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メダルラッシュ!躍進の「世界卓球2017ドイツ」を振り返る

2017 8/25 10:07ムラカミケイ
卓球
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「世界大会2017ドイツ」で日本は5個のメダルを獲得!

2017年6月、デュッセルドルフで開催された世界卓球選手権は日本にとって飛躍の大会となった。個人戦で5個以上のメダルを獲得した大会は、1971年名古屋大会以来、実に46年ぶりだ。この結果は、2016年リオデジャネイロ五輪を経て、日本の卓球のレベルが急上昇していることの証明とも言えるだろう。
今大会でメダルを獲得した選手はもちろんのことながら、惜しくもメダルに一歩及ばなかった選手たちにもたくさんの見所があった。世界を沸かせた日本選手の活躍を振り返ってみたい。

吉村真晴・石川佳純ペア 混合ダブルス48年ぶり金メダル

吉村真晴・石川佳純ペアは、大会前から「金」を意識していた。2年前の蘇州での世界卓球では銀メダルを獲得した。しかし、その実績に満足せず、あくまで頂点を目指して今大会に臨んでいた。「絶対に金」と、時に口に出してきたことからも、彼女らのモチベーションの高さがうかがえる。
準決勝、決勝と、ゲームカウントは1-3と、1ゲームも落とせないところまで追いつめられた。作戦が思うように決まらない苦しい展開だったが、試合中に頻繁にコミュニケーションをとりあい、戦術を修正するとともに、気持ちを切り替えて戦った。2人の優勝への思いが揺らぐことがなかったからこその逆転劇であった。

表彰式では、初めて日本国旗が中央に掲揚され、君が代が流れた。石川佳純選手はメダルを受け取った後、しばらく放心したように見つめてから、笑顔を見せた。獲ると決めて獲得した金メダルを手にして、世界一の舞台に立った瞬間だった。
今大会は2人を新たなステージに引き上げる、かけがえのない経験となるだろう。歴史に名を刻んだ自信を手に、シングルスや団体など、さらなる夢に向かってゆく姿から目が離せない。

女子シングルス銅メダル 平野美宇選手

平野美宇選手はリオ五輪の時点では団体の5人にも選ばれず、昨年は世界選手権に出ることもかなわなかった。しかし、ここ一年で別人のように成長し、ときに「シンデレラ」とも形容される大活躍を成し遂げた選手である。
2016年10月のワールドカップ、1月の全日本選手権、4月のアジア選手権と、3つの大会で中国人選手を破って優勝を果たし、強豪各国から徹底マークされる存在へと変貌したのだ。

特に中国は彼女のコピープレイヤーを4人も用意して徹底的に対策した。彼女を取り巻く環境は急激に変化し、周囲の期待にさらされて臨んだ大会だった。そんな中、平野選手は自信を持ってプレイし、重圧をはねのけて見事大舞台でのメダルを獲得した。
今大会は彼女の実力を世界に証明するとともに、さらなる成長の礎となるだろう。女子シングルスでのメダル獲得は日本卓球にとっては48年ぶりの快挙となった。

森薗政崇・大島裕哉ペア 男子ダブルス銀メダル

森薗政崇・大島裕哉選手ペアは、2年前の蘇州大会で中国を相手に接戦の末破れ、ベスト8という結果に涙をのんだ。以来雪辱を果たすために、個人としてもダブルスとしてもスキルを磨いてきた。2015年のグランドファイナルでは優勝も経験し、今大会時点で世界ランキング堂々の1位である。
ダブルスのコンビネーションや戦術、スキルでは世界一だという自負がある。2人は金メダルを強く意識して試合に臨んでいた。決勝の樊振東・許シン(中国)戦は、スコアでは4-1ではあるが、1、2回戦ともに先に中国を追い詰める展開で内容としては勝っていた。
十分に優勝の可能性があったことに悔しさを滲ませるが、「2年前の呪縛から解放されました」(大島選手)と2人の表情は晴れやかだ。男子ダブルスでの銀メダルは48年ぶり。世界トップレベルの日本男子ダブルスを見せつけた。

