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全てを失ったレアル、凋落の原因は“ロナウドロス”にあらず

2019 3/10 11:00橘ナオヤ
アセンシオ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

何もかも失った欧州王者

レアル・マドリーは1週間で何もかもを失った。コパ・デル・レイ(スペイン国王杯)、ラ・リーガのクラシコを連敗し、国内無冠が濃厚に。そしてUEFAチャンピオンズリーグではラウンド16の2ndレグで、アヤックス(オランダ)に1-4で大敗し、2戦合計3-5で敗退が決定した。前人未到の3連覇を達成し、4連覇を狙っていたマドリー。その夢はオランダの古豪に打ち砕かれ、今季の無冠が決定的となった。

白い巨人はシーズン開幕当初からペースをつかめず、苦しんだ。絶対的エースだったクリスティアーノ・ロナウド(ユヴェントス)との離別は、チームに大きな影響を与えている。だがこの苦境の最大の原因は“ロナウドロス“ではない。

得点数は“バルサ-メッシ=マドリー”

ラ・リーガ第26節終了時点でマドリーの得点数は43。これはバルセロナの66点に次ぐリーグ2位の成績だ。バルサの場合リオネル・メッシが25得点と3割以上を占める。ロナウドがユヴェントスで19得点していることを参考にすれば、数字の上ではロナウド抜きのマドリーはメッシ抜きのバルサと同じだけゴールを決めていることになる。

もちろん、ロナウドが抜けた分の得点不足をカリム・ベンゼマとギャレス・ベイルがカバーできていない以上、昨季と比べて物足りないのは間違いない。だが、リーグ2位の得点数で「攻撃力が無い」とは言えない。攻撃のスケールダウン以上に深刻なのが、チームのレベルを維持できる中堅選手の不在と、それに伴う守備のもろさだ。

“才能”を開花させなかったツケ

マドリーはここ数シーズン、“偉大な選手になり得る若き才能“を多く獲得してきた。現在のチームでいえばヴィニシウス・ジュニオールがその典型例だ。

その一方で、将来への投資をしても、その若き才能を持った選手たちの出場機会は限られた。ルカ・モドリッチやトニ・クロース、カゼミーロといった世界トップクラスのMFをベンチに下げるのは容易ではない。だがその結果、ブラヒム・ディアスやマルコス・ジョレンテ、ヘスス・バジェホらは実戦経験を積めておらず、レギュラーが怪我や不調に陥った時に、バックアッパーとして満足のいくプレーができていない。

こうした状況はもう何シーズンも続いている。アルバロ・モラタやマテオ・コヴァチッチはこうした状況に不満を募らせ、出場機会を求めてクラブを去っていった。イスコもその後に続く恐れは十分にある。

中央のバックアッパー不在が失点の原因に

これはクラブの継続性の問題だ。現在22-25歳の選手たちは偉大な先輩たちと練習に取り組んでいるが、試合に出場できなければその成果を測ることはできない。ただ、サイドでは改善を見せ始めた。マルセロ、ベイルらのポジションを、ヴィニシウス・ジュニオール、セルヒオ・レギロン、アルバロ・オドリオソラらが脅かし始めたのだ。

その一方で、センターラインはいまだ変わらぬままだ。ダニ・セバージョスとマルコ・アセンシオあたりが、いくらかまとまった出場機会を得ている程度で、根本的な改善には至っていない。センターラインの低調ぶりが守備のもろさにも直結している。マドリーのリーガでの失点数は31。これはリーグ8位の数字であり、3位のチームにしては芳しくない。

事実、今季のMFとCBのレギュラー5人は明らかに調子が悪い。モドリッチとクロースの2人はパスセンスこそ健在だが、守備面で大きく精彩欠いており、元来守備が持ち味のカゼミーロも攻撃に参加する回数が増えた。彼ら中盤の守備が緩むと、ディフェンス陣が攻撃参加に積極的なマドリーのディフェンスは途端にもろくなる。CB陣も主将のセルヒオ・ラモスは不要なカードをもらいやすく、相棒のラファエル・ヴァランはしばしば大きな怪我で長期離脱しがちだ。

かといってサブ組を起用しようにも、ナチョ・フェルナンデスやアセンシオはともかく、残る選手たちとレギュラー陣の実力差は歴然だ。それはここ数シーズンを通して、レギュラー5人が若手の実戦の機会を阻んできた結果に違いない。

夏に大型補強をする前に、若手の底上げを

こうした問題から、残りのシーズンでマドリーがやるべきことは、より戦略的にターンオーバーを行い、主力と控えの戦力差を縮めることだ。CL出場枠外の5位アラベスとの勝ち点差は8と、油断できない差だが、レギュラー陣に織り交ぜてブラヒム、ジョレンテ、バジェホらを起用し、先を見据えたチーム作りに今から取り組むべきだろう。

彼らに満足しようがしまいが、クラブが夏の移籍市場で大きく動くことは間違いない。スター選手を獲得するのだろうが、ファイナンシャルフェアプレーがあるため、レギュラークラスからバックアッパーに至る全てを一度の移籍市場で買いそろえることは難しい。

CL3連覇の原動力となったモドリッチ、ラモス、マルセロらが、その王者のDNAを若手に継承する必要がある。現所属の若手と中堅選手のうちの何人かがDNAを受け継ぎ、新加入のスター選手と合わさることで、ようやくマドリーの次の時代が始まる。そのための時間はそう多く残っていない。