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天理対明治、学生最高峰の戦いに熱く燃えた秩父宮 【大学ラグビー選手権 決勝】

2019 1/17 07:00藤井一
大学ラグビー,Shutterstock.com
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先制した天理 主導権を握ったかに見えたが

天理のキックオフで始まった試合は、立ち上がり、明治のミスもあり、明治ゴール前のラインアウトから天理のサインプレーがピタッと決まり、3分にキャプテンのHO島根一磨が先制トライ、5-0とリードを奪った。

「イケる!」

初優勝を狙う天理の選手たちがそう思ったとしても不思議ではない。もとより準決勝で、9年間も大学王座に君臨し続けた帝京を粉砕しているのだ。

だが、明治はこの失点で全く焦らなかった。ゴール前のサインプレーで意表をつかれトライされただけで、天理のアタックにディフェンス網が破られたわけではないのだからそれも当然だ。明治は直後のキックオフでは冷静にエリアを獲り、しかもディフェンスライン1歩目の早い出足で、天理に安定したボールキープをさせなかった。

ディフェンスでリズムをつかんだ明治があっさり逆転 以後は明治ペースに

天理の島根は「先制点の後は気持ちが受けに回ってしまった」と言っていたが、これは明治が全体でプレッシャーをかけ続けたことによって、「イケる!」と思った天理を「こんなはずでは」と惑わせるのに成功したということだ。そして、ボールを奪ってからの明治のアタックは小気味よく、山崎洋之、高橋汰地の決定力ある両WTBのトライでまたたく間に逆転。特に高橋のトライは、逆サイドからアングルを変えて走り込む鮮やかなサインプレーで、少なく見積もっても8割強が明治ファンで埋まったスタンドは狂喜した。

その後は天理のアタックのほとんどが、明治の前に出るディフェンスによってつぶされ続けた。しかもラインアウトでは平均身長で劣る天理がマイボールを再三にわたって明治に奪われた。後半に入ってもその流れは変わらず、スクラムでは天理が優勢だったが後半14分に自陣で組んだスクラムでは明治がここ一番とばかりにプレッシャーをかけ、天理が反則。すかさずFB山沢京平のPGで追加点を奪っている。さらに21分、明治は強烈なタテ突破からHO武井日向がど真ん中にトライ、ゴールも決まって22-5。要所でしっかり加点する明治ペースで試合は進んだ。

天理もここから反撃し、29分に島根、35分にはCTBシオサイア・フィフィタがトライ、底力を見せたが、80分を通して明治ディフェンスに大きな破綻は見られず、22-17で明治が逃げ切った。両校の力の差は紙一重だったと思うが、戦い方、試合のマネジメントという点で明治が優っていた。

明治と天理の勝敗を分けたもの

これはすでに多くのメディアで報道されているが「昨年、決勝で帝京に1点差で敗れた悔しさを晴らすために費やした1年」(明治)と、単に「優勝をめざした1年」(天理)の差でもあったかもしれない。

また、明治が対抗戦で慶応、早稲田に敗れ、その都度修正しながらチーム力を向上させてきた点も見逃せない。そこが関西大学Aリーグで楽勝続きだった天理との差ともいえる。

しかしながら天理の戦いぶりも見事だった。外国人選手3人に注目が集まりがちだが、サイズは全体的に明治より一回り小さく、FW先発8人の平均体重は8kgも軽いのだ。それでもほとんどのスクラムは優勢で、冷え込みの厳しい秩父宮に集まった2万人を超える観客の心を最後まで熱くさせた。頂点には一歩届かなかったが、小松節夫監督は高いフィットネスと集中力を擁する、1本芯の通ったすばらしいチームを作り上げた。

田中監督のコメントから連想する、少しばかり残念なラグビーカレンダー

試合後の会見で勝った明治・田中澄憲監督は「なかなかディフェンスの意識を高めるのは難しかったがここにきて急激によくなった」と語り、「チームスタッフの分析には感謝している」とSH福田健太キャプテンは関係者全員への感謝の気持ちを述べた。そして、個人的には田中監督が「きょうで最後ではないですからね」と会見中、チラッと漏らしたのが引っかかった。下級生にとっては来年度以降につながるし、4年生は卒業後もラグビーを続けるから…という意味だと思うが「(最後ではなく)このチームでトップリーグのチームともやらせてみたい」と強引に解釈したくなったからだ。

学生チームは毎年、この時期、急激に強くなる。明治の天理戦で見せたディフェンスがトップリーグ勢相手だとどうか?また、あの小気味いいアタックは?そんなことを想像したくなる。

明治の22年ぶり13回目の優勝は理詰めで緻密な戦略と明治伝統の「前へ」の結実、それもアタックだけでなくディフェンスでも「前へ」が意思統一された末につかんだものだ。心から称えたい。

だが、大学日本一より上の目標を彼らが持てないのはやはり残念。諸々の事情があるのはわかるが、日本選手権に大学勢が出場できなくなって2年、そんな感慨が最後に頭をよぎった大学選手権決勝だった。