チェルシー対マンCの試合での人種差別行為を警察が捜査
イングランド・プレミアリーグの12月8日にロンドン・スタンフォードブリッジのホームで行われたチェルシーとマンチェスター・シティの対戦は、ホームのチェルシーが2-0で勝利し、マンチェスター・シティが今季初黒星を喫した。
昨季わずかに2敗しかしなかった王者に土がついたというヘッドラインが駆け巡ったが、実はこの試合で、それよりも遥かに巷を騒がせる事件が起こっていた。
イングランド代表でも活躍するマンチェスター・シティのラヒーム・スターリングが、タッチラインを割ったボールを拾うために客席に近づいた際に、人種差別的ヤジが浴びせられたというのだ。
唾が飛んでくるぐらいの至近距離だったが、冷静に試合にすぐ戻り、大人の対応を見せたスターリングは、試合後「笑うしかなかった。」とコメントを発し人種差別があったことを明かした。
スコットランドヤードことロンドン警視庁も捜査を開始し、チェルシーも捜査に協力する一方、4人のサポーターを観戦禁止にするクラブ独自の処置をとり、その一人は既にこの件の影響で職を失った。
チェルシーは以前、パリ・サンジェルマン(PSG)との試合の際に、パリ地下鉄で黒人客の乗車を阻んだサポーターを観戦禁止にしたこともある。
フランスではクラブが差別行為
差別問題はイングランドだけのこと、まして観客だけに限ったことではない。
パリ・サンジェルマン(PSG)では、育成部のスカウト基準として、フランス系(白人)、マグレブ系(北アフリカ)、西インド諸島系、アフリカ系といった分類があったことが差別だという指摘がなされている。
PSGは、生年月日が不正確なことが多いことから、アフリカ系選手の獲得に消極的だったという。差別的な意識というより、クラブが選手育成に投資する以上、将来性を見定めるために、実際の年齢や背景を知ることは大事だと考えたのだろう。
このような風潮があるため、どうしても欲しいアフリカ生まれの選手を西インド諸島系だと報告していたこともあったとされる。動機が何であれ、フランスでは、人種、信念、民族性等の個人情報を収集してはならならず、捜査が行われることになった。
スターリング、グアルディオラ監督も改善を訴え
スターリングの件は、本人が問題解決を社会全体に訴えたことで大きく注目を集めたが、実はそのわずか6日前、12月2日に開催されたアーセナル対トッテナム・ホットスパーの北ロンドンダービーでも、アーセナルのガボン代表FWピエール=エメリク・オーバメヤンにバナナの皮が投げられ、トッテナムサポーターが逮捕さればかりだ。
マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は、「スターリングは素晴らしい人間だ。人種差別は、サッカーで注目されるが、そこら中にある。21世紀だというのに、イングランドだけではなく、あらゆる場所で改善していくことを望む。」と語った。
スターリングと同じくジャマイカ生まれで、リバプールに所属していた1988年、エヴァートンとのマージ―サーイドダービーで、バナナにヒールキックをしたことで知られる元イングランド代表MFジョン・バーンズ(55歳)は当時を振り返る。
「1980年代、人種差別は、社会やサッカーの一部として受け入れられていた感がある。黒人選手には決まって人種差別のチャントが浴びせられ、バナナが飛んできた。黒人には、日々、目に見えないバナナの皮が投げられているのだから、実際にバナナが飛んできても驚きはないね。」
80年代当時と比べて、現在では人種差別の取り締まりは厳しくなった。差別が確認されれば本格的に捜査が行われ、ビデオカメラ等のハイテクや読唇術が駆使され、証拠が集まる。また、人々の注目を集めるスポーツでは、有名選手への人種差別は大きなニュースとして扱われる。
サッカーは人種差別撲滅運動の最前線
しかし、なぜサッカーで人種差別がこれだけ表面化するのか。
サッカーの観客はサポーターと呼ばれ、チームと共に試合を戦っている。プレーで貢献出来ない彼らは、味方への声援、相手に対するブーイングや威圧等で試合に影響を与える。
そして、相手の痛いところを突きたいがために、差別的な心ない言動が一部で噴出してしまう。また、人々の心に潜んでいることが、勝負で感情的になった場面で表面化しているという事もあるだろう。
そこで過ちを犯すと、今回の様に手痛い処罰が待ち受けており、当事者だけでなく社会全体で問題意識が共有され、教訓として残される。
ブラジル代表歴のあるダニエウ・アウヴェスは、バルセロナ所属当時、試合中にもかかわらず飛んできたバナナを拾い上げその場で剥いて食べ、試合にも勝利した。
非常にユーモアあふれる平和的な抗議活動であり、その後はサッカー選手の間で、次々にバナナを食べるパフォーマンスによる支援の輪が広がった。
サッカーが人種差別まみれという印象を与えているが、それは、他の競技に比べ多くの国、多くの人種が参加するスポーツであり、その状況に在って決して差別を黙認せずに徹底して平等を目指す姿勢が共有され、問題が起きれば必ず告発されるからだ。
サッカーは社会を代表した人種差別撲滅運動の最前線であり、選手は体を張った人権活動家でもあると考えることが出来るのではないだろうか。