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フランス復活とドイツ凋落、ヒントは規律と変化【2018年海外サッカー】

2018 12/30 15:00橘ナオヤ
ロシアW杯,フランス代表,ドイツ代表,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

明暗分かれた2018年

2018年、サッカー界では、FIFAワールドカップロシア大会が開催され、フランスが1998年以来となる2度目の優勝を果たした。クロアチアの準優勝、日本のベスト16など快挙やサプライズがあった一方で、南米の強豪やスペインは決勝トーナメントを早期に去り、前回優勝国ドイツに至ってはグループステージ敗退に終わった。

優勝国フランスの復活劇と、前回優勝国ドイツの凋落は特に印象的だ。両国に何があったのか。共通点は「規律と調和」で、異なるのは「変化」の有無だ。

フランス チーム崩壊からデシャンの見事な再建

フランスがかつて最も輝きを放ったのは、自国開催となった1998年フランス大会で、悲願の初優勝を果たしたときだろう。続く2000年のEUROでも優勝したレ・ブルーだったが、その後は長い低迷期を迎える。

徐々に優勝メンバーが去る中、04年に監督に就任したレイモン・ドミニク監督は選手やサポーターとの間にトラブルを起こし続け、10年には選手たちによる練習ボイコットが起きた。規律と協調性を失ったフランスは、崩壊と言える悲惨な状況に陥った。

そんなフランスを立て直したのがディディエ・デシャンだ。98年大会では主将を務めた男が12年に監督として代表に復帰。既に監督として才覚を伸ばしていただけでなく、W杯優勝チームの主将として、すぐ選手の信頼を集めた。

その一方で規律と調和を重んじ、脅迫疑惑のカリム・ベンゼマや問題児サミル・ナスリを外し、若かったアントワーヌ・グリーズマンやオリヴィエ・ジルーを起用する。秩序ある集団へと変わり始めたフランスは、14年ブラジル大会で準々決勝、16年のEUROでは準優勝と着実に階段を上っていく。そして迎えた18年にはバンジャマン・パバールやキリアン・ムバッペら新戦力も器用。ベテランと若手が融合し、調和のとれたチームとなった。

デシャンが徹底する規律のもと培った戦術レベルは高く、特に守備が光った。長身で足元がうまいサムエル・ユムティティとヴァランが最終ラインの中心に入り、エルナンデスとパバールの若手がサイドに張る4バック。そして中盤のブレーズ・マテュイディ、ポール・ポグバ、エンゴロ・カンテが相手の戦術に合わせてポジションを動かしながら攻守に奔走する。

相手に合わせてディフェンスラインと中盤が変幻自在に動き、4バックが壁となりボールを奪い取る。この芸術的な守備で、ロシア大会では全7試合中4試合でクリーンシートを達成した。

また攻撃では圧倒的な存在感を放つエースストライカーはいないものの、エースのグリーズマンとルーキーのムバッペが4得点ずつ記録。ベテランFWジルーは巧みなポジショニングとハードワークで後輩のプレーを助けた。

98年時代とは選手のタイプが違うだけでなく、ジダンのようなスーパースターもいない。しかし当時の主将デシャンのもと、ルーツもプレースタイルも多様な選手たちが規律と調和によってひとつにまとまりトリコロールを頂点に導いたのは、まさに98年の再来だ。

王者の落日。あまりに不変だったドイツ

14年ブラジル大会で、サッカー王国ブラジルを7-1という驚愕のスコアで叩きのめし、決勝ではメッシ擁するアルゼンチンに勝利。ドイツらしい質実剛健で線の太いプレースタイルは残しつつ、ポゼッションサッカーを展開した。

変幻自在な動きで相手を翻弄したメスト・エジルやトマス・ミュラー、GKというポジションに攻撃参加やリベロ的役割を植え付け、革命をもたらしたマヌエル・ノイアーらは、これまでにないドイツの姿を見せつけた。さらに2017年のコンフェデレーションズカップでは若手中心で臨んで優勝。このまま世代交代も順調に進み、最強ドイツの時代が続くかと思われた。

だがヨアヒム・レーブは大きな刷新はしなかった。戦術はブラジル大会で称賛されたポゼッション重視のまま。新戦力を加えつつも、14年大会の主力9人を維持してロシア大会に臨んだ。その結果が初のグループステージ敗退。1勝2敗、僅か2得点という成績で大会を去った。

原因は「変わらなかった」ことだ。チームの中心はブラジル大会優勝の功労者たち。要である彼らが精彩を欠いていた。守備陣は守備では相手アタッカーに引きはがされ、攻撃の組み立てでも精度を欠きカウンターを招いた。守護神ノイアーは長期の負傷明けとは言え、かつてのような動きはみられない。彼の代名詞であるピンチを摘み取るプレーは見られず、むしろピンチを誘発するプレーが続発した。そして過去2大会で5得点を決めているエースのトマス・ミュラーは無得点に終わった。

彼らの不調の理由はいくつか言われるが、そのひとつにクラブレベルの停滞がある。主力の多くが所属するブンデスリーガのクラブ、特にバイエルン・ミュンヘンが、欧州レベルでは芳しい結果を出せていなかった。特にバイエルンは国内では敵なしだが、シーズン終盤に主力が負傷で離脱し、チャンピオンズリーグで志半ばに敗れるということを毎シーズン繰り返していた。今だから言えることだが、クラブレベルで擦り減っていく主力にかわる新戦力が、コンフェデ杯優勝時のメンバーから積極的に抜擢する必要があったということだろう。

4年前から磨きをかけてきたはずのドイツのポゼッションサッカーは、基本的な対策で攻略されてしまった。攻撃陣も加わってのハイプレスと、手数をかけないカウンターだ。

グループステージ初戦のメキシコや第3戦の韓国が、この教科書通りの対応でディフェンディングチャンピオンを破った。彼らのポゼッション重視のサッカーは、ブラジル大会の頃のような規律ある集団でこそ完成する。だがロシア大会でのドイツは、敗退後のエジルやエムレ・ジャンを取り巻く騒動からも明らかなように、かつてのような調和のとれたチームではなくなっていた。

選手の高齢化やプレースタイルの変化、そうした状況の移り変わりに合わせてチーム構造を変えられなかったために、グループステージ敗退という、王者の凋落に結びついたのだろう。W杯の悪夢の後、UEFAネーションズリーグでもグループB降格となったドイツ。2019年大きな変化が求められている。