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V逸のソフト日本、東京五輪へ課題はっきり 「金」へ第1準決勝の必勝不可欠

2018 8/14 15:00藤井一
上野由岐子Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

世界は2強

日本開催となったソフトボール世界選手権は大方の予想どおり、優勝争いは日本とアメリカであった。日本は第1準決勝でアメリカに敗れたが、第2準決勝でカナダを破り決勝へ。しかし前大会同様またもアメリカに屈し2大会連続2位となった。

2000年代前半まではオーストラリアや中国、台湾、韓国などもかなり強く、ニュージーランドが世界一になったこともある。2008年の北京五輪前後から日本とアメリカの実力が抜きん出た状態になり、今回3位のカナダも日本とは大きな力の差があった。

ソフトボールはページシステムという独特の方式で、準決勝で敗れても、「敗者ゾーン」から勝ち上がってきたチームとの3位決定戦(セカンドセミファイナル)に勝てば、決勝に進むことができる。ここで準決勝のリベンジを果たせば優勝だ。ただし、3位決定戦と決勝は同日に行われるため、前日の準決勝で勝ったチームのほうが有利なのだ。

日本とアメリカの2強が中心となる今のソフトボールでは、第一準決勝と決勝戦で事実上決勝戦が2回行われているともいえる。

上野に賭けるしかなかった日本代表

準決勝は藤田倭が先発し、完投した。藤田は投手としてだけでなく、打者としても一流で、2年前の日本リーグでは最多勝と、最多打点、最多本塁打に輝いたまさにソフトボール界の二刀流だ。

藤田の内容は決して悪くはなかったが、試合は7回を終わって3-3で、延長タイブレーカーに入り、8回、アメリカの投打二刀流レイチェル・ガルシアにサヨナラ打を許してしまった。

日本は準決勝を藤田で勝ち、決勝を上野由岐子で、というのが理想だったが準決勝で敗れた。こうなったら大会最終日は上野に賭けるしかない。カナダとの3位決定戦前から宇津木麗華監督は上野連投の予定だった。

上野はカナダを完封。アメリカとの決勝戦でも上野は完投したものの、準決勝同様、タイブレーカーに入り、日本は延長10回表、6-4とリードしながらその裏3点を取られて逆転サヨナラ負けを喫した。

上野は不世出の大投手

プロ野球に例えれば、ダルビッシュ有や田中将大と同じことが出来る選手を揃えなければいけないと、日本ハムや楽天の関係者が言ったとしたら、えっ?ではないだろうか。

古い時代なら、金田正一や稲尾和久と同じレベルの選手を!と発言したら、「そんなの無理」と一笑に付されるはずだ。それは、指導者が計画的に育成できるレベルを超えているからだ。

世界の女子ソフトボール界において上野由岐子とはそんな次元の投手である。

20年近く世界中の打者から恐れられ続けている投手は上野以外に居ない。年間20数試合しかない日本リーグで通算200勝を達成している文字通り不世出の大投手。だから「上野の後継者を育成しなければ」などと軽々しく口にしてはいけない。

これは現在、2番手である藤田以下の若手投手を低く見ているのではない。藤田もいいボールを投げるが、上野並みか、それを超えるレベルを求めるなど不可能に近い。

球のキレ、制球、投球術、すべてにおいて、上野は図抜けている。上野は常々「2020年の東京五輪では、私がエースではいけないと思う」と言っているが、現実的に上野以外がエースになることはたぶんない。

エースの連投

連投の244球について上野が「アメリカに敗れた理由になりません」と言っているのは強がりや自分を戒めているのではない。

3位決定戦に勝ってその日2試合目となる決勝は、日本以外でもエースの連投が一般的だからだ。10年前の北京五輪で上野が最後の2日間、準決勝を含め3試合で413球を投げ切ったが、その時も周囲で騒ぐほど上野は気に留めていなかった。

しかし、上野も36歳。10年前の球威を2試合続けて発揮するには無理がある。加えて、米国が決勝トーナメントで登板させた投手は5人、対して日本はわずか2人だった。

エース上野の負担軽減を日本はチーム全体で考えなければいけない。若手投手が、藤田の言葉を借りれば「スキルアップ」し、投手陣全体として総合力を上げる必要がある。

日本の収穫はアメリカのエース、モニカ・アボットを攻略するなど得点力がアップしたことだ。だが、同じ左のケイラニ・リケッツや右のガルシアにやや苦しめられたことは不安材料だ。

アメリカ代表のエリクセン監督が「上野と同じことをできる投手は多くない。彼女の偉大さが証明された」と発言する一方で「モニカ・アボットが打たれても、あとに続く選手がいる層の厚みが(アメリカの)強み」と述べたことが、日本の課題を象徴している。

シンプルな命題

東京五輪の準決勝は、やはり日本、アメリカの対戦となる可能性が高い。言うまでもないがそこで勝つ。つまり今大会と逆の展開に持っていくことが金メダル獲得へ非常に重要となる。

どんな継投策でもいいから準決勝でアメリカ打線を抑える。そのシンプルな命題に対し、残り2年で答えを見出す必要がある。そして、決勝で上野を万全な状態で投げさせれば、少なくとも日本は、悔いのない戦いをすることができるだろう。結果もきっとついてくるはずだ。