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大相撲の謎のひとつ「一門」とは?徹底まとめ

2017 3/8 20:01takuo-haaan
大相撲
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Photo by Inked Pixels / Shutterstock.com

「出羽海」「高砂」「時津風」といった言葉は誰でも耳にしたことがあるはず。力士は必ず相撲部屋に所属することになるが、各部屋は師弟関係の流れによって「一門」という特定のグループに分類できる。一門制度についてポイントをまとめた。

大相撲の歴史を語るには欠かせない制度「一門」

相撲は元々非常に閉鎖的な文化だった。「一門」はその名残だ。江戸時代まで、相撲は特定の部屋に集まる力士だけで巡業を行っていた。まるで歌舞伎のように、音羽屋、中村屋といった一つの屋号のもとに役者やスタッフが集まって、演目を披露する。それに似た慣習が相撲界にもあったわけだ。

しかし、明治時代に入ると、次第に他の一門との交流が進み、力士の交流戦も増えていく。だが、現在のように部屋別総当り制の巡業に改革されたのは、なんと昭和40年のことだ。現在の大相撲の興行は、たかだか半世紀ほどの歴史しかない。相撲そのものは千年を超える歴史を持つことを考えると、一門制度が相撲という文化に与えた影響力は非常に大きいといえる。

相撲協会運営

一門制度が意味を失ったかというとそうではない。大きな役割は、日本相撲協会の運営だ。

協会の理事の大半は「年寄り」と呼ばれる元力士の親方で占められている。協会の事業は国技館の運営、相撲教習所や相撲博物館の経営など多岐に渡るが、もっとも重要な事業は本場所と地方巡業の興行だ。興行には力士だけでなく、行事や床山などの裏方スタッフの活動もすべて含まれる。したがって、親方達は、日本相撲協会を運営する実権を握っているわけだ。

親方達は当然自分が所属する一門の代表として理事会に望む。国会議員が地元からの声を吸い上げて国政に反映させるべく動くのと同じように、親方達にも一門の権益を守ろうとする心理が働く。現代の大相撲は、一門間の力の緊張によってその微妙なバランスを保っているといえるだろう。

一門内の結束

一門の存在感が発揮されるのは理事会にとどまらない。かつての大相撲が一門系統別総当り制だったことからもわかるように、同じ一門に属する部屋同士は、同じ釜の飯を食べて切磋琢磨してきた盟友だ。その結束はきわめて強く、個々の力士の交流はオンオフ問わず一門内で行われることが多いのだ。

たとえば、冠婚葬祭は原則として同じ一門に属する者が当事者でない限り出席しない(大物の場合は別)。また、出稽古も一門の中で行われる。元横綱の貴乃花親方などは、現役時代はプライベートも含めて他の一門に属する力士とは一切交流しなかったと言われている。一門というシステムは、洗練された現代の角界でもいまだに影響力を残している制度だと言えるだろう。

名門一門紹介

現在、一門として残っているのは、出羽海、二所ノ関、時津風、高砂、伊勢ヶ濱、貴乃花の6つだが、江戸時代から続く一門はもう残っていない。

6つの一門のなかで最も古い歴史を持つのは高砂一門だ。明治時代に活躍した初代高砂関を開祖とする一門であり、高砂部屋を中心とする高砂系と九重部屋を中心とする九重系の二つの系統によって構成されている。

高砂一門に次ぐ歴史を持つのが出羽海一門だ。出羽海一門は政治でいえば自民党のような存在であり、角界のなかでも保守的な存在として力を持っている。相撲協会の理事も出羽海一門からもっとも多く選出される(3名)。統率を高めるため一門内に適用される規律が厳しいことでも有名で、1980年代までは一門からの分家・独立が許されなかった。

自由を求めて一門脱退?無所属力士の存在

一門に所属しない「無所属力士」も制度上はありうるのだ。かつての貴乃花部屋がそうだった(現在は貴乃花一門)。一代で横綱となった貴乃花関は、優勝回数22回を誇る平成の大横綱として国民的な人気を誇る力士だった。現役を退き、年寄り親方となったあともその人気は衰えず、若くして自分の部屋を起こし、角界への影響力は日々大きくなっていく。

2010年には、まだ30代だったにもかかわらず相撲協会の理事に立候補し、波乱を巻き起こす。本来、理事は一門に属する親方達が互選によって立候補し、選抜されるならわしだった。そのため貴乃花親方は自身が属していた二所ノ関一門から脱退し、理事選に立候補したのだ。この騒動はのちに「貴の乱」と呼ばれ、古い慣習に支配されていた相撲協会の大改革のきっかけとなった。

大相撲における一門制度は、まさに相撲界の力関係を支配するシステムである。もし一門が存在しなければ力士や親方達の行動はもっと自由になるが、その反面規律が失われ、仁義にもとる事件も多発することだろう。長い歴史を持つ文化にはそれだけの存在意義があるのだ。一門制度はまさに大相撲に欠かせない文化の一つといえるだろう。