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盛り上がりを見せる大学ラグビー、一方でトップ選手の強化には課題も……

2018 12/15 15:00藤井一
ラグビーⒸShutterstock.com
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往年の熱狂を取り戻した早明戦、帝京のV10はなるか?

今年の早明戦は、秩父宮ラグビー場が2万2千人を超える大観衆で埋まり、久々に盛り上がった。

勝った早稲田は、対抗戦グループで帝京と同率優勝。大学選手権10連覇をめざす帝京の強さは盤石ではなく、春からの練習試合を含めて明治に3連敗。その明治は対抗戦で慶応・早稲田に敗れ、慶応と並んで3位(大学選手権には対抗戦4位として出場)と力は拮抗している。

リーグ戦では東海が優勝。大東文化や流通経済も差はなく、皆破壊力がある。また、関西では天理が充実。これもまた間違いなく大学選手権優勝候補の一角で、優勝争いは混沌としている。帝京1強の図式が崩れるか?ということで、今年の大学選手権は近年にない盛り上がりを見せそうだ。

トップリーグは15年目

トップリーグが始まって15年。大学卒業後、まだまだ問題点はあるものの、トップレベルの選手がプレーできる環境も以前と比べれば整備され、今年はニュージーランド、いや、世界の名SOダン・カーターも神戸製鋼にやってきた。その結果、大学と社会人(トップリーグ)との実力差は“また”開いてきている。

日本選手権と大学ラグビー

1996年度までは、大学選手権と社会人大会の優勝チームが戦う方式だったラグビー日本選手権。90年代以降に実力差が開き、毎年大差で社会人チームが勝つようになった。

そのため97年度から改められ、以降、出場チーム数や方式が何度か変更されながら開催されている。クラブチームに門戸が開かれていた時期もあり、大学のチームにも出場権は与えられ続けたが、それが昨年度からなくなった。

その間、2005年度(2006年2月)には大学選手権優勝の早稲田が、トヨタ自動車を破って大学チーム出場の意義を再度見出したこともある。その後、また大学とトップリーグの差は開いたが、帝京が大学選手権で他を圧倒するようになった4連覇以降は、岩出雅之監督が「打倒トップリーグ」を目標に掲げる。そして、連覇が6に達した2014年度(2015年2月)にはNECを下した。

大学がトップリーグに挑むラストチャンスとなった一昨年度は、サントリーに敗れたものの、前半終了時21-21の同点に食い下がるなど「大学生も鍛えれば、トップリーグと戦える」ということを証明。これによって今まで以上に他大学は、いかにして帝京を破るかを考え始めた。近年、帝京は打倒トップリーグを、他大学は打倒帝京を目指すことで、ある意味トップクラスの大学ラグビーは活性化された。

一方、帝京のモチベーションは昨年度から大学選手権連覇のみに下方修正。一番伸びなければいけない時期にリミッターをかけたようなものだ。トップリーグに挑めなくなってしまった昨年度、岩出監督は「指導者としてはガックリきた」と話していた。

大学の試合数と選手の強化

大学選手権が盛り上がるのは好ましいことだが、トップレベルの学生選手の目標は大学日本一だけでいいのだろうか?実際、大学ラグビーにおける真剣勝負の場は、大学選手権の数試合を含め、年間5試合に満たない大学がほとんどだ。

1年のうち約10カ月をチーム強化の練習に費やしていると言っても過言ではなく、実戦経験が非常に少ない。世界のティア1と呼ばれるような国の選手は、若い頃からどんどん国際試合を経験している。例えば先日の日本代表戦でも活躍したイングランド代表のLOマロ・イトジェは、2年前の21歳から中心選手で、すでに代表キャップ26だ。

学生であれば、当然学業は大事だ。しかし、筑波大学在学時からパナソニックの一員としてプレーし、新しい歴史を作った山沢拓也や、桐蔭学園からラグビーを学びに南アフリカへ渡り、現在はサントリーで活躍している松島幸太朗、今春、東福岡高校からパナソニックに入り、戦力になっている福井翔太の例もある。

このように大学のカテゴリーに満足せず、新たなチャレンジをする選手も出てきた。それは「早くトップレベルでプレーしたい」という純粋な挑戦である。

一方で、「学生ラグビーに魂を燃えたぎらせる。それを応援して盛り上がる」という感覚も全否定できない。それが日本のラグビーを育ててきた側面もあるし、大学卒業と同時に第一線から退く選手も少なくないからだ。

となると、Bリーグのような特別指定選手制度というのも一つの考え方かもしれない。もちろん、実戦経験といってもバスケットとラグビーでは競技特性が違う。年間20~30程度の試合数が好ましい。

学生年代のトップレベルのラグビー選手が実力を伸ばすには、今よりも多くの実戦経験を積むべきで、協会は本腰を入れてその方法を考えなければいけない。リミッターをかけている場合ではないのだ。