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サイバー犯罪それとも正義の告発か、フットボール・リークスの天才ハッカー

2019 3/17 15:00Takuya Nagata
パソコン,ⒸShutterstock.com
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サッカー界ビッグネームの暴露報道、不正な情報アクセスで御用

クリスチアーノ・ロナウドやジョゼ・モウリーニョの租税回避、マンチェスター・シティやパリ・サンジェルマン(PSG)の財務規則(FFP)違反の可能性など、サッカー界の数々の疑惑を暴いてきたウェブサイト「フットボール・リークス」。

その背後にいた天才ハッカーで、コードネーム「ジョン」ことルイ・ピント(30歳)が、逮捕されたハンガリーから本国ポルトガルに送還されることになった。

ご法度ながらサッカー界の浄化に寄与する「フットボール・リークス」

2015年に設立されたフットボール・リークスは、ポルトガルに活動拠点を置く報道ウェブサイトだ。報道内容は移籍に絡む金銭の授受といった不正取引の詳細に関するもの等、サッカー界を大きく揺るがすスキャンダルを次々と暴露したが、その基となる書類や情報源の入手方法は主にハッキングだった。

本来は表に出るはずもなく、関係者のみが知り得るような契約書の文面やメールといった機密情報が次々に流出。その情報を手掛かりに、FIFAやUEFAといった統括団体が調査に乗り出すということもしばしばだ。

法に抵触しており手荒な方法ながら、その一方でサッカー界の浄化にも一定の寄与をしている。

尾行され逮捕、本人は容疑否認

ルイ・ピントが逮捕されたのが2019年1月16日、ブダペスト市内のスーパーマーケットからの帰り道。ピントの弁護士デヴィッド・ダークは、ピントの両親が訪問した翌日に逮捕されたことから、両親が空港から尾行され居場所を突き止められたのではないかと指摘する。

暴露されたクラブ関係者やファンからは敵視され、ポルトガルの刑務所に入ったら身に危険が及ぶ恐れがあることから、ポルトガルへの送還をしないように嘆願していたが、あえなく本国送りになった。

フットボール・リークスは、過去にベンフィカの汚職の証拠も報じており、ルイ・ピントは以下の声明を出している。

「死の脅迫が沢山届いています。特にベンフィカのファンからは標的にされていて、すごく心配しています。ポルトガル、とりわけリスボンの刑務所行きになってしまったら、僕は生きて出てこられないでしょう」

違法に情報にアクセスし機密を侵害したことが逮捕理由とされるが、ルイ・ピントは「私はハッカーではなく、偶然その情報に出くわし、良心に基づきそれを自分の内に留めておくことが出来なかったのです」と、容疑を否認している。

ルイ・ピントは、大学で歴史を勉強していたが中退。サッカー界に蔓延る不義な慣行を世に知らしめるために、この過激な報道活動に身を投じていった。

多くのことが試される裁判、判決は如何に

情報へのアクセスは不正なハッキング技術が用いられた可能性があるが、その暴露する内容は著しく世直しに資するもので、支持者が多く存在することも事実。

ルイ・ピントのケースは「言論の自由」「情報保護」「社会正義」といった様々な要素が絡み合っている。蛮行と判断されるのか、はたまた勇気ある告発者となるのか。サッカー界を揺るがし、敵も味方も多くつくってきた天才ハッカー裁判の行方が気になるところだ。

判決が出る前に、1つ言えることがある。ルイ・ピントが始めたサッカーのリーク報道は、調査・報道に関わるメンバーが増え、欧州捜査コラボレーターズ(EIC)というメディアパートナーグループと協業している。ルイ・ピントを逮捕し口を封じたからといって、サッカー界から不正がなくならない限り、暴露報道が止むことはないだろう。