別な嬉しさを綴っている。

また強いフェデラーが帰ってきて厄介だなと思う反面、嬉しかったりもする。 多分この感情は他のどの選手にも嬉しいなんて思わないんだがフェデラーだけは特別なのかもしれない。

出典: 錦織圭公式サイト

試合後の記者会見では、キャリアの終わりが近づいていると、35歳となった自身の将来について意識した発言をしたフェデラー。

昨年2月に初の手術を受け、キャリア最長となる6か月の離脱から今大会で復帰を果たしたフェデラーは、優勝スピーチでの発言について問われると「結局のところ、僕にとってテニスをする時間はもう少ししかないということ」と報道陣に答えた。

出典: AFPBB News

全豪後の1月30日付の世界ランキングでは、トップ10に返り咲き。今後も続くであろうこのフェデラーの物語、そしてレジェンドが舞い戻ってきたテニス界の動向に注目し続けたい。