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「究極のエリートサッカー」か「全欧参加の競争」か 欧州サッカーに今必要なものとは

2019 5/24 07:00Takuya Nagata
ナポリのデ・ラウレンティス会長とECAのアニェッリ会長Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

欧州サッカーの原点回帰

現在、欧州チャンピオンズリーグ(CL)を筆頭に、ヨーロッパの主要大会の改編に関する議論が熱を帯びているが、新たな大会フォーマット案を唱える人物が現れた。2018-19シーズンにイタリア・セリエAで準優勝し、2019-20シーズンの欧州CLに出場するSSCナポリ会長、そして映画プロデューサーという肩書も持つアウレリオ・デ・ラウレンティス氏だ。

デ・ラウレンティス会長がイタリアメディアに明かした案は、現在の欧州CLとヨーロッパリーグを廃止し、80チームが一つのフォーマットで争うというものだ。各国の出場クラブ数にも踏み込み、イタリア、フランス、イングランド、ドイツの上位7クラブとその他の国の上位4クラブとしている。

提案の理由として競争が十分ではなく、欧州CLがごく一部のクラブのためのものになり、いつも同じような顔ぶれの対戦ばかりでつまらなくなっているからだという。また、ヨーロッパリーグは欧州CLに出場できなかった中堅クラブが対戦する大会で、欧州の頂点を決めるわけではない。そのため、その存在意義を疑問視する声は長らくあり、デ・ラウレンティス会長は「残念賞」と表現している。

一方で、小国の主要クラブが欧州CLに出場する場合、それが予備予選であろうとも相当な熱の入れようで、本選出場を目指し盛り上がっている。その理由はもちろん、欧州頂点への道と繋がっているからだ。

また、デ・ラウレンティス会長は、新たな大会の名前は「ヨーロッピアンカップ」が相応しいとしている。元々欧州CLは、各国リーグ優勝チームがトーナメントで対戦する「ヨーロピアン・チャンピオン・クラブズ・カップ」、略して「ヨーロピアンカップ」という大会名で発足した。その後、参加クラブ数や試合数を増やし現在に至っている。新しい大会では、グループリーグが入るのか完全なトーナメント制になるかは不明だが、これは原点回帰ともいえる提案だ。

欧州サッカーの議論、実はイタリア国内抗争

ナポリのデ・ラウレンティス会長はヨーロピアンカップの提案に際し、その開催日程について「週末に行われる国内大会に配慮し、火水木に試合を開催する」と発言している。

この言及で頭をよぎるのは、欧州クラブ協会(ECA)のアンドレア・アニェッリ会長のスーパーリーグ創設案だ。この案は、欧州の超ビッグクラブが年間通してリーグ戦を行い、週末開催という国内リーグを蔑ろにするようなエキサイティングな内容になっており、物議を醸している。

実は、アニェッリ会長はイタリアで圧倒的な地位を築くユヴェントスの会長でもある。ECAそのものが欧州主要クラブ連合であるG-14を前身にしており、超ビッグクラブの立場でものを言っている可能性も考えられる。アニェッリ会長の案では、スーパーリーグ創設メンバーにユヴェントスは入っているがナポリは入っていない。

ユヴェントスはセリエA史上初の8連覇を達成し、クリスチアーノ・ロナウドの加入でさらに他クラブと差が付いた感がある。ユヴェントスが多額の借金をしてまで大枚を投じ、チームを強化していることに辟易していることを、ナポリのデ・ラウレンティス会長は別の場で漏らしている。

超ビッグクラブ優遇の「スーパーリーグ」、一律に競争の「ヨーロッピアンカップ」

ECAアニェッリ会長の超ビッグクラブを優遇するスーパーリーグ案に対し、ナポリのアウレリオ・デ・ラウレンティス会長の案は、中堅クラブや国内リーグにまで配慮したやや穏健な内容だ。ただ、どちらの案も大改革には違いないが、頷ける部分も多い。

スーパーリーグ案では、サッカーという競技そのものを一つ上の段階に高める可能性がある。現在、多くのクラブに分散している超一流の選手達が少数のビッグクラブに集結し、高次元のサッカーを創造するだろう。一方、ヨーロッピアンカップ案では幅広い競争が起こり、多くの階層で盛り上がりを見せるだろう。

欧州サッカーのトレンドは世界に波及するため、日本としてもこの議論から目が離せない。