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バルセロナとバイエルン 強豪クラブが直面する世代交代問題

2018 11/3 15:00橘ナオヤ
バルセロナ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

世代交代に苦しむクラブ、成功したクラブ

ヨーロッパの強豪クラブには優れた選手が揃い、完成されたスタイルがある。だがそれも永遠ではない。やがて選手は年を重ね、そのチームの哲学やプレースタイルを次の世代に継承させる、世代交代のフェーズがやってくる。

ドイツのバイエルン・ミュンヘンは世代交代が上手くいっておらず、スペインのバルセロナは来る世代交代を前に多くの課題を抱えている。一方で監督交代やプレースタイルの転換とともに世代交代をうまく進めたのがイングランドプレミアリーグのリヴァプールだ。

トップチームの平均年齢はバイエルンが26.6歳、バルサが25.8歳、そしてリヴァプールが26.4歳。数字だけを見るとあまり変わらないように見えるどころか、バルサが最も若い。課題となっているのは、年齢構成と若手の起用を巡る状況だ。

不調のベテラン揃いのバイエルン、夏の獲得は1人だけ

バイエルンは難しい状況にある。トップチーム登録の24人中10人が30代で、うち7人がレギュラー格だ。彼らはこれまで30代でも高いパフォーマンスを披露してきたが、今季はうまくいっていない。筆頭は34歳のアリエン・ロッベンと35歳のフランク・リベリーだ。2人はベテランになっても一級品のプレーを見せ、控えとの実力差は歴然。しかし以前からケガの多さを指摘され、今季もシーズン早々に負傷している。

またクラブ、代表で幾度もチームを救ってきた選手たちがここにきて不調に喘いでいる。守護神マヌエル・ノイアーを筆頭にマッツ・フンメルス、ジェローム・ボアテング、トマス・ミュラーらドイツ代表はシーズン開幕後も不調続き。さらにW杯で期待外れのプレーに終わったポーランド代表ロベルト・レヴァンドフスキも、疲労やモチベーションの低下が否めない。

若手筆頭のキングスレイ・コマンも負傷離脱しており、不調のベテランからレギュラーを奪えないまま。主力の多くにクラブの功労者が揃っているせいもあってか、若き指揮官ニコ・コヴァチは低調な彼らに大ナタを振るえず、効果的な若手の起用ができていない。選手の年齢構成を考えれば世代交代に動いてもよいはずだが、クラブはこの夏動かなかった。夏の移籍市場で獲得したのは1月の段階で加入が決まっていたレオン・ゴレツカだけ。

動かなかった結果、ドイツでも欧州の舞台でも躓いてしまった。急な若返りは新たな躓きになりかねないが、来夏には動きを見せないと手遅れになりかねない。

独自哲学の継承に難航するバルサ

バルサも長らくレギュラーが固定されてきたのはバイエルンと同様だ。その結果、主力と控えの実力と年齢が極端に離れてしまった。

近年は若手選手を多く獲得しており若返りに舵を切っているが、常に勝利が求められるこのチームでは、若手起用のタイミングを見つけるのは簡単ではない。特にバルサは7人の30代選手のうち不動のレギュラーが5人。イヴァン・ラキティッチ、ルイス・スアレス、ジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケツ、そしてリオネル・メッシと、世界トップクラス。彼らの代わりを務められる選手はほとんどいない。

更にバルサにはクラブ哲学の継承という問題がある。ピケ、ブスケツ、メッシはユース施設“ラ・マシア”出身で最強と呼ばれた世代。トップチームに昇格して以来、バルサの哲学を体現する存在として常にチームに君臨してきた。今後フィリペ・コウチーニョやウスマヌ・デンベレらが中心になればクラブとして強さは維持できるかもしれないが、バルサのサッカーは変わってしまうかもしれない。

スアレスやロナウジーニョといった”外様“の選手がバルサの哲学を取り入れられたのは、シャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタ、そしてピケといった手本となる”体現者“がいたからだ。バルサがその哲学を絶やさぬためには、ラフィーニャ・アルカンタラやセルジ・ロベルトらユース育ちの選手が”体現者“になる必要がある。だが彼らは主力ではあるが不動のレギュラーとは呼べず、先輩たちに比べてスケールダウンは否めない。

バルサがバルサとして世代交代するのは、他のクラブ以上に難しそうだ。

指揮官交代と共に若返ったリヴァプール

一方でどん底から若返りに成功したのがリヴァプールだ。

ユルゲン・クロップは明確な指針をもって選手の獲得と起用を続け、世代交代を成功させた。レッズの平均年齢はバイエルンと大差はないが、登録選手中30代の選手はわずかに3人。平均年齢である26歳前後の選手が多い。ジョー・ゴメスやトレント=アーノルドら20代前半の選手も主力として定着している。

レッズの若返りの根本にはチームの凋落がある。長年“ビッグ4”としてプレミアリーグ強豪チームの一角を担っていたものの、2000年代後半にはオーナーの交代や相次ぐ主力の放出や引退などで低迷、成績不振に苦しんだ。転機は2015-16シーズンのクロップの監督就任だ。彼は代名詞であるカウンター戦術「ゲーゲンプレス」を軸にチームを再構築してきた。

長身でビルドアップできるCBや攻守に献身的な中盤など、戦術上必要な選手の獲得を要請し補強もおおむね成功。またボルシア・ドルトムント時代から定評があった若手の起用にも積極的に動き、アーノルドやゴメスはもちろん、獲得直後のロベルト・フィルミーノなどにも出番を与えた。その結果、若いながらも規律と力強さのあるチームとしてレッズは生まれ変わった。

昨シーズンはCLで準優勝、今シーズンも第10節終了時点で無敗と強さを見せている。主力の若手選手が移籍でごっそり離脱するなどの事件がない限り、数年間は大きく崩れる心配はなさそうだ。

バイエルンやバルサに低迷期が必要とは言わない。だが、筋の通った再構築を進めないと、どん底がやってこないとは言い切れない。それほど世代交代は重要なフェーズなのだ。偉大なクラブほどそのハードルは高い。