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途中休場が続く稀勢の里 「予想を裏切る」復活はあるのか

2018 3/9 18:53奏希01
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Ⓒゲッティイメージズ

悲願の初優勝 横綱昇進

稀勢の里は2016年に年間最多勝を記録し、抜群の安定感を誇っていたため「実力は横綱クラス」という見方が強かった。さらに「日本人で最も横綱に近い力士」と言われていたが、あと一歩というところで負けてしまうことが多く、優勝できずにいた。

迎えた2017年の初場所、稀勢の里は好調維持をしており、連戦連勝を重ね、優勝が目前というところまで来ていた。しかし、期待を裏切られることが多かったファンは「今回もどこかでどんでん返しがあるかもしれない」と冷や冷やしながら観戦する日々。

2017年初場所14日目、稀勢の里は悲願の初優勝を決め、千秋楽を待たずして横綱昇進を果たす。この段階での「横綱昇進決定」について疑問視する声が挙がったが、千秋楽で白鵬を破り「横綱昇進は時期尚早」という不安を一掃した。

2場所連続優勝目前で暗雲

横綱昇進を果たした稀勢の里は、地元である茨城県牛久市で行われたパレードや新横綱として奉納土俵入りをし、各地に赴いてファンとの交流にも参加、稽古場には多くのメディアが集まり、今まで以上に注目される存在となった。

そんな中、「一層激しい稽古をしなければいけない」と思いながら「稽古に集中できない」という状況が続いていたのかもしれない。横綱昇進後の3月場所、稀勢の里の勝利に期待されながらも、一方で「十分に稽古が積めていないのではないか」と不安視する声もあった。

ところが場所が始まるとそんな心配はよそに、隙の無い相撲を披露し連勝を重ねた。
そして「このまま問題なく2場所連続優勝を果たすだろう」「全勝優勝するだろう」と思われた終盤、落とし穴が待っていた。13日目の取り組みで土俵から落ち、左肩をケガしてしまったのだ。この瞬間に頭をよぎったのは「休場」の2文字だった。

日本中が驚いた奇跡の優勝

ケガをした稀勢の里は、翌朝まで出場するのかについて明言しなかったが、土俵に姿を現しファンを安心させた。しかしケガは思った以上にひどく、相撲にならない取り組みを披露してしまい、それを見たファンや専門家からは「これで優勝はもうない」「休場して次の場所に備えてほしい」という声があがり始めた。

稀勢の里は千秋楽にも出場したが、優勝するためには共に優勝争いを繰り広げている大関・照ノ富士相手に本割、さらには優勝決定戦でも勝たなければいけないという絶望的な状況だ。
迎えた千秋楽の本割、稀勢の里はまず照ノ富士を下した。この際、館内からは壮絶な歓喜の声が挙がったが、この時点でも「優勝決定戦でも稀勢の里が勝つのは厳しい」という意見が多かった。

しかし優勝決定戦でも抜群の集中力を発揮し、再び対峙した照ノ富士に見事に勝利し、見事2場所連続優勝を果たしたのだ。奇跡としか言いようがない稀勢の里の優勝劇は、相撲ファンだけでなく日本中を歓喜の渦に巻き込み、相撲ブームを不動のものとした。

復活かなわず ちらつく引退

3月場所で奇跡の優勝を果たした稀勢の里だが、その代償は思いのほか大きく満足に稽古が取れないまま、5月場所の出場についてはなかなか断言しなかった。そして、ファンや横綱審議委員からは「出場してほしいけど、ケガを治してほしい」という思いが寄せらるようになる。

ところが、5月場所に出場することで「出場したからには優勝できるだけの体力はあるのではないか」とファンを喜ばせた。しかし実際は万全な状況とは言えず、脆さが目立つ結果に。
結局本来の力を取り戻すことができなかったため、稀勢の里は休場することとなってしまった。

後の7月場所、9月場所、11月場所でも途中休場。その度に「今度こそは復活劇を見せてくれるのではないか」と期待しながら、一向に回復の兆しを見せることなく2017年を終えることとなった。
横綱のため番付を落とすということがない反面、休場を繰り返すと「引退」の文字が付きまとってしまう。

年が明けて1月、ここでも稀勢の里の調子は上がらず、5場所連続で途中休場するという結果に。それにより稀勢の里に対するネガティブな発言が目立つようになった。

「期待に応えない」ではなく「予想を裏切る」

稀勢の里について説明をする際に、いつも思うことがある。それは「思った方向と逆に進む」ということである。
昨年の1月場所、「また期待を裏切られるのではないか」と思った際に見事優勝。3月場所「このままいける」と思った時にはケガをしてしまった。
そして「もうだめだ」と思うと逆に奇跡の優勝を果たす。

5月場所休場すると思うと出場が決定。「出場したら優勝するのではないか」という期待ははかなく散った。
このように稀勢の里の取り組みは、ファンの予想とは裏腹になることが多い。それは今に始まったことではない。

勝つと思ったら負け、負けると思ったら勝つ。言ってみれば「期待に応えない」ではなく、良くも悪くも「予想を裏切る」のが稀勢の里なのだ。
今、稀勢の里に対して世間からは「引退」の文字が突き付けられている。そんな時だからこそ、稀勢の里の「予想を裏切る」という力を思う存分発揮してほしい。