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クラシコ延期から考えるカタルーニャ独立がサッカー界に与える影響とは

2019 10/24 17:00橘ナオヤ
チーム名が入ったタオルを掲げるFCバルセロナとレアル・マドリードのサポーターⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

カンプ・ノウ開催のクラシコが延期に

スペインサッカー連盟(RFEF)は10月17日、26日に予定されていたリーガ・エスパニョーラ第10節でバルセロナ対レアル・マドリーの試合を延期すると発表、同23日には、代替開催日を12月18日に決定した。

今回の問題の発端は2017年にある。同年10月1日、カタルーニャ州政府は中央政府の中止要請を聞かず、独立を問う住民投票を断行した。多くのカタルーニャ市民が国家警察と衝突する大混乱の中で投票が行われ、4割の投票率ながら賛成票が9割に達した。

この時独立は見送られたものの、その後当時の州幹部が起訴され、先日の19年10月14日、最高裁は元州幹部9人に対し最大13年禁固刑を言い渡した。この直後から抗議活動が激化しており、18日には州都バルセロナを中心に大規模なゼネストが行われ、逮捕者も出た。

実はこの抗議、単に独立を謳う動きではない。今回判決が下された元幹部らは判決前から未決拘留の措置が取られており、この時点で人権侵害との批判が強かった。そこに今回の判決が下されたことで、事態はカタルーニャ独立と人権侵害という大きな二つのテーマをあわせもつことに。独立派以外のカタルーニャ市民も街頭に出る事態となっている。

試合が予定されていた26日にも再び大きな抗議活動が予定されており、バルサのホームスタジアム、カンプ・ノウで試合を行う上で安全が確保できないことから、延期の措置が取られることとなった。

バルサはサッカーを超えたカタルーニャの象徴

判決後、バルサは即座に公式声明を発表した。「この対立は禁固刑で解決できない。この問題の解決は政治的対話によってのみなされるべきだ」と判決を批判した。

スポーツと政治は切り離すべき、この信条は世界的に浸透している。マドリーは判決に対する声明は出しておらず、同じバルセロナに拠点を置くエスパニョールは声明を出したものの判決への言及を避け、対立が平和裏に解決することを願うにとどめた。

だがバルサは違う。フランコ独裁時代、地方意識は強く弾圧されてきたが、その中で中央政府を象徴するマドリーと戦えるバルサは、カタルーニャ州を代表する存在であり続けてきたのだ。

バルサに籍を置くカタルーニャ出身者は、多くが独立支持者だ。ジェラール・ピケやセルジ・ロベルト、そして元選手シャビ、更には元監督のペップ・グアルディオラも常々独立の支持を公言している。

バルササポーター“クレ”も、スタジアムで独立を支持する。カンプ・ノウでは毎試合、17分14秒になると「Indapandancia!(インダパンダンシア=独立)」というコールがスタンドに響き渡る。

17分14秒、つまり1714年だ。この年、スペイン継承戦争でバルセロナがフランス・スペイン連合軍に攻め落とされ、カタルーニャが自治権を失った。ホーム戦で毎試合、州独立が叫ばれるほどに、カタルーニャという地域意識がバルサには強く根付いている。

これだけカタルーニャ州との繋がりが強いバルサと、首都に本拠地を置き、いわばスペインという国を代表するマドリーの試合がカンプ・ノウで行われる。平時でも象徴的な一戦になるこの“エル・クラシコ“がこのタイミングで開催されれば、結果次第では火に油を注ぐことになりかねず、どんな事件が起きるかわからない。両クラブとも事態を憂慮し、スペインサッカー連盟からの打診に対して早期に合意したのだ。

独立したらバルサはどこに?

何度も浮かんでは消えるカタルーニャの独立問題。仮に独立した場合、スペインサッカーにどのような影響があるだろうか。まず、カタルーニャ州のクラブはラ・リーガにいられるか不透明となる。独立の経緯次第では追放となるだろう。

ラ・リーガから出て行った場合だが、いくつかシナリオがある。ひとつめはカタルーニャ内でリーグを結成することだ。ただこの場合バルサ一強となるのは確実で、バルサにとっては欧州舞台での競争力低下、他のクラブにとっては優勝の可能性がなくなり意欲の低下が懸念される。

次に考えられるのが、フランスリーグへの参入だ。モナコがフランス国外ながらフランスリーグに所属しているように、隣国からの参戦は難題ではない。もっとも、マドリーとともに圧倒的な人気を誇るバルサがいなくなれば、ラ・リーガにとっては大きな痛手となる。簡単に手放すとも思えず、決定的な対立でもない限りは残留すると考えられる。

また、カタルーニャ独立はスペイン代表への影響も大きい。マドリーとバルサ、アトレティコ・マドリーの選手が多く占めるスペイン代表からカタルーニャ(≒バルサ)の選手がいなくなる。スペイン代表としてもこれは大きな戦力ダウンとなるが、こちらは国の代表チームであるため、リーグ参加のように柔軟な判断ができない。独立すればスペイン代表とカタルーニャ代表は分離すると考えるのが妥当だ。

カタルーニャ代表は既にFIFA非公認のチームとして存在しているが、独立すればFIFAに正式加盟する可能性がある。UEFA域内でもかなり強い国になるため、W杯予選やEUROにも影響が出るだろう。

カタルーニャ問題は地方意識が絡む複雑な問題だ。簡単に解決が見込まれるものではないが、早期に事態が鎮静化することが願われる。

一方でサッカーに目を向けると、バルサはカタルーニャ州と共にあるクラブゆえに、カタルーニャ独立問題は欧州サッカーの構図にも影響する。スポーツと政治は切り離すべきではあるが、どうしようもなく関係する場合もある。特に今回のようにスペインでは不可分な部分がある。このことを意識してサッカーを観るのも、新たな発見があるかもしれない。