早田ひな・伊藤美誠ペア 女子ダブルス銅メダル

ダブルスで、最年少記録でメダルを獲得したペアはともに17才の高校生。早田選手は世界選手権への初参加である。結成4ヶ月の急造ペアであるが、2人は今大会でそのポテンシャルを見せつけた。
早田選手が高回転のドライブや守備的な動きで相手選手に隙を作ると、伊藤選手が抜群の攻撃力を活かして決定打を打つというコンビネーションでポイントを重ねた。二回戦、三回戦、準々決勝と相手の強豪ペアを下し、準決勝では世界ランク1位の丁寧・劉詩ウェン(中国)ペアにも序盤接戦の展開を見せた。
中国人選手にも自分たちの技が十分通用するという手応えをつかむと同時に、メダルに至るまでの道のりの険しさ、中国選手の底力を味わうという充実した経験となったことだろう。女子ダブルス銅メダルは16年ぶり。フレッシュなペアの鮮烈なデビューとなった。

最も盛り上がった一戦。丹羽孝希選手、男子シングルスベスト8入り

男子シングルスは38年ぶりのメダル獲得はならなかったが、丹羽孝希選手自己初のベスト8進出を果たした。ドイツのオフチャロフ選手を相手に、4回戦に今大会ベストゲームを生み出した。相手選手の地元、ドイツでの完全アウェーの一戦だった。
はじめはオフチャロフ選手のポイント時にのみ、怒号のような歓声が鳴り響いていた。しかし、試合が進むに連れて、丹羽選手のポイント時の拍手や歓声も高まっていく。試合を決する丹羽選手のポイントが決まった際も、地元ファンの惜しみない声援が注がれた。丹羽選手のプレイスタイルが観客を魅了したのである。ハイリスクなカウンターを凄まじい反応速度で次々に決めていく、壮絶な高速卓球だった。
丹羽選手は卓球選手には珍しく、ポイントをとっても無言で、クールな選手である。そんな彼も静かにヒートアップし、ときおりガッツポーズを決めた。大会後、世界ランキングも一桁(9位)に上昇した丹羽孝希選手のこれからの活躍に注目していきたい。

張本智和選手、史上最年少、13才の男子シングルスベスト8

13才が世界を震撼させた。男女通じて史上最年少で世界選手権の代表に選出された「怪物」。張本智和選手はやはり規格外だった。
2回戦で同種目の日本初の五輪メダリスト、水谷隼選手を破るという大番狂わせを演じると、準々決勝では世界ランク3位、中国の許シン選手相手にも健闘し、その底知れない可能性を見せつけた。
日本のエース、水谷選手相手に、試合前にはまったく勝てるとは思わなかったという張本選手だが、腹をくくって猛攻を繰り広げた。自らリスクを冒して攻め続けられたことが勝因だろう。格上相手に大舞台で思い切ったプレイを繰り出せる、強靭なメンタルが垣間見えた。まだ、13才、10年20年とこの先活躍を続ける選手となるだろう。
2年後の舞台では金メダルを取りたいという彼の目標はもはや絵空事ではない。天才の世界選手権デビューは、伝説の幕開けの様相を呈した。

日本卓球は未知の領域へ

リオ五輪で大活躍を見せてくれた選手たちが「世界卓球2017ドイツ」でさらなる成長を遂げていることが明らかになった。新世代の選手たちも心強い活躍を見せてくれた。
選手育成を重視してきたことが功を奏し、日本の卓球界は成熟しつつある。有望な若手選手たちが続々と輩出され、激しい競争が好循環を生み、選手たちの成長が加速している状況だ。 日本の卓球が、王者中国を脅かしつつある存在になっていることは間違いない。
今回のメダルラッシュにより、多くの選手が優勝は十分に手の届くところにあると手応えを強めた。日本の選手たちが表彰台の頂点に並び立つ姿を目の当たりする日は、そう遠くないのではないかと期待を抱かずにはいられない